02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン メッセージ vol.072

”ど” ローカルから世界に発信 !! 先輩から引き継いだ白門のバトンを携え
聴覚障がいのある皆さんに情報を届けます

篠田 吉央 さん | OHK岡山放送|アナウンサー
『手話が語る福祉』担当キャスター
アナウンス室 担当部長
情報アクセシビリティ推進室 室長

経済学部 国際経済学科 2005年卒業
[掲載日:2023年7月10日]

▲写真出典:岡山放送『手話が語る福祉』「戦争とろう者について考える~爆撃の音が聞こえない…ウクライナの“ろう者” 手話で意思疎通できず混乱も」2023年3月9日特集

 地方局のアナウンサーになり、アナウンス業務のみならず、取材して番組の制作を行っています。私の勤務する岡山放送では、手話放送番組『手話が語る福祉』を放送しており、5年前に私はこの番組担当を引き継ぎました。聴覚障がいのある皆さんと「手話放送」番組を作り続けるなかで、「手話がひとつの言語である」ということ意識し、音のない世界での「伝える意義」に向き合いながら活動しています。

 『手話が語る福祉』は、30年前に中央大学の先輩で当時のニュースデスクが企画した番組です。「聴覚障がいのあるご夫婦の家にホームステイして手話を学ぶ大学生」を取材した際に、そのニュースを当事者にも届けたいという思いがきっかけとなり、手話をつけた放送のアイデアが生まれました。
 一般的に手話放送と言えば、福祉向け番組や政見放送など、非常に限られた番組しかありません。しかし、聴覚障がいのある方が、「〇〇公園で桜が咲き始めました」というような、地域で今起きていることなど身のまわりの情報を知ることができたり、バラエティ番組を楽しめたりすれば、世界が広がっていくことを、「手話放送」を通じて実感しています。『手話が語る福祉』は、この30年間で約300回、そのほかに手話をつけた報道番組は10年間で約400回放送しました。さらに、ニュース報道のみならず地域の話題やグルメ、バラエティを盛り込んだ内容の100分間生放送にも挑戦しました。

▲2022年10月のスーパー耐久レース会場で活躍した「シュワQ」。写真出典:岡山放送『手話が語る福祉』

 そして、手話放送のアイデアは、地域企業の協力を得て『シュワQ』や「ユニバーサルCM」という新しい形に発展していきました。『シュワQ』はQRコードを読み取ることで「手話×字幕×音声」で案内動画が流れる動画システムで、障がいの有無にかかわらず、子どもから高齢者まで情報を届けられると好評をいただいています。商業施設やアート展等での商品説明や災害時の対応に使われているほか、銀行や飲食店や家電量販店にも普及し始めています。「ユニバーサルCM」は、手話×字幕×音声でCMを放送しています。
 さらに、モータースポーツをタイムラグなくリアルタイムに手話実況したり、先日のG7広島サミットが行われた際に、倉敷労働雇用大臣会合の記者会見を手話・字幕・音声による『シュワQ』で伝える機会にも恵まれました。2025年には聴覚障がい者のオリンピック「デフリンピック」が日本で初めて開催されます。そこでの「手話による」実況中継にも挑戦したいです。ユニバーサルな観戦方法を皆さんに楽しんでもらいたいと願っています。

 聴覚障がいのある当事者の方々が、日々のニュース番組に加えて、流行と社会の動きを反映しているバラエティ番組やCMに触れられることは、「社会の中で生きている」と実感してもらえる手段になる手応えを感じています。そして、30年の手話放送のノウハウを全国に届けるための研修会を総務省主催で実施するなど、私たちが構築してきた取り組みは、『岡山モデル』として全国に広がっていくことを期待しています。

