05 REPORT

【文学部心理学専攻】マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC®)8週プログラムが開催されました

2020年03月05日

▲講習会の中で瞑想を実践する様子。左から富田教授、大宮兼任講師。
受講者のプライバシーに配慮し画像を加工しています

 「マインドフル・セルフ・コンパッション」(Mindful Self-Compassion®、以下:MSC®)は、マインドフルネスと心理療法との統合的アプローチの先駆者であるクリストファー・ガーマー博士(ハーバード大学医学大学院)と、セルフ・コンパッション研究のパイオニアであるクリスティン・ネフ博士(テキサス大学)の2人の心理学者によって2012 年に開発されました。

  MSC® は、マインドフルネスとセルフ・コンパッションを合わせたスキルであり、感情的なウェル・ビーイングの能力を高めるためのプログラムです。臨床の現場に取り入れてみたい、自身のセルフケアに使ってみたい等、心理職に従事する方々からも注目され始めています。
 
 2019年10月19日~12月14日毎週土曜日の午後、中央大学多摩キャンパス4号館心理相談室にて、「マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC®)8週プログラム」が開催されました。これは、誰にでもわかりやすくMSC®を学べるように開発されたプログラムです。
 指導とファシリテーターを中央大学文学部心理学専攻教授 富田拓郎と同学部兼任講師/上越教育大学大学院 臨床・健康教育学系助教 大宮宗一郎が担当しました。両氏は、MSC®を心理療法の臨床現場に取り入れようと2018年3月に渡米し、ガーマー博士とネフ博士の元でMSC®を学び、翌2019年1月に指導者養成トレーニングを修了しました。日本ではまだ数名しかいない正規の有資格指導者のひとりです。また日本の教育機関では、8週フルバージョンのMSC®プログラムを実施した機関はなく、国内の大学教員が指導者となった初めての開催となりました。プログラムには、中央大学の学生、職員のほか、心理専門職の方、一般の方など、約10名が参加しました。

「マインドフルネス」「セルフ・コンパッション」とは

 マインドフルネスは仏教瞑想に端を発し、“今ここ” での体験にただ気づいて観ることです。困難な経験(思考、感情、五感)に対して、優しさと思いやりで気づいていく第一歩となります。そして、辛いと感じた自分自身に優しさと思いやりを向けるのがセルフ・コンパッションです。マインドフルネスもセルフ・コンパッションも、人生で困難な状況にあるときに、温かくつながりながら、今この状況に気づいていくというものです。

 親しい友人が苦しんでいる時には、相手を思いやる気持ち(コンパッション)が芽生えます。MSC®では、自分自身が苦しんだり、失敗したり、イヤな気持ちになったりしたときに、思いやりを向ける先に自分を含めるというものです。こうすることでイヤなことがあっても自分を責める見方が減り、自分を大切にできるようになります。人生で難しい状況にあるとき、セルフ・コンパッションにはこころを穏やかにして、なだめて、認めるという力と、守り、与えて、動機づけを高めるという力があります。この力は相手を思いやるという誰もが持つ力を用いて、誰でも得られるものです。セルフ・コンパッションの方法を学ぶことで、相手に向ける思いやりの気持ちを自分にも広げることができます。
 
 これまでの数多くの研究ではセルフ・コンパッションが感情面のウェル・ビーイング(健康度)や困難への対処スキルを大きく高め、不安や抑うつを軽減し、食習慣や運動などの健康習慣を維持することを助け、人間関係をよりよいものとすることを示しています。セルフ・コンパッションを用いることで、よりしなやかに、自分らしく生きることができるようになります。

MSC®8週プログラムの様子

 今回開催された8週間のプログラムは、ワークショップ形式で実施されました。内容は、ワークブックに沿ったテーマから実践的なエクササイズを行い、そのリフレクション(振り返り)をグループで話し合ったり、エクササイズから気づいたことを発表するような形式で行われました。エクササイズの中には、想像や思考を駆使し、過去を振り返るなど、ときには苦痛の伴うような内容もありましたが、富田教授と大宮兼任講師のサポートもあり安心して行うことができました。また、MSC®では瞑想(宗教要素のないもの)を毎回行いますが、これにより自分の体や呼吸に意識を向ける方法を知ることできます。

