02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン メッセージ vol.054

挑戦で得る経験が、グローバル化に対応するための力になる

新井良亮さん | 株式会社ルミネ
代表取締役社長

中央大学法学部 卒業
[掲載日:2016年05月25日]

当事者意識を持ち、先を見据える

企業は成長戦略を持っているかどうかが重要です。持続的な成長のために、具体的な成長戦略を提示しているかどうか。就職活動を控える学生の皆さんは、経営陣の話を聞く時に「この会社はどちらの方向へ向かうのだろう」と意識してみましょう。
米企業「Apple」がなぜ素晴らしい会社だと言われるのか。「Apple」は30年ロードマップを描き、先を見据えていました。30年先のために、経営者たちが必死に議論していた。皆さんも、このように物事を考えないといけません。若い頃から部長のつもりで仕事をして、仕事の仕組み、考え方を身に付けなければいけない。「10年、20年経てばなんとかなる」というものではありません。
企業は事業が安定すると、内向きで待ちの姿勢になりがちです。これでは、やがて衰退してしまいます。自社の強みを理解し、視野を広げて外に向かう力を持たなければいけない。
グローバル化と言われても、自分たちの強みが分かっていない限りは海外で戦うことはできませんよ。挑戦する企業体質を作るには、物事をクリエイティブに考えられるかがカギとなります。机上の勉強が優秀だから社会に出てからも優秀かといえば、そんなことはありません。“実績を出してなんぼ”の世界です。日本は今、変化が当たり前に起きる状況。マーケットには多彩なニーズがあり、日本企業は国内だけでなく世界を相手にしなければならないんです。

困難な状況が発生した時、何が起きるかを予測する

日本はバブル景気が崩壊してから20年以上が経ちます。皆さんにも、こういう状況が起こりうる。そういう時に何をするべきなのか考えておいてください。
私は人事にも長くいましたが、企業は不景気になると採用を渋ります。本来ならば優秀な人材を、次の世代のために採用しなければいけない。景気がいい時は、どの企業も優秀な人材を採用したいので競争が激しくなります。バブルというものの中に現れる状況は、自分なりに理解しないといけません。
そして、こうしたことがグローバルに起きていて、日本は荒波の中に立たされています。日本の企業が、「政治、為替、世界で起きていることが分からない、何をすればいいか分からない」といって、「手堅くいることが自分たちの仕事。安定でいこう」と判断すると、チャレンジしない社風がはびこってしまいます。本来ならば、ピンチをチャンスに変えなくてはいけません。労働賃金が安いからといって、安易に海外に進出するだけではダメです。海外で人を雇用し産業を続ければ、それだけその国に技術が流出する。ですから、もっと本質的に経営資源を持ち、技術を磨いていかなければいけません。
今は物を作れば売れるという時代ではない。顧客満足を理解したうえで、顧客に感動を与えなければ。しかも、買ってもらって終わりではありません。何度も来てもらうための仕掛けをどう作るか。付加価値を付けて、「買ってよかったな」と思ってもらうことです。商品を作るということはそういうことです。
顧客のニーズを把握するために、私はお客様を見ています。そして、商品の売れ筋を見る。銀座や新宿など色んな街で、色んな時間帯に人の流れを見て、なぜこの時間帯にこの人がいるのか、何を求めているかを常に考えています。その人の服装や持ち物を見て、なぜこれを選んだのかを考えてみる。そこから見えるマーケットを作ります。何を見て、何を創造して実行していくかが大切です。こうしたことをひたむきにやらない限り、データを見ただけではどれも同じ。売れ筋商品のある、一定のゾーンしか見えてきません。そういう時に備え、違う感性を養っていかなければなりません。

行動を起こさないというリスク。経験を積むために――

大学を出ることが大切なのではなく、大学で学んだ知識を活かすことが大切です。成功体験から脱却し、挑戦していくこと。やるリスクもありますが、やらないリスクもある。やらないということは、何のノウハウも、失敗した経験も、もちろん成功した経験も残らない。まずは経験することです。そこに成長があります。多くのノウハウは、厳しい状況を生き抜くからこそ身になるわけですから、その経験を将来に活かしていきましょう。
皆さんの世代は仲間を大切にしますね。競争をしません。考え方も見方も一緒。でも、それではだめなんです。己をどう表現していくか。自分がやりたいことを上司に伝える時、またはお客様にマーケットをアピールする時、「こういうことができます」と主張していかなければいけません。日本のマーケットでは、世界を転々としてきた人たちが年配になり、お客様になっています。こうした人たちの価値観に耐えうるものを作っていかなくてはいけないから大変です。でも、それに打ち勝てれば世界と戦えますよ。ピンチをチャンスに変えてください。

プロフィール

新井 良亮
株式会社ルミネ代表取締役社長

1946年生まれ。中央大学法学部卒業。
東日本旅客鉄道(JR東日本)の前身・日本国有鉄道に1966年に入社。現場や人事を担当し、約半世紀に渡って鉄道事業を推進。2009年、JR東日本・副社長兼事業創造本部長。2011年6月から株式会社ルミネ代表取締役社長。

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