02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン メッセージ vol.056

グローバルにならなければ、もはや生き残れない。世界規模のマーケットで必要とされるには

深堀 勝博さん | ゼリア新薬工業株式会社
取締役/コンシューマーヘルスケア営業本部長

中央大学理工学部 1978年卒業
[掲載日:2016年06月27日]

環境の変化に強くなるため、リスクを分散する

皆さんは卒業後、起業する方もいれば家業を継ぐ方もいるかもしれませんが、多くの方は企業に就職することと思います。その職業を選択する際や就職時に、少しでも役に立てばと思いお話しさせていただきます。
私は78年に理工学部を卒業しました。あまり大学には行きませんでしたが、友人たちに支えられて何とか4年間で卒業し、ゼリア新薬に入社しました。今でも覚えているのが、役員面接の時に「あなたは英語は大丈夫ですか」と聞かれたこと。おそらく私の成績を見ながら質問しているのだと思いますが、まさか大丈夫ではないとは答えられないので「大丈夫です」と答えて入社しました。今は採用する立場にありますが、基本的には大学の成績を見ているわけではありません。ガッツがあるとかコミュニケーション能力があるとか、そうした部分を話しながら見て、採用させていただいています。
簡単に当社をご紹介させていただきます。東京に本社を置く製薬会社のほとんどは東京・日本橋に集中していて、当社も日本橋にございます。業界では中堅と言われており、海外の売上高は現在2割程度。事業は大きく分けて2つ、医療用医薬品事業とコンシューマーヘルスケア事業があります。医療用医薬品というのは、病院で処方箋される薬です。一方、コンシューマーヘルスケアはドラッグストアで販売していただくような医薬品、医薬部外品などを指しています。事業の割合としては半々くらい。そのどちらかに重点を置いてらっしゃる企業が多い中で、当社は比較的珍しい会社だろうと思います。その分、環境の変化には強い。保健制度の改正や景気の変動が影響するので、事業が複数あった方が環境の変化に強いと思います。
製薬産業の未来についてお話します。先進国では虚血性心疾患、脳卒中、心筋梗塞などの疾患が死因のトップになっています。一方、所得の低い国、医療が発達していない国では感染症が原因になっている。こうした国に医療を提供すれば、感染症で亡くなる人は減ります。世界の医療費の8割は先進国が使っていますが発展途上国の比率が徐々に上がっていますので、こうした地域が今後のマーケットになるわけです。製薬産業としては、日本だけではなく海外でも利益が出せるので、製薬企業によっては浮き沈みがあると思いますが、製薬産業全体は沈まないというのが私の考えです。

業務改善という意識がもたらした、入社後の博士号

勉強熱心な学生ではありませんでしたが、理科系だったので「何か物を作ろう」と思い、メーカーの工場、いわゆる生産を選びました。
今から30数年前ですから、当時の日本ものんびりしていた頃なのかと思います。工場で軟膏剤の製造を担当していた頃、随分と時間に余裕がありました。そこで、仕事中に薬学書や、今でも役に立っている統計学の勉強などを勝手にしていました。当時、働いていた方たちにとっては普通だったかもしれませんが、私からすると改善の余地が多々あり、昼休みや就業後に上司をつかまえて「ここは何か変じゃないですか? こうした方が効率的じゃありませんか?」というようなことを毎日、毎日、言っていました。採用された事もいくつかあると思いますが、大概は「うるさいぞ」と思われていたでしょう。
数年して研究所に異動になりました。基本的には、大学院を卒業した人たちが研究や開発をしています。現在もそうです。ですので、私は研究所の中では異色だったと思います。研究所では薬や栄養剤などを作っていました。有効成分を配合すると、例えば時間の経過とともに効き目が弱くなったりします。もちろん研究段階の話ですから市場に出回ることはありませんが、研究者たちは有効成分を安定させるために一生懸命にチェックするわけです。これが、非常に時間がかかる。そこで思いついたのが、文献検索です。一生懸命に文献を検索しますと、自分が困っていることは既に過去の人が困っていたらしく、「こうするといいですよ」と学会発表があったり、論文で取りまとめられていたりします。
当初は日本語だけを選んで読んでいましたが、自分たちのレベルが上がってくると海外で行われた研究論文や報告の方が進んでいると分かり、英語の論文も読むようになりました。これらを読めば、余分な実験をしなくて済むわけです。論文と同等のことができるようになると、自分たちも新たな発見をします。新しいことを見つけ、次第に特許を出願するようになりました。更に「自分たちの力を示してみたい」と学会発表や論文の投稿も始めました。初めは日本語で書いていたのですが、英語で書けば海外の人にも当社の名前、技術レベルを知って貰えるので、英語の論文も書きました。
すると上司から、博士号、いわゆるドクターを取ってみたらどうかと言われました。当時は大学院で修士課程を修了した人を採用し、薬学部のドクターコースに入れて学位を取得させて職場に復帰させる、ということもしていました。私の場合は大学院も行っていなかったし、そうしたことに興味もなかったのでお断りをしていたのですが、上司から「親が喜ぶよ」と言われまして。
「そうだったのか、確かに親戚に博士は見当たらないし親が喜ぶかも」
そう思って、学位を取ることにしました。朝起きて、論文を書いてから仕事に行き、昼休みに論文を書いて、仕事から帰宅してまた論文を書く。土日になると朝から晩まで書き、1年で5本くらい仕上げました。周囲からは大変そうに見えたかもしれませんが、自分の論文が学術誌に載り会社の名前が出て面白く感じていました。こうしてドクターを取った時、恩師が私に「ドクターというのは足の裏の米粒のようなものだよ」とおっしゃいました。取らないと気持ち悪いけれど、取っても飯は食えない。面白いことをおっしゃるな、と思いました。ドクターを取ってよかったと思うのは、私の名刺には取締役営業本部長と書いてあるのですが、その上に薬学博士と書いてあるので、初対面の方に名刺を渡した際、何か研究らしいことをやった人なんだろうと思ってもらえます。そのほか、ヨーロッパでビジネスをする時には、ドクターという肩書を持っていると話を真摯に聞いてもらえるメリットがあるように思います。
研究職や開発職を経て現在は営業ですが、就職する時に営業だけはやりたくないと思っていました。プロダクトの周辺で仕事がしたかったんです。しかし、社長から電話がかかってきて、「君を開発職で取締役にするのは難しいから、営業にいってくれないか」と言われたんです。開発には既に何名か取締役がいました。取締役になりたいと考えていなかったので、何度もお断りをしたのですが、今、営業をやっております。これが、やってみるとなかなか面白い。研究職だった時代、課長になった時に人事部に言ったセリフが「営業なんかいなくても売れるものを作ってみせる」でした。そして、日本で初めての薬を発売したのですが、さっぱり売れなかった。結局、どんなにいい薬を作っても、消費者にお知らせしてお届けする仕組みを作らないと、製品がいいだけでは売れないということがよく分かりました。