30年の取り組みを『岡山モデル』として世界に

▲2023年5月。インドネシア・バリ島で開催された「アジアメディアサミット」で、岡山放送の取り組みを講演しました
写真出典:岡山放送『手話が語る福祉』

 2022年2月、「ゼロ・プロジェクト」(世界中のバリアをなくす取り組みを主導する団体。本部はオーストリア・ウィーン)によるバリアフリーの国際賞「ゼロ・プロジェクト・アワード2022」を日本のテレビ局として初めて受賞しました。それを機に、2022年にはオーストリアの国連ウィーン事務所で、2023年5月には「アジア・メディア・サミット」で講演する機会をいただきました。放送局にも世界中から見学に来られるようになりました。世界中のバリアフリー活動に取り組む方々と意見交換や交流してゆく中で、手話放送や『シュワQ 』がこれまで言われてきた「聴覚障がい当事者の社会参加をうながす」ためのものではなく、「当事者と健常者が同じ目線で一緒に番組を制作する」というところで、ユニバーサルな視点をもっているという意識が高まりました。私たちの情報アクセシビリティがゼロバリア活動の懸け橋になることをうれしく思っています。

言葉を伝えること・行動力の原点は中央大学

▲2022年11月「学員会ホームカミングデー」にて第1回薫風賞を授賞した際のスピーチの様子

 アナウンサーとなってから18年が経ちましたが、社会に出て、さまざまな場で、中央大学で学んで本当によかったと心から思っています。私は第一希望の大学に失敗し中央大学に入学しました。周りには何もない、東京の田舎にあるキャンパスで最初は途方にくれましたが、ここには何もないようであって、何でもある大学だったと、卒業して非常に実感しています。
 「自ら動きたい」という気持ちがあれば、自由に活動できる、そんな雰囲気でした。それを応援してくれて、そっと背中を押し、見守ってくださる先生方や職員の皆さんがいたから、安心して学び活動することができました。現在では、白門会、特に地域の学員の皆さんからの応援に励まされています。

 そして、在学中に「所属していた「辞達学会」では、言葉は相手に伝わらなくては意味がない、言葉を相手にきちんと届けることの大切さを学びました。また、代表幹事を担当していた「北朝鮮に拉致された中大生を救う会」の活動からは、実現させる・結果を出すことの難しさや大切さ、人とのつながり等、多くのことを学びました。

 「どう伝えるか」、「何が問題か」。大学で身に付けたことは、仕事のベースになっています。問題を掘り下げていく取材からニュースがスクープにつながり、フジテレビ系列のFNN年間スクープ大賞を受賞することもできましたし、放送の枠を超えイベントの開催にも至っています。

後輩の皆さんへ

  「手話放送」の取り組みを評価していただいて以来、海外での講演等が増えたり、海外からのお客様にお会いしたり、グローバルな活動が増えました。正直なところ、私は英語が堪能ではありません。確かに英語は世界の共通語だし、私自身も学ぶ必要があると思っています。しかし、英語が堪能でない私でも海外で活動することができています。それは、私たちの活動を本当に知りたいと思ってくださった海外の方々が、通訳・サポートをしてくれるからです。そのためにもまずは、何をどう伝えるか、どう伝えれば相手に正確に届くかを考えて、講演内容等をギリギリまでブラッシュアップさせながら活動しています。学生のうちに語学力を身に付けることは大切ですが、まずは語学力よりも、「自分にしかできないこと」を、それらをあらゆる手段を使って探していき、自分の核となるものを持ってほしいと願っています。

 今取り組んでいる情報アクセシビリティを追求し続け、地域に寄り添い地域経済と連携しながら、ローカル放送局ならではの気づきを活かして、「みんなに情報が届くこと」が世界で社会のスタンダードになる日を目指していきます。また、番組の特集でウクライナの防空壕の中にいる聴覚障がい者の方々を取材する機会もありました。今月(2023年7月)は、韓国・済州島で開催される「世界ろう者大会(WFD2023)」にも参加します。混乱紛争地域等で暮らしている方を含め、世界中の聴覚障がい者の皆さんにも情報が届くように、国際機関に働きかけ連携をとりながら、「情報から誰一人取り残されない社会」の実現を目指し取り組んでいきます。

  ■ プロフィール ■

  篠田  吉央(しのだ よしお)さん
OHK岡山放送アナウンサー
アナウンス室 担当部長/情報アクセシビリティ推進室 室長

岐阜県出身。2005年経済学部卒業。
●OHK岡山放送に入社。
 ニュース番組や報道番組でのアナウンス業務と並行して
 特集やドキュメンタリー番組を制作。
 担当番組:『手話が語る福祉』
●2022年:中央大学「第1回薫風賞」受賞
 

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