02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン メッセージ vol.061

世界では通用しない日本基準。アメリカのビジネス文化を知り、就職プランを考える

小楠 仁啓さん | SolPortum 代表

経済学部 経済学科 2005年卒業
[掲載日:2017年10月19日]

日米の異なる労働文化を熟知し、
在米日系企業が抱える課題解決に取り組む小楠氏。
幼少期のアメリカ生活によって築かれた現地文化の感覚や
人事コンサルティング会社での経験が、今、存分に活きている。
そんな彼が学生たちに、
「海外、とりわけアメリカで働くためには正しい準備が不可欠」
「今後、日本の雇用は変化する可能性がある。
海外に行かなかったとしても広い視野が必要」と警鐘を鳴らす。

――これからの時代、「専門性」が一つの鍵となってくる――。
そう言って、アメリカで働きたいと考える学生のためにアメリカの
ビジネス文化と、そのサイクルに乗るためのポイントを語ってくれた。

ごく平凡に過ごした大学生活。社会人5年目で会社を退職し、渡米

  2014年にアメリカで日系企業向けのビジネス「SolPortum」を立ち上げ、人事コンサルティングを行っています。大学生だった頃は、こうしてアメリカで働いているなんてまったくイメージしていませんでした。
 小学校の1~4年生までは父の仕事の都合で渡米し、アメリカ・ニュージャージー州の現地学校に通っていました。帰国後は日本で義務教育を受け、中央大学に入学。勉強や部活など、特段何かに打ち込んだわけでもなく、ごく平凡な学生生活を過ごしていました。卒業後は日本でセールスプロモーション会社の営業職に就職。そこでNY支店の立ち上げメンバーに任命されたものの、支店開設直前で計画が急遽中止・延期となったため、一念発起し、5年ほど勤めた会社を退職して渡米しました。

人事コンサルティング会社で養ったスキルが支持され、新規ビジネスをスタート

 渡米後は日系企業の研修生や営業職を経て、アメリカで設立された日系のHuman Resources(≠人事)コンサルティング会社に転職。一緒に働くメンバーと顧客は日本人です。私は営業職でしたが、お客様の話を伺い商品を提案し、勉強をするに従い、HR(≠人事)コンサルティングの知識が蓄えられていきました。
 その後、米系企業である保険会社「Aflac」の契約エージェントへと転職しました。もともと、アメリカでは日系企業ではなく米系企業で働きたいと思っていたからです。アメリカでは「Aflac」のように、営業職を社員として雇用せず外部委託する会社も多く、その場合はセールスパーソンとしてエージェント契約を結び、営業コミッションを支払います。
 「Aflac」の契約エージェントとなった私は、前職でお世話になった営業先の日系企業にご挨拶へ伺っていたところ、HR(≠人事)に関する質問も多かったため、自然とそれがビジネスとなり「SolPortum」の立ち上げに繋がりました。
 「SolPortum」の主な事業は、組織が最適化するための制度や書面作りを中心としたHR (≠人事)の一連で、社内規定の作成や改定、ポジションごとの適正給与の調査や報酬体系の確立、評価スキームの構築など。最近は日系企業の現地化に伴い、現地スタッフ(日本人以外)の雇用機会が増えているため、アメリカの一般的な募集方法を用いた企業の採用サポートも行う事があります。「SolPortum」のコンセプトは、会社と従業員の双方にとってフェアな関係でいられる、効果的な環境作りです。企業側にバランスが傾いてしまうと従業員のモチベーションが落ちてしまいますし、従業員に寄ってしまうと経営が難しくなるため、適切なバランスの中で、組織が活性化するよう努めています。

