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ハラスメント防止啓発講演会
「外国人の法律問題 -多様な国籍の人と共に生きる -」

2020年12月21日

 2020年11⽉16⽇(⽉)〜30⽇(⾦)、第3回CHUO Diversity  × ハラスメント防⽌啓発 Week 2020が開催されました。
 これは、ダイバーシティセンター(2020年度発⾜)とハラスメント防⽌啓発委員会が主催したもので、「知る、つながる、⾏動する」をテーマとした、さまざまなオンラインイベントには、多くの学⽣や⼀般の⽅々が参加しました。
 11月19日(木)には、ハラスメント防止啓発講演会「外国人の法律問題 ― 多様な国籍の人と共に生きる ― 」が実施されました。
 スペイン語や英語で外国人からの法律相談にあたっている弁護士の小田陽平先生(広尾パーク事務所所属)を講師にお迎えし、日本で暮らす外国人と日本の法律との関わり等、具体的な相談例を交えながらお話いただきました。前半では日本で暮らす外国人から弁護士が依頼される法律相談の内容、外国人ならではの相談、問題となることなどについて。後半は、学生からの質疑応答の時間も設けられ、学生や外国人留学生が日頃感じている疑問、小田先生のキャリア等、多岐にわたる質問が寄せられました。この講演会は、ファシリテーターとして、中央大学総合政策学部准教授   横山陸が講演会を進行しました。

 近年、留学や、日本で働くために来日する外国人がますます増えています。国としても外国人の受け入れをますます認めています。日本人と外国人が共に暮らしていくためにも、多角的な視点が必要なようです。参加した学生たち、一般の方々は、外国人の法律相談をキーワードに、相手の立場を理解することを意識する大切さを学ぶことができたようです。

 以下で、講演会の様子をご紹介します。

「外国人の法律問題 -多様な国籍の人と共に生きる -」

 日本に暮らす外国人(在留外国人)の人数は、法務省の統計でみると、2019年末時点で約293万人です。出身地域別の割合では、アジア:約246万人(約84%)、ヨーロッパ:約8万4千人(約2.9%)、アフリカ:約1万8千人(約0.6%)、北米:約7万6千人(約2.6%)、南米:約27万6千人(約9.4%)、オセアニア:約1万6千人(約0.6%)です。
 アジアからの出身者が最も多く、次いで、南米、ヨーロッパ、北米、アフリカ、オセアニアと続きます。南米からは、過去に南米等へ移民として渡った日本人の子孫が多く来日するためと言われています。

●日本で法律相談を依頼する在留外国人の割合
 小田先生が所属する法律事務所において、外国人からの相談は、ヨーロッパや北米地域の人たちからのものが多いようです。その理由として、アメリカやヨーロッパの国々では、生活の中に「訴訟」というものが常に存在しており、司法を身近に感じている人が多いことが相談の件数増につながっているとみられます。一方でアジアからの在留外国人は、日本に暮らしている人数の割合からみると大多数なのに、相談がとても少ない。それは、アジアの国々においては、人々が訴訟を起こす機会が少ないために、司法が身近なものではないということが言えるようです。また、言葉が通じにくいことも相談をためらう理由につながっているようです。

▲講師を務めた小田陽平先生/弁護士(広尾パーク法律事務所所属)。テーマ別に上記のようなレジュメを用いて分かりやすく講義していただきました。

●外国人から依頼される主な法律相談
 外国人からの相談では、主に以下のような案件があります。基本的には日本人からの相談内容と変わらないようですが、案件の内容によっては、国際裁判管轄や準拠法(他国の法を適用するか)などが問題となる場合もあります。
1.入管関係(在留資格、退去強制手続、難民認定、仮放免手続、行政訴訟など)
2.家事事件(離婚、相続など)
3.労働問題(解雇、労災事故など)
4.その他の民事事件全般(企業法務、契約書作成、交通事故、債務整理、損害賠償請求、賃貸借問題、etc.)
5.刑事事件

