02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン インタビュー Vol.008

社会的な基礎力という土台があってこそ、グローバル化に対応できる

太田 英昭さん

太田 英昭さん | 株式会社産経新聞社代表取締役会長

法学部 1969年卒業
[掲載日:2016年2月17日]

将来の夢を近付ける、人としての力強さ

 グローバル。グローバル化は、素晴らしいことですね。世界に通用する人材が求められている。グローバル化、グローバル・スタンダード……。名だたる企業がこのグローバル化という波の中でビジネスを展開し、必死に頑張っています。
 しかし、グローバルという表面的な部分だけを取り沙汰して、単純に「TOEICでこれぐらいスコアを取らなきゃいけない」というような流れは、私はどうかと思います。グローバル化に乗るなと言っているわけではありません。これから先、訪れるであろう課題を乗り越えるために、必要な能力は何なのか。それは自分がやりたいこと、希望していることによって違っているのではないか、と言いたい。決してグローバル化の否定ではなく、その前段階で「一個人として力強く成長して欲しい」というのが、私の基本的な考えです。その成長のために、私が考える社会での心得をご紹介していきたいと思います。

グローバル化を前にして、身につけるべき力とは

 まず1つ目。「講義を聴く時、会話をする時は適度にうなずく等のリアクションを心がけ、時にはメモをとること」。私の経験では、2、3割の人はあまりしないように思います。リアクションがないと、話している相手は「本当に聞いてくれているのかな?」「私の話に納得していないのかな」と、話せば話すほど不安になるでしょう。要するに、人というのは人に認証されたいという願望があります。それによって勇気づけられたり、元気になったりする。もちろん、発信しないとコミュニケーションは成立しませんので、自分が何者であるかも相手に伝えます。誰かと一緒に仕事をする時、相手が何者か分からなければ仕事がしにくいですよね。社会の中で生きていくならば、部活、アルバイト先、会社といった様々な形のコミュニティからは逃れられません。その中で、「この人は信頼できる人だ」「分かってくれる人だ」「ちゃんと聞いてくれる人だ」と思われるように自分がなっていれば、仕事はしやすいはずです。

 2つ目は、「危険な時代だからこそ、豊かな想像力を磨く」ということ。世界のどこかで起きていることも、他人事ではありません。今の時代、「不安のない世界だ」と思っている人はあまり多くはないと思います。ニュースを見ていても分かるように、世の中では色々なことが起こっている。例えばテロ事件や難民問題。海外の話のように思いますが、海を隔てたすぐそこに不安定な情勢の国家もあるわけで、脅威をあおっているわけでは決してありませんが、この世の中、突然、何が起こるか分からないと思った方がいい。他人事と思わずに、想像力を持って物事に備える必要があります。自分に置き換えて考えていれば、瞬間的に反応できるようになるでしょう。敏感な感覚を持って、生きていかなければならない時代になってしまったと感じます。皆さんには、感覚豊かに物事に興味を持って生きて欲しいです。

 3つ目は、「頼られる存在を目指せ」。当たり前といえば当たり前かもしれません。おいしい話には皆が寄ってきますが、面倒なことは人に押し付けるのが一般的な傾向です。しかし、損な役回りをちゃんと引き受けている人はいます。そういう人間は元気に生き残ることが多い。できる人間として仕事が集まり、やがて頼られる存在になるんです。面倒臭いと思うかもしれませんが、引き受ければ自分が鍛えられる可能性は高い。自分はプレッシャーに弱いという意識があるなら、なおさら積極的に引き受けた方がいいと思います。勝利にとらわれると身動きが取れなくなってしまうので、慎重になり過ぎないことも大切です。

 4つ目。「不条理に遭遇した時、逆境の時こそ良質の楽観主義で生きよ」。小・中学校、高校、大学、いろんな経験を経てきた中で、うまくいったこともあれば、納得いかないこともたくさんあったかと思います。しかし、そもそも世の中というのは、自分の思うようにはいかないと思っていい。世の中には本当に、常識で考えるととんでもないことをする人がたくさんいます。世の中というのは論理的ではありません。そこはハッキリ頭の中に入れたうえで毎日を過ごさないと。無理難題を押し付けられることは、これからも起きると思います。それにどう対応するかは、皆さんそれぞれ違います。一概にこうした方がいいとは言えませんが、いい意味で楽観主義であってもいいかもしれません。
 会社に就職したとして、自分がどうしてもやりたい職種があっても、そこに配属されない可能性は当然あります。しかし、自分の希望に合わないからと言って泣いていたら、自分が使い物にならないと証明するようなもの。そうではなく、それも自分の栄養になるんだろうな、というくらいの楽観主義で立ち向かって欲しいです。耐性を強めて欲しい。私は20代半ば頃に報道のニュース部におり、若手として自信満々に企画取材を手掛けて、生き生きと日々を送っていました。しかし、そんな時期に人事異動で産経新聞に出向することになった。当時、創刊して間もない夕刊紙の報道の現場です。私は新聞というメディアにキャリアもなかったにもかかわらず、です。何がどうなるか、わかりませんね。

 最後に、「こいつは、生涯の友だな」と思えるような人がいるといいですね。すべてを分かり合える相手は、自分が本当に追い詰められた時に頼もしい存在となります。また、自分もそう思ってもらえるような人間に成長して欲しいです。
プロフィール

太田 英昭

株式会社産経新聞社代表取締役会長

1946年生まれ、北海道出身。1969年に中央大学法学部を卒業し、フジテレビジョンに入社。取締役、常務取締役、専務取締役などを経て、2008年にフジ・メディア・ホールディングスの専務取締役、2012年に取締役副社長、2013年に代表取締役社長を歴任。2015年6月より産経新聞社代表取締役会長に就任した。
 

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