青年海外協力隊(ブータン派遣)
【プロフィール】
堀内芳洋 氏
青年海外協力隊/平成26(2014)年度1次隊/職種:柔道
2001年度 中央大学 総合政策学部 卒業
製薬会社に就職後、学校法人津田塾大学に転職。退職して青年海外協力隊に参加し、帰国後は再び津田塾大学に就職。
柔道は中学生の頃、地元の柔道協会で始めた。高校では柔道部に所属したが、大学は一般入試で入学し、部会、サークルには無所属。
途上国で柔道に励む子どもたちの姿に心を動かされ、青年海外協力隊への参加を決意
2014年の7月から2年間、ブータンで活動をしていました。職種は柔道です。現地でスポーツを管轄しているオリンピック委員会に所属し、ブータンで柔道を広めることや選手の強化などを期待されていました。
私自身は中学から高校まで柔道をしていたものの、7、8年は柔道から遠ざかっていた時期があります。競技者として実績があった訳ではありませんが、その後社会人になってからボランティアで子どもたちに柔道を教えるようになったことで、勝ち負けだけではなく、柔道の教育的な側面について考えるようになりました。
同時に、柔道の世界的な広まりに関心を抱き、旅行を兼ねてアジアを中心に海外の柔道場を訪ねるようになりました。そこには貧しくてもひたむきに練習に取り組む子どもたちの姿があり、どの国でも「日本から柔道家が来た!」と笑顔で歓迎してくれました。そういった光景を実際に目で見て柔道の新たな魅力に気づき、次第に海外で腰を据えて柔道を教えてみたいと思うようになったのです。
青少年教育の一環として始まったブータンの柔道。普及活動が実り、競技人口が増加
ブータンという国については、東日本大震災後に初の国賓として日本を来訪されたワンチュク国王夫妻の姿が皆さんの記憶にあると思います。ヒマラヤ山脈の東端に位置する人口わずか76万人の小さな国ですが、とてもユニークな国です。国の豊かさを経済成長の度合いではなく、国民の幸福量を指標として追求するという概念を掲げ、伝統的な文化や人々の考え、自然環境に配慮した政策の発案と実現に努めています。一方で、近代化や首都への急激な人口流入にともない、様々な社会問題にも直面しています。そのような現状を憂慮して2010年に新たに設立された学校では、青少年の心身の育成を目的として柔道が取り入れられました。これがブータンの柔道の始まりです。
私が柔道の指導者としてJICAから派遣されたのは、設立から4年目の頃で、その学校の生徒や近隣の小中高校生15~20名くらいが柔道クラブに参加していました。
派遣後にまず取り組んだのが、子どもたちの体力づくりです。ブータンでは日本と違い体育や部活動が一般的ではないので、縄跳びや器械体操、ボール遊びなど柔道以外のアクティビティを積極的に取り入れ、生徒たちが楽しみながら基礎的な体力を身に着けられるように工夫をしました。
次の課題は対戦相手でした。柔道クラブが国内にひとつしかなかったので、対外試合を行うために近隣国への遠征を企画しました。コンスタントに目標を設定することで、生徒たちのモチベーションがアップし、選手強化に繋がっただけでなく、柔道を通じた国際交流を実現することができました。
そして、それらと並行して行ったのが、国内で柔道の知名度を上げるための活動です。街のイベントや学校にマットを運び、柔道とはどういったものか、というデモンストレーションを積極的に展開しました。
こうした活動がブータン国内や日本で新聞、ニュースに取り上げられ、ブータン柔道の知名度は飛躍的に上がりました。

さらにそういった普及活動の甲斐もあって、日本から中古の柔道衣や畳などの寄付を集めることもできました。実は日本で働いていた時は広報の仕事をしていたので、柔道の指導以外にも、これまでの社会経験を活動に活かすことができたと思います。
任期の終盤には念願であった2番目の道場を開くことができ、ブータンの柔道競技人口はのべ100人以上に増えました。そして、2年間の活動の後、2016年8月にはブータン柔道協会の国際柔道連盟(IJF)への加盟が正式に決まりました。実は来週、香港でアジアカデ&ジュニア大会があり、ブータンにとって初めての公式国際大会に、私もコーチとして参加する予定です。
大学生活だけでは巡り合えない出会い、知りえない経験を得られるJICAボランティア
JICAボランティアの最大の魅力は出会いです。広い世界に2つ目の故郷ができるような感覚です。さらに派遣前に国内で行われる70日間の訓練では、これから世界各地に派遣される、さまざまバックグラウンドを持った幅広い年齢層の仲間たちと出会うことができます。JICAボランティアを通じて得ることのできたさまざまな出会いと経験は、生涯の財産になると思います。
私がJICAボランティアに参加したのは、34歳の時です。将来に不安もありましたが、帰国後に改めて就職活動を行い、第一希望であった大学職員や県の職員などに合格しました。しっかりと目的をもって活動しその経験をアピールすれば、高く評価してもらえますし、その経験を活かす場所はたくさんあると思います。
学生の皆さんはまだまだ若いので、国際協力に関わる気持ちを持っているなら、積極的にチャレンジして欲しいと思います。