アメリカで働くための3つの鍵。自分の将来像を見据えてプランを立てる

 日本のビジネス文化では、仕事というものは「人生の軸」と捉えられている一方で、アメリカでは「お金を稼ぐ手段」という意味合いが強く、基本的に家庭など自身の人生が優先されます。また、転職は当たり前で、採用側が重視するのは専門性と経験。例えば、日本人でなければ小規模な日系企業に就職するメリットは少ないかもしれませんが、アメリカ人でも経験を積むために小規模な日系企業で3年ほど働き、ステップアップしていくケースがあるほどです。
 一方、日本人がアメリカで働きたいと思った場合、ハードルが非常に高い。それは、教育を含め就職までの流れが日本とは異なる事が原因ですが、なかでも大きなハードルは、そもそもビザがなかなか発給されないことが挙げられます。基本的には、アメリカでは希少なスキルを持った人に対してビザが発給されます。私の場合は経済学部という事で、特定のビザ取得に至りました。また、アメリカには英語が話せる人は珍しくないため、「帰国子女だから語学ができていい」という事では当然ビザは下りず、アメリカで働きたいのであれば、英語スキルよりも専門性の高い知識を身に付けることが先決です。
 個人的な結論として、アメリカの企業で働きたい場合は、アメリカの大学院に進学することが近道になると考えています。大学院でビザが下りそうなセクションの知識を蓄え、学校のプログラムを利用したインターンや卒業後のOPTでの正しい職務経験を積む事によって、通常のアメリカの流れに乗る事が可能になります。なお、最近ではフィンテック(Fintech)関連やIT・機械などのエンジニア系の人材は貴重だと言われています。
 このルート以外でアメリカで働く場合は、日本から派遣される駐在員、あるいはローカル(現地)採用という選択肢があります。日系企業であればビザ申請の後押しをしてくれる場合もありますが、言い換えれば日系企業以外で働く選択肢がほとんどありません。ローカル採用として働いた場合は長期間アメリカに滞在することも考えられますが、上位職は駐在員によって占められているためスキルアップしづらい場合が多く、駐在として働いた場合は日本本社の意向に基づいた職務を遂行するため、職場環境はいずれも日系社会となります。

米系企業で働きたいのか。
日経企業でローカル採用されたいのか。
日経企業で駐在員として働きたいのか。

 自分が今後、どのような道を歩みたいのか、是非一度考えてみてください。
 「グローバル」という観点でいくと、必ずしも拠点を海外に置く必要はなく、場合によっては日本にある外資系へ就職する方が視野が広がる可能性もあります。外資系企業は日本を拠点にアジア展開をしている場合も多く、部下を持ったり大きなプロジェクトを担当したりしながら、視野をより広げるチャンスがありえるので、そのような方向性を選択肢に加えてみるのもいいのかもしれませんね。

社会の変化に対応する「強み」を持つ人材へと成長するために、就職活動で注意すること

 今後、日本の終身雇用制度は崩れていくという考え方が一般的になり始めている中で、自身が選択肢を持てる存在でいられるかどうかが鍵になるのかと思います。今までの日本のビジネス文化に倣い、就職後にその会社の企業文化を学び適応して活躍する形は、定年まで在籍できるのであれば問題ないのかもしれませんが、転職をする事になった場合、あるいは所属する企業の環境が大きく変化した場合に難しくなる可能性があります。「大手企業に入りたい」「待遇がいい」「安泰そうだ」。こうした項目も会社を選ぶ基準の一つであると思いますが、「この専門分野で頑張りたい!」といった基準も加える事によって、今後の選択肢を広げられるのかと思います。今後、自分がどのような道を歩みたいのか、そのためにどのようなキャリアを積みたいのかをよく考え、就職活動に励まれてはいかがでしょうか。

■プロフィール■

SolPortum 代表
小楠 仁啓(おぐす きみひろ)さん

1983年生まれ、静岡県出身。小学校1~4年生まで4年間、アメリカ・ニュージャージー州の現地小学校に通う。小学校5年生から日本で義務教育を受け、2005年に中央大学経済学部を卒業。セールスプロモーション会社に就職後、渡米。日系企業にてセールスアシスタント、営業職を経て、アメリカで起業した日系人事コンサルティング会社に就職。その後、「Aflac」の契約エージェントとなり、並行してHR (≠人事)コンサルティングビジネス「SolPortum」を2014年に立ち上げる。中央大学白門会ニューヨーク支部運営代表。

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