 
●外国人特有の相談
 外国人依頼者ならではの特有な相談としては、①在留資格、②言語があります。
 ①在留資格とは、外国人が日本に入国して在留することを認める資格で、日本に住む外国人は、必ず何らかの「在留資格」を持っています。在留資格は、日本人の子孫、特殊技能を有する労働者、日本人の配偶者がいる場合等は、在留資格を得やすいという傾向にあります。一方で在留資格を取り消されたりして問題になってしまうケースもあります。留学生、技能実習生、難民の問題を例に挙げると、留学生がアルバイトを週に28時間を超過すると在留資格が認められなくなる、技能実習生と受け入れ先企業との間でのトラブル、日本は世界でも難民認定の厳しい国で1万人の申請のうち20人しか認められない、というような現実があります。これらの中には社会問題となるケースもあるようです。
 ②言語については、相談者の中には日本語も英語も話せない、英語が話せても法律の問題となると母国語でないとうまく伝えられないケースがあります。通訳を利用することもできますが相談時だけしか利用できない上、通訳者は法律の専門家ではないために、依頼者からの相談について直接のコミュニケーションを取ることが難しいといった問題があるそうです。言語能力が壁となり、司法相談をすることをためらう外国人も多いようです。
●まとめ
 日本に暮らす外国人は、労働力としてもこれからの日本社会にとって大切な存在です。日本社会としてもますます外国人を受け入れています。それに伴って、トラブルも増えてくることでしょう。
 外国人と日本で共に暮らしてゆける社会をつくるためには、多角的な視点に立ち、いろいろな人の立場を理解していくことが大切です。この講演の内容をきっかけに、外国人や日本人だからという視点ではなく、同じ人間として他者を理解し配慮することを意識してみてください。

▲外国人の出入国管理、在留管理、人材の受け入れ、難民認定等、外国人関連の行政事務を管轄する法務省の外局

▲日本に中長期間在留する外国人(中長期在留者)に対して交付されるカード。氏名、生年月日、性別、国籍・地域、住居地、在留資格、在留期間、就労の可否などが記載されている

▲外国人が法律相談をためらってしまう理由のひとつとして、大きな壁となるのが”言葉”の問題

<Q&A>弁護士 小田陽平先生に聞いてみたいこと ~「外国人の法律問題」を受講して

・どんな国からの難民が多い? 日本では難民数が少ないのはなぜ?
難民申請をするのは、政治不安定な国が多い。アフリカの国やアジアからはミャンマー、スリランカ、イランなど。日本の難民認定数が少ないのは、日本の審査が非常に厳しいからです。
・世界中にはさまざまな宗教があるけれど、宗教が判決に影響することはある? 
宗教を差別することは憲法違反になります。法律では宗教は切り離されています。
・日本で働く外国人の中には安い賃金で働いている人が多いと思う。法律事務所に相談したくても相談にはお金がかかるとためらう人が多そう
確かに法律事務所の相談には費用も発生しますが、国の定めた「法テラス」制度があって、相談だけなら無料でできるシステムもあります。
・私は在日韓国人ですが、他の永住権を持つ外国人との違いはありますか?
在日韓国人は特別永住者といいますが、在留者カードを持ち歩く必要がないですし、出入国時に日本人と同じように扱われています。そういう意味で、日本人にほぼ近い存在とされています。
・私は日系ペルー人の学生で、日本帰化を視野に入れています。国籍取得のハードルが高いので迷っています
日系人の場合は日本国籍は取得しやすいです。経済的な基盤を作って長期暮らすこと、当たり前の生活をすれば大丈夫ですが、高度人材資格を得ればさらに確実性は増します。
・小田先生のキャリアについて。弁護士を目指した理由は?  いつから勉強しましたか?
大学ではスペイン語を専攻していましたが、一般教養で受けた法学の授業がおもしろいと思ったのが法学との出会いでした。論理的な学問が自分に合うような気がしたし、社会にとって重要な分野です。社会や人にダイレクトに、人の人生にも直接関われるような仕事をしてみたいと思うようになり、法律家を目指しました。大学を卒業した後に法科大学院に進学して学びました。
・外国人の弁護をする上で難しいことや心がけていることは? 
難しいのは出身の国や地域によって習慣が違うこと。それでも人柄を見てみると、日本人も外国人もそれほど違いはありません。依頼者の人柄を意識するようにしています。 

