02 GLOBAL PERSON

MicroVention Terumo駐在員 卜部健治 氏×福原紀彦 中央大学学長

中央大学では、今、世界基準での大学の発展を目指し、グローバル・プロフェッショナルの育成を全学的に加速させています。
これからの時代をリードするために求められる資質とは? 海外でのビジネス経験から見えてきたこととは? 
本学卒業生で、現在、カリフォルニアのMicroVention社で駐在員として活躍する卜部健治氏と中央大学福原紀彦学長が語ります。

プロフィール

MicroVention Terumo駐在員 卜部  健治 (うらべ・けんじ )
 
1981年生まれ。中央大学附属高校、中央大学総合政策学部卒業。
2004年テルモ株式会社へ入社。国内にて5年間の営業経験を経て、2009年より4年間に渡り上海駐在。2017年、社費留学で渡米しワシントン大学でMBAを取得。2018年よりカリフォルニアのテルモ子会社MicroVention社に駐在。
中央大学学長 福原  紀彦(ふくはら・ただひこ)
 
1954年滋賀県生まれ。77年中央大学法学部卒業。95年同法学部教授。2004年同法科大学院教授。文部科学省大学設置・学校法人審議会委員、大学基準協会理事、私立大学連盟理事等を歴任。2018年より現職。専攻は民事法学(商法・IT法)。
 

「社会/会社における自分の役割を問い続ける、社会/会社のダイナミクスに乗り続ける」

▲MicroVention社の外観。2017年にWorldwide Innovation Centerを開設

※以下、敬称略

福原:
卜部さんは中央大学附属高校、中央大学総合政策学部を卒業されて、本学が誇る「グローバル人材」として活躍されております。卜部さんが現在勤務されているMicroVention社とは、どのような会社ですか。
 
卜部:MicroVention社は、1997年に南カリフォルニアで設立され、2006年にテルモ社が買収しました。脳動脈瘤、脳梗塞、脳動静脈奇形など、さまざまな脳血管の病気に対するカテーテル治療製品を開発から販売まで担い、グローバルに展開しています。買収当時130名ほどだった従業員は、今では2700名にもなり、そのうち日本人駐在員は13名です。
 
福原:MicroVention社は急成長を続ける大企業ですね。その中で数少ない日本人駐在員として、どのような仕事をされているのでしょうか。
 
卜部:研究室での研究を通じて興味を持った医療課題をライフワークにしたいと考え、テルモ社に入社しました。現在は、テルモ本社からの駐在員として経営メンバーに加わり、大型投資案件の本社提案、社長秘書業務、中長期戦略の策定、買収・提携案件、駐在員の総務など幅広く携わっております。大事にしていることは、会社の成長をいかに鈍化させずに、中長期の種まきをし続けるかということです。

福原:研究室での研究がきっかけで、テルモ社に入社されたとお伺いしましたが、中央大学ではどのような学生時代を過ごされたのでしょうか。
 
卜部:学生生活の前半は多数のアルバイトを経験し、多数のサークルに所属し、多数の国を貧乏旅行しておりました。学生生活の後半は、バイトも辞め研究室と茶道会に集中しました。総合政策学部の中でも特に厳しいと言われていた横山彰研究室に所属し、他大学との対抗ゼミ、研究会発表、個人研究に向けてゼミ仲間と研究・議論に明け暮れる毎日でした。

▲MicroVention社入り口前にて、福原学長(左)と卜部氏(右)

福原:研究に課外活動に、多様な人と交流し、多様な経験を積まれたのですね。今の世界情勢では、国境を越えて人材が交流することはもちろん、立場や考え方が異なる人たちと対話して、グローバルな視点で学ぶことがいっそう大切になっていると言えます。在学生にも、中央大学の環境を目一杯に活用していただいて、卜部さんのような経験を積んでほしいと思います。

卜部:
恩師である横山彰教授の言葉でもありますが、自分の価値観の「ものさし」を持つことが大切だと思います。それは、あらゆる事象に対しても現状分析を徹底的に行い、自分の頭と心で考え抜くことだと思います。私はその結論から得られる感性が「ものさし」だと信じています。自分の価値観の「ものさし」を持っていることは、他人の意見に流されない大事な要素だと思います。

福原:卜部さんは社会人になってからも、上海駐在、MBA留学、ロサンゼルス駐在と、多様な海外経験を積まれていますが、海外でビジネスをする上で大事なことは何だと思いますか。

卜部:特に中国駐在で感じたことですが、自分一人では何もできないという無力さを理解した上で、現地の人に頼ることです。現地の人に頼るためには、自分の事を十分に理解してもらう必要がありますし、相手の事を深く理解するためには相手の言語・文化・歴史を学ぶ必要があります。些細なことではありますが、現地社員とランチをしたり会話をしたり、家族ぐるみの付き合いをすることを心がけています。
 また、中央大学の卒業生組織である、上海白門会やLA白門会の大先輩・同世代の皆さんとの交流は、海外でのビジネス経験を共有でき、貴重な財産です。中央大学のグローバルネットワークの恩恵を感じます。

福原:個人のスキルよりも、異なるバックグラウンドを持つ相手を理解し受け入れること、そして自分を理解してもらうこと、そのコミュニケーションが大切ということですね。学生時代の多様な経験が活きているのだと思います。

卜部:また、家族との時間を大切にしております。家族と夕食を一緒にしたいと考えているため、夕方に残業をすることはありません。そして、一日置きに娘のお風呂と寝かし付けもしています。そのぶん、日の出より前に会社には出社しています。週に一度は娘を幼稚園に連れて行き、園での様子を先生から聞くようにしています。慣れない海外での生活は妻と娘にとっても挑戦ですが、家族が安泰であることで、仕事に集中し、パフォーマンスを最大限に上げることができると思っています。

