02 GLOBAL PERSON

新海誠監督×川田十夢氏、母校で対談

 今、世界的に熱い注目を集めるアニメーション映画監督・新海 誠氏と、近年話題となっているAR(拡張現実)の第一人者でもある開発者・川田 十夢氏が、母校・中央大学にて対談を行いました。
 新海氏はアニメーション映画『君の名は。』を手掛けた気鋭の監督であり、2016年8月に公開されて以降、映画史上に残る大ヒットを記録して映画興行成績を更新中。国内外から高い評価を得て、数々の賞を受賞しています。一方の川田氏は、現実の風景にデジタル情報を重ねる技術「AR(拡張現実)」の開発者であり、2017年春夏パリコレクションにAR(拡張現実)アプリ開発担当として参加するなど開発者として活動する傍ら、ラジオ番組でパーソナリティーを務め、幅広い活躍をみせています。
 このグローバルに躍進を続ける二人が、大学生時代の日々や仕事への向き合い方、学生たちへのメッセージを語りました。

プロフィール

アニメーション映画監督
新海 誠(しんかい まこと)さん


1973年、長野県生まれ。1996年3月、中央大学文学部を卒業。ゲーム会社に入社し、パッケージやオープニングムービーを手掛ける傍ら、自主製作アニメーションを制作。2000年に退社し、2002年に監督・脚本・作画等をひとりで務めたフルデジタルアニメーション『ほしのこえ』が劇場公開。第6回文化庁メディア芸術祭の特別賞など数々の賞を受賞。2004年、初の長編作品『雲のむこう、約束の場所』では、名だたる大作を抑えて第59回毎日映画コンクールアニメーション映画賞に輝く。2007年『秒速5センチメートル』や2011年『星を追う子ども』、2013年『言の葉の庭』では海外の映画祭からも高く評価され、2012年には内閣府国家戦略室より感謝状を贈られた。2016年公開の最新作『君の名は。』では興行収入180億円を突破し、日本映画の歴代興行収入5位を記録(2016年11月11日現在)。このほか、小説の執筆、企業CMなども手掛けている。
開発者
川田 十夢(かわだ とむ)さん

1976年、熊本県生まれ。2001年3月、中央大学商学部を卒業。面接時に『未来の履歴書』を書き、大手ミシンメーカー系列会社に入社。ミシンとインターネットを繋ぐ技術を発案し、特許を取得。システム設計・開発のほか自社のWeb広告デザインや展示会のプロデュースなどを手掛け、Adobe Recordsインタラクティブ・アート最優秀賞、ミュージック・クリップ部門優秀賞をダブル受賞。2010年、デザインチーム「ALTERNATIVE DESIGN++」として独立。2013年、次世代のメディア開発を行う「株式会社トルク」を設立し取締役に就任。同社で「AR三兄弟」という名の開発ユニットを展開し、AR(拡張現実)の技術を使ったプロダクツの企画・設計を担っている。広告企画やシステムデザイン等の分野で活躍するほか、2014年よりラジオ放送局「J-WAVE」にてラジオ・パーソナリティーを務める。著書に『AR三兄弟の企画書』(日経BP社)。

新海氏と川田氏の出会い、2人を繋ぐ架け橋

※以下、敬称略

新海:十夢君との出会いは、彼がレギュラーを務めているラジオ番組に呼んでいただいたことがきっかけでした。そこで初めてお会いして、すごく楽しい人だなって思って。十夢君の番組はスタッフが一丸となって制作に携わっていて、愛が溢れていました。気持ちの良い仕事の仕方をしているな、もっと話したいなと強く思ったんですよね。

川田:僕は作品を通じて新海先輩を存じ上げておりまして、いつかお話したいなと思っていたんです。誰しも監督の作品を観ると「自分に向けられた作品なのかな」と思うように、僕もそう感じて心をわし掴みされていました。感覚が合うのかなってずっと思っていましたね。

新海:十夢君のプログラミングと僕のアニメーション制作には通じる部分があり、僕らがやっていることを十夢君は厳密に定義しているんだと思います。絵を描いたり物語を書いたりすることは感覚に近いですが、映画作りのノウハウは次第にできてきます。言い換えればアルゴリズムなわけで、人の心を掴む物語をプログラムにゆだねることも可能ではないかという感覚も、恐れではなく期待としてあります。物語は自分なりにロジックを立てるので、そこに十夢君が行っているようなプログラミングが入る余地が、僕たちの制作現場にはあるように思います。