そのほかにも、外国人同士の夫婦・日本人×外国人夫婦の離婚、外国人の労働や解雇等について、移民問題について、海外の法律について、さまざまな質問がありました。


●プロフィール:小田陽平先生(広尾パーク法律事務所ホームページより)
■学歴・経歴|東京外国語大学欧米第二課程スペイン語学科、関東学院大学法科大学院を経て、2014年弁護士登録。都内事務所を経て、弁護士法人東京パブリック法律事務所外国人・国際部門において、スペイン語、英語を使用して、中南米を始めとした、幅広い地域の方々に関する国際的な案件を扱っています。2020年広尾パーク法律事務所入所。 
■取扱分野|企業法務、民事事件(労働事件、家事事件、相続、交通事故、不動産・賃貸借関係、損害賠償請求、債務整理、その他一般民事事件全般)、刑事事件、行政事件・手続(入管関係、税務関係)等  ■使用言語|日本語、スペイン語、英語 ■所属団体|東京弁護士会リーガルサービスジョイントセンター、外国人ローヤリングネットワーク 

日本に暮らす外国籍の人々が抱える問題について考えてみよう  ~中央大学 総合政策学部教授 横山陸

 中央大学にも、留学生や外国出身の教員、さらに日本で生まれ育ったが、外国にルーツがある学生や教員がたくさんいます。今回の講演会を通じて、日本に暮らす外国籍の人々が抱えるさまざまな問題には、在留資格と言語の違いが関わっていることが分かりました。たとえば、大学生であれば、サークル活動で出費が増えても、在留資格に就労時間の制限があるので、アルバイトの時間を増やせない。また、サークルの仕事を本当はこれ以上引き受けたくないが、自分の考えや気持ちを日本語で上手く表現できないので、仕方なく引き受けている、といったこともあるかもしれません。また会社の同僚であれば、在留資格で就労できる業種が限られているので、いまの会社がいやでもすぐに辞められない。会社で理不尽なことがあっても、黙って我慢するしかない、ということもあるかもしれません。
 日本人同士であれば何でもないことが、日本に暮らす外国籍の人にとっては、在留資格や言語の違いのために大きな問題となってしまうのです。こうした点を理解しないで、「本人が嫌だと言わないから」といって、サークルの仕事を頼みすぎてしまったり、会社の仕事を何でも押しつけてしまうと、それはハラスメントになってしまうかもしれません。自分ではそんなつもりでなかったのに、自分の言動が相手を困らせ、傷つけてしまう。これは、よくあるハラスメントのかたちです。そうならないためにも、在留資格と言語というポイントから、日本に暮らす外国籍の人々が抱える問題について、いちど考えてみてはどうでしょうか。
プロフィール:横山 陸(よこやま  りく) 中央大学 総合政策学部 准教授。
■東京都出身。1983年生まれ。2008年早稲田大学第二文学部卒業。2011年一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。2018年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。ドイツ・フライブル大学助手、日本学術振興会研究員などを経て2019年より現職。
■現在の研究課題は、哲学的人間学の観点からの応用倫理(生命倫理・動物倫理・環境倫理)の統合的な説明モデルの構築、社会制度における感情の役割と可能性の哲学的分析などである。著書に『Der Begriff der Person in systematischer wie historischer Perspektive』(ドイツ語共著、mentis-Verlag 2020年)、『教養としての生命倫理』(共著、丸善出版2016年)など。翻訳に『生命倫理学−自然と利害関心の間』(ビルンバッハ著・共訳、法政大学出版局2018年)など。

CHUO Diversity × ハラスメント防⽌啓発Weekについて

 中央⼤学では、多様な背景をもつ⼈びとが、ともに学び、ともに働くことのできる環境づくりに向け、ダイバーシティの推進とハラスメント防⽌啓発に努めています。CHUO Diversity × ハラスメント防⽌啓発Weekは、学内での取組みの活動の蓄積を広く学内に共有するとともに、ダイバーシティ推進とハラスメントに対する意識・認知度を⾼めることを⽬的として開催されています。

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