▲本社に併設された手術室で医師から製品評価を受けられる

福原:日本でも働き方改革が進められていますが、日本人の働き方に一石を投じる部分がありますね。他にも、海外の企業と日本の企業との間での違いを感じたことはありますか。

卜部:
:MBA留学時代に、日米多数の経営者と面談をしました。一般的にも言われているように、特に合意形成の速さについては、日本の企業と海外の企業で差を感じます。これまでは合意形成プロセスに差があることが問題であると考えておりました。しかし最近では、経営者の持つ知識の深さとネットワークの広さにも差があることを実感しています。

 この1年、社長のすぐ近くで仕事をさせてもらって感じたのは、経営者は、経営判断に揺るぎない信念と責任を持っているということです。その裏付けとなるのが、現場感覚と膨大なネットワークから得られる情報であると確信しました。一方で、ひとつの事業を行う会社の社長と、複数事業を扱う本社の社長とでは、求められる経験やスキルセットが異なることはあると思います。

福原:「プロフェッショナル」ですね。プロフェッショナルは「エキスパート」とは異なります。エキスパートは高度なマニュアルを身に着けて遂行できる人ですが、プロフェッショナルには創造性が求められます。獲得した知識を活かし、グローバルな視点と発想で自ら創りだしていかなければ、誰も答えを持っていない、誰もが経験したことのないことに対処できません。

▲脳動脈瘤治療に用いる
袋状塞栓デバイス

卜部:常に時代の「うねり」がどこで形成されているかに着目し、意識して近づくことが重要だと思います。私がMBA留学していた当時は、"Disruption"という言葉が流行り、AmazonやUberがこれまでの産業を再形成する現実を目の当たりにしました。私も日本にいた時は、ヘルスケア産業も同じように"Disruption"が起こるのでは?と、漠然と危機感を感じていたことを覚えています。幸い、留学先のシアトルにはAmazonやMicrosoftの本社があり、"Disruption"の「うねり」がまさに形成される現場でした。最先端の現場で、人々が何を起こそうとしているのかを自分の目と耳で確かめることができて、得体の知れない不安を払拭する良い機会となりました。そのときの知識やネットワークは、まさに今、ロサンゼルスの地で活きています。

福原:"Disruption"、直訳すると「崩壊」ですが、ビジネスの世界では「破壊」という意味になるでしょうか。今までの物を破壊して、新たに創造する。そしてそれがスタンダードになっていく。その「うねり」を見逃さないことが重要だということですね。

卜部:私は日本の企業を誇らしく思います。というのも、私が働いているテルモ社は設立から間もなく100年を迎えますが、同じように長く続く日本企業は多数あります。何世代もの経営者が時代の変化に適応し続け、また新しい事に挑戦し続けてきたから長寿企業が生まれたのだと思います。少子高齢化に伴い、内需が縮小する時代の変化に対しても、堅実な経営と世界に挑戦し続けるマインドは失うべきではないと思います。

福原:日本の企業の海外進出もさらに進んでいますね。日本で学び、仕事をし、生活していても、いっそうグローバルな視点で考え、行動しなければならない時代を迎えています。
海外で、日本人に期待されていると感じることはありますか。

卜部:
ビジネスの世界では、日本人に期待されていることはほとんどないと言ってよいでしょう。というのも日本人というよりは、個人で見られるからです。自分の存在価値を示していくことが大事だと思います。一方でアメリカでの生活では、日本人に対する信頼は高いと感じます。その背景には、日系アメリカ人の皆様が乗り越えられた困難と信頼獲得の歴史であったり、高度経済成長期に市場を開拓した日本人駐在員の歴史の功績かと思います。そのような諸先輩方のおかげで、現在の快適な生活があることを忘れてはならないと思いますし、後世の日本人のためにも恥ずかしくない行動をとる必要があります。
福原:ご指摘、ありがとうございます。日本にいてはあまり気が付きませんが、海外で生活するからこそ感じる、貴重なことだと思います。
 それでは最後になりますが、これからの未来を切り拓いていく、将来のグローバル・プロフェッショナルに向けて、一言メッセージをお願いいたします。
 
卜部:私が仕事で行っていることは、大学時代の研究と何一つ変わっていません。問題意識を持って社会/会社の抱えている課題を考え続けます。現状分析を徹底的に行い、その解決策を考えます。自分が関わって解決するのであれば自分が動くチャンスだと思います。そして、恥ずかしがらず自分の想いを発信し続けることが重要です。自ずと賛同者が現れ、未来を導いてくれます。
 
福原:卜部さんのように世界で活躍されている先輩がいることを心強く思います。ご指摘があったように、学生のみなさんには、自分の軸を持ち、行動する知性を磨いて、自らの未来を拓いてほしいと思います。卜部さん、貴重なお話しをありがとうございました。

 テルモ社では、ベルギーに本社を置くテルモヨーロッパ社取締役社長の国元規正さんも中央大学卒業です。 国元さんからもメッセージを頂いておりますので、ご紹介いたします。

「海外で働くことを夢見る皆さんへのアドバイスとしては、いざという時の夢の実現に向けての努力をコツコツと続けていただきたいということです。英語はもちろん、第二外国語も、そして、歴史、宗教、哲学など、好奇心と向上心を持って本を読んだり、旅行をしていろいろな人に会って、さまざまな経験を積んでおいてください。
“Chance favors the prepared mind(幸運は用意された心のみに宿る)” です!」