川田:新海監督作品を見ていて、すごく思うんです。アニメと実写の大きな違いは、実写はそれがあるけれど、アニメは描いたり設定したりするまでない。まったく無いなかで、重力や風、光、影を現実みたいに施さなければいけないんですよ。プログラムでそれをやると大変なんです。「重力とは」ってところから定義しなければいけないし。新海監督作品では重力などが緻密に計算された中で映像が成り立っているんだなと、プログラミング的に見ています。

社会人としてのスタート時に抱えていた、学生としての思い

川田:学生時代は、画像編集ソフトを使って何か面白いことができないかな、とずっと考えていました。中大のCマークをつねってプロ野球チームのロゴにしてみるとか、そういうことをひたすらやっていました。
学部は商学部。請求書や領収書越しに人々の営みが見える不思議な世界です。領収書はいわば根拠ですよね。それ越しに経済の営みを作ることが面白いと思って勉強をしていました。

新海:僕は自分が何者になるのか考えていました。でも、探していたわけではないんです。探していたら何処かにたどり着けたかもしれませんが、そもそも何をしていいか分からない状態だった。だから、自分は何が好きで、何をやりたいか知りたかったんでしょうね。なんとなく若くて、足元を見ずに遠くばかり見ていました。大学で探せばいろんなことがあったはずなのに、大学は所属している場所として1つあるから、もう1つ遠い所で何か見つかるんじゃないかと思っていたんでしょう。どこで探してもきっと何か見つかったと思いますが、僕は塾でアルバイトをしていたので、そこでの人間関係とか生徒との関わりの中で、自分にとって大切なことが見つかるんじゃないかと思っていたと思います。
大学生の頃とか全身がスポンジみたいなものだから、1つひとつのコミュニケーションが次の人間関係に繋がったし、大学でぼんやり「居場所がないな」って感じていたことそのものも、卒業後に就職したゲーム会社でのチーム作りやその先の映画作りに繋がっていると思います。就職活動時は「モノは作りたい」とぼんやりとした気持ちで、ゲーム会社もその1社しか受けませんでした。頑張ろうとしている学生のお手本には、ならないかもしれないですね。

川田:就職活動に関して言えば、僕は新海先輩と逆パターンで自信に満ち溢れていて、僕くらいになると面接の時には社長が来るんだ!なんて言っていた。そうしたら、履修の計算が合わなくて留年しちゃったんですけど。でも、面接時には本当に社長が会いにきてくれたので、「僕だったらこんなの作っちゃうな」って特許を取るとか部品発注システムを作るとか話しながら、未来のことを書いて「未来の履歴書」として提出しました。ひどく怒られましたけどね。だから、ちょっと痛いヤツなんです。結果的に、それは全部実現させました。「こういうことができるな」というイメージが先にあって、それを実行させるためのヒントを日常生活の中で拾い集めているんだと思います。それまでバラバラにあったテクノロジーが集約されて、実現不可能だったことができるようになる。スマートフォンとかこれに近いと思うんですけど。作られるのを待っているシステムってあるんです。

グローバルな世界だからこそ、よりローカルに

新海:僕は直接ビジネスの場に出ていくわけではないので観客とのコミュニケーションになりますが、海外と日本の観客はある面でとても似ているし、ある面ではまったく違います。当たり前のことですけれどね。よく言われることですが、先日行ったロンドンでは、日本人より感情表現がビビットでストレート。よく笑うし、よく泣くし、叫び声を上げたりする。映画に期待する役割も違う気がします。社会的役割を映画に求めている気がして、楽しんでいるんですけど娯楽というだけでなく、「作っている人たちは何か真剣なメッセージをここに込めているんだろう」ということを大前提にしている。「社会的な役割をあなたたちも担っているんだよ」と観客に言われているような、それを期待されている緊張感がありました。
海外で作品を広めるためには、よりユニバーサルなもの、グローバルなものを作るというのは1つの手でしょう。ですが、僕が心がけているのは逆で、ローカルを突き詰めようとしています。誰にでも分かるユニバーサルな味ではなく、すごく癖の強いもの。『君の名は。』で言えば口噛み酒や組紐。桜が4月に咲いて散るとか僕たちにしか知らないものを映画に込めれば、世界の観客は喜んでくれるような気がします。もちろん僕の作品1本で映画の世界が成り立っているわけではなく、こうしたローカルを突き詰めた作品の総体で成り立つので、1つひとつの役割は足元を掘り下げることなんじゃないかなと思います。