 毎回3時間のクラスを週1回8週間続けるという長丁場のプログラムでしたが、わかりやすい解説、丁寧なガイドとサポートもあり、このようなプログラムへの参加が初めての受講生でも安心して受けることができたようです。そして、エクササイズと自宅課題を実践するにつれ、自分にやさしく接することができるようになったり、それまで気づくことのなかった自分を知ったり、現状を把握する力を身に付けることができたようです。さらに、受講生同士が話し合って意見を共有し合うことにより、年齢や職業に関係なく、それぞれに悩みや欠点があり、いろいろな失敗をしながらも頑張っているなど、「同じ人間として生きている」という人間の共通性を学ぶことができたようです。
 受講者の皆さんは、「自分に自信が付いた」「ここでの学びを仕事や人生に活かしたい」「これからもMSC®の実践を生活に取り入れていきたい」などと話していました。
MSC®プログラムで学べること
・ 日常生活で行なうマインドフルネスとセルフ・コンパッションの実践
・ セルフ・コンパッションの科学的裏付け
・ 自分の価値に合った生き方をするためのセルフ・コンパッションのやり方
・ 辛い感情が生じたときにより楽に過ごすこと
・ 自己批判するのではなく、優しさをもって自分の動機づけを高めること
・ 難しい人間関係に取り組むこと
・ 介護や子育ての疲労、あるいは支援専門職自身の疲労をケアすること
・ 物事を味わい、自分の良さを認めるという実践

『マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック ~自分を受け入れ、しなやかに生きるためのガイド』

『マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック』は、クリストファー・ガーマー博士とクリスティン・ネフ博士が執筆した原著『The Mindful Self-Compassion Workbook:A Proven Way to Accept Yourself, Build Inner Strength, and Thrive (2018,Guilford Press)』の日本語版です。

MSC®の公式テキストである本著は、マインドフル・セルフ・コンパッションについて、エピソード例を用いながら分かりやすく書かれており、今回の8週プログラムで使用したワークブックです。MSC®を実践するために欠かせないさまざまなエクササイズや瞑想のやり方等も学ぶことができます。心理専門職従事者がMSC®を知るための教材としても、個人がストレスフルな毎日を癒すためのガイドブックとしても役立つ1冊です。
詳しくは、関連リンクに記載の星和書店(発行元)ホームーページからご覧いただけます。
 
本著は富田教授が監訳。また、大宮兼任講師のほか、中央大学大学院文学研究科心理学専攻に在学中の菊地創(博士後期課程。臨床心理士、公認心理師)、高橋りや(修士課程)らが訳者として翻訳を担当しました。 (星和書店、2019年10月。所属・在学先は書籍刊行当時)

マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC®)8週プログラムの開催にあたって

中央大学文学部教授 富田拓郎

  プログラムでは、自分に優しく接することが意外に難しいことを参加者のみなさまと共有しつつ進めました。私自身、教えることはこれまでに多くやってきたのですが、プログラムに沿って教えることは初めての体験でした。プログラムをガイドする中で、私自身が(意外に?)自分に厳しいことも同時に気づき体現しました。指導者自らもセルフ・コンパッションを実践しつつ、参加者と一緒に創りあげるものと改めて感じています。ご参加くださった方々に、心から感謝申し上げます。
 
プロフィール(とみた  たくろう) ■中央大学文学部教授。博士(人間科学)、臨床心理士、公認心理師、MSC®講師  ■専門分野:学校臨床心理学、臨床心理学、発達精神病理学、臨床社会心理学、トラウマ心理学  ■担当科目:(学部)学校臨床心理学、教育相談・カウンセリング論、(大学院) 学校臨床心理学特殊研究Ⅰ・Ⅱ、心理学基礎理論Ⅰ・Ⅱ、発達臨床心理学特講、臨床心理査定演習Ⅱ、臨床心理実習A・B

中央大学文学部兼任講師 大宮宗一郎

 今回の8週間プログラムは、私が講師として初めての取り組みでチャレンジングな体験でした。参加者のみなさまと一緒にプログラムを作りあげた時間は、参加者のみなさまとの一期一会の出会いによって紡ぎ出された時間であり、私にとって何にも代えがたい時間でした。参加者のみなさま、そして、この出会いに心より感謝申し上げます。この記事をお読みになり、参加を迷われている方は、ぜひご参加ください。お目にかかれる日を心待ちにしております。

プロフィール(おおみや そういちろう) ■国立大学法人 上越教育大学大学院 臨床・健康教育学系助教、中央大学文学部心理学専攻兼任講師。博士(医学)、臨床心理士、公認心理師、MSC® 講師
■専門分野:臨床心理学、犯罪非行心理学、学校臨床心理学  ■担当科目:(学部)教育相談と進路指導、(大学院)犯罪心理学特講

今後のプログラム開催の詳細については、富田教授のTwitter、「Mindful Self-Compassion Japan」の Facebook、
または、米国「Center for Mindful Self-Compassion」のホームページ(英語)に、決まり次第アップされる予定です。

前へ

次へ