大きなことを成し遂げるには、周囲の協力が必要

リーダーとは何か。多くの人間を1つの方向に束ねられる人だそうです。リーダーの基本的条件は、信頼に基づき自らの意思でついてくるフォロワーがいること。プレーヤーとして能力が高いので個人で成果が出せ、社長等に任命される可能性が高くなります。ところが、こうした人の一部には何でも自分でやろうとする人がおり、そうすると、1人の人間が出来ることは限られていますから大きなことができない。一方で、プレーヤーとして能力が高く、他人の助けを借りられる人は1人で出来ないことを成し遂げられます。私の場合はその中間ぐらいで、何でも自分でやろうとするんですが、だいたい自分で出来ないから皆に押し付けて「これやって」という感じです。今、若い人たちを見ると自分の意志を言わない人が多く、皆と同じことをしようとします。自分なりに違いを感じることもあると思うのですが、そうした時に議論をすることが少ないと感じます。できれば、そうした時に自分の意見は言った方がいい。現状を肯定しない。皆と同じことをするのは、あまり発展になりません。何かしら改善ができるか常に考えていた方がよろしいのではないかと思います。もちろん、何かをやろうとすれば何かしらリスクがあります。リスクがあるからといって何もしないなら失敗はありませんが、3回のうち2回くらい失敗して、まあ1回くらいはうまくいくと考えておけばいいでしょう。2回ほどつまずくと周囲から叩かれて辞めていく人もいますが、リスクを背負ってでもトライして何かを成功させた方がやはり楽しいのではないかと私は思います。
最後に、皆さんは無限大の可能性を持ってらっしゃいます。お伝えしたいのは、英語は非常に重要だということです。今、日本企業はグローバルにならないと生き残れません。国内だけで勝負してもなかなか厳しい。現在、我々は中国を視野に入れておりますが、中国とビジネスをする時は、一般的には英語でビジネスをするんですね。世界の共通語は英語。私は英語の読み書きを論文を書くためにしましたが、やはりカンバセーションできない。50歳前くらいから英会話の勉強を始めましたが、非常に苦労をしています。毎週1時間のレッスンを受けていますが、1年かけても50時間くらいにしかならない。50時間英語を喋っていたとしても、なかなか上手くなりません。ですから皆さんには、機会があれば留学することをお勧めします。若いうちに1、2年くらいどこかへ行っても、長い人生でハンディキャップにはなりません。もし英語が話せれば非常に大きな可能性が広がります。

プロフィール

深堀 勝博さん
ゼリア新薬工業株式取締役/コンシューマーヘルスケア営業本部長

福岡県出身。1978年に理工学部を卒業し、同年にゼリア新薬工業へ入社。工場、研究所での勤務を経て物流部長、生産管理部長、製品開発部長を歴任。2013年から現職を務める。薬学博士。

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