川田:僕も海外には色々と行きますけど、役割は本当に違っている。パリコレのためにフランスで仕事をした時には、フランスの人は仕事をするうえで対等だと感じました。会場をセッティングするさい、照明の人はみんなこだわりがあって、終了予定時間がきてもずっと悩んでいる。モデルの人は「そろそろデートなんだけど」なんて言っていて、それぞれに言い分があるんです。1人の人が偉いということがなくて、いいなって思いました。映画の役割も、人の役割も、文化の差で面白いんだと思います。

なぜ、自分に自信が持てるのか。成果の積み重ねがカギ

川田:僕は1週間に1回くらい、ため息をつきながら「あー天才だな!」って思うことが本当にあるんですよね。でも、根拠があってそう思うんですよ。思いついたものをパーッと書き出して、それが形になったり期待したよりよく出来上がったりすると「俺はすごいんじゃないか」と思ってしまう。新海監督と違って敷居が低いんでしょうが。そういう病かもしれないですけど僕の中では根拠があって、イメージしたものが形になると、その都度そう思う。ですから、根拠がなければ天才とは思えないと思いますよ。何もないのに俺は天才っていうのは痛いですけど、自分に課したものを自分なりにやってみて、結果そう思うならそうなんじゃないですかね。それをとがめる人はいないです。

新海:最近拝見した映画で、頭の中にあるうちは傑作という台詞が出てきました。頭の中にあるアイディアの段階なら映画作りでも「すごいものになる」と思うんですけど、それを形にしないと誰にも観てもらえないわけで。アウトプットすると頭の中の傑作より少しグレードが下がっていきますが、アウトプットを繰り返さないと自信はついてこないですよね。頭の中で傑作を作り続けていると結構きついもので、アウトプットするハードルはどんどん上がっていく。出しさえすれば、少し楽になります。

モノづくりが続けられる理由

新海:仕事のポリシーは、その都度変わっていきます。最初の頃は、本当に自分がやりたいと心から願えるものを作ろうという気分でした。自分の内発的なものを大切にしよう、と。でも年を取っていくと逆に、「望まれたものを差し出せるようになりたい」と気持ちが変化しました。1つはっきりしていることは、頭の中で描いたことをとにかく形にし続けなければいけない。うまくいっても、いかなくても、足を止めてはいけない。足が止まると元気も自信もなくなっていくので、うまくいかなくても出し続けるしかないと思います。

川田:そうですね。作るうちに変わっていくというのは、確かにそうだと思います。僕の場合は、何かを作ると周囲から「こんなこともできるんじゃないですか」と言われる。それを要因に作るうち、自発的に作ってみたくなるんです。作り遂げるというのは、周囲から望まれるという外的要因だけじゃなくて、内発的に強いものがないとどんなに望まれても最後まで作れないと思う。外側と内側からの圧力で続けられるのがいいと思います。

今、やるべきこと。学生たちへメッセージ

川田:僕は僕しか知らないことが学生の時にあったんですよ。動物園の飼育員の人に頼んで、動物の音を採取していたんです。象が鳴く音とか。その音をプログラミングして、象のフィギュアに鼻を触るとパオーンと鳴いたり、足を触ると足音がバババッて鳴ったりする仕掛けを作っていたんです。そういうの、僕以外の誰も作っていなかったんですよ。毎日くだらないことをやっていたんですけど、そういう自分にしかできないような、僕しかやっていないし知らないなってことを、浮かれながら1個でも持っておけばいいんじゃないですかね。

新海:大学生向けのメッセージにならないかもしれないですけど、今、抱えている感情、例えば浮かれている気分でもいいし、逆に不安や焦りでも、その抱えている感情をなるべく強く感じて欲しいと思います。その記憶を内部にとどめ続けて欲しいな。
学生時代に思っている気持ちは、十夢君だったら浮かれていたのかもしれないし、僕だったら焦っていたのかもしれないですけど、その先の人生に通奏低音のように響き続けると思うんです。
必要に駆られて、その感情から引っ張ってきて何かをやり始める。仕事でも何でも。それをモチベーションにする人もいると思うし、僕みたいにあの時の焦りを作品のモチーフにする人もいると思う。今、自分を支配している感情を強く持ち続けて欲しいと思います。それが色々なものの種になるはず。
よくないのは、それを漠然と無いもののように、やり過ごしてしまうことなんだろうなと思います。不安があったとしても、その気持ちを流してしまうともったいないなと思います。