02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソンを目指す中大生 vol.18

ブータンで日本語教師。好きという気持ちが、チャンスを引き寄せた

川口真子さん | The Bhutan Centre for Japanese Studies
日本語教師

総合政策学部 国際政策文化専攻 4年(2015年3月卒業)
[掲載日:2015年4月28日 ]

中学生の頃からブータンに憧れていたという川口さん。
大学のゼミではブータンに関する研究を続け、
将来に向けてSENDにも挑戦した。
「あの時の決断が、今の私をつくりました」と振り返る彼女は、
2015年4月から、ブータンで日本語教師としての
生活をスタートさせている。
(2015年3月インタビュー)

就職活動に行き詰まり、方向展開。SENDで新たな道筋を見出す

 テレビでブータン特集を観たことがきっかけで、興味を持ち始めました。番組ではブータンの祭りが紹介され、国王が子どもたちと並んで一緒に観劇している様子が映し出されていました。私が持っていた国王のイメージとはギャップがあり、「面白い国がある!」と感じて書籍やインターネットで、ブータンについてチェックする日々。調べていくうちにますます興味が湧き、大学に入ってからは、ゼミでブータンをテーマに研究していました。私が一番に注目したのは、『国民総幸福量』という国民の幸福度に基づく政策です。論文を書くために図書館や海外の文献を集めましたが、参考になる資料には限りがあり、このことで一層ブータンにのめり込んでしまいました。
 3学年になって始めた就職活動の面接では、ゼミでの研究について自己PR。しかし、私がやってきたこと、好きなことが会社で順応する気がせず、面接官の方と私の間で温度差を感じました。つまり、就職活動に行き詰ったんです。そんな時に、たまたま『中央大学SENDプログラム(日本語教育)』のチラシを見て、就職活動を止めてSENDに応募。ブータンで生活したいという思いが奥底にあったので、「もしかしたらSENDを通じて日本語教師の資格を取り、ブータンで生活できるかもしれない」という微かな希望をそこに見出しました。
 SENDでの経験は、どれもよい勉強になりました。私は教育学の専攻ではありませんし、塾講師などのアルバイトもしたことがなかったので、日本語教育について学ぶ英国国際教育研究所(IIEL)の実習は、驚きの連続でした。気付かされることがたくさんあり、ここで受けた影響や感じたことは、ずっと大事にしていかなきゃいけないと思っています。

↑英国国際教育研究所(IIEL)で実習した仲間と一緒に。

↑「ここでの思い出は、ずっと胸に刻んでおきたいです」と川口さん。

憧れのブータンに向け積み重ねた行動が、大きな転機を招いた

トンドル

↑寺院で開催された春の祭り。
人々がトンドルと呼ばれる大掛仏の前で祈り、舞いを捧げている。

 はじめてブータンに行ったのは、SENDプログラムを終えてすぐの去年の秋。10日間のひとり旅で、ブータン仏教の寺院を見学したり農村に宿泊して一般家庭の生活を体験したりしました。ガイドの方が付き添い、仏教の歴史や国民の考えを説明してくれたので、本や資料では知りえなかった部分まで話が聞けました。一番印象に残ったのは、人々が自分のこと以上に、家族や友人など周囲を考え行動していたことです。ブータンの人たちは雰囲気が柔らかくおおらかで、いろんな人が私に優しくしてくれました。人々とたわいないおしゃべりをするシーンが常にあり、日本がブータンに技術協力をしていることなども教えてもらいました。日本ではブータンについて知る機会があまりありませんが、日本人との繋がりは私が考えていた以上に深いのだとブータンで気付かされました。
 旅行では目的のひとつとして、日本語学校も見学。プランを立てる時には旅行会社の方から、「日本語学校と祭りを1日ずつ見学するプランと、2日間とも日本語学校を見学するプラン、どちらがいいですか?」と提案され、私は2日間とも日本語学校を見学するプランを選びました。学校では授業の様子を見学したり、私から日本文化を紹介したりして過ごしていると、2日目に日本語学校の校長と理事長が声をかけてくださり、「来年ひとり欠員が出るから、よかったらここで日本語教師をしてもらえませんか」と誘ってもらえたんです。資格に関しては、ブータンは日本語教育が普及しているわけではありませんし、日本語教師の採用枠も狭いと知っていたので、経験不足を補うためにSEND修了後、すぐに日本語教育能力試験を受験していました。とは言っても、試験を受けたのは旅行前日。結果的には合格していましたが、当時は合否もわからないままブータンに来ていました。そのことを相談すると、「ブータンが好きだったら、いいよ」と言ってもらえ、採用が決定。日程を決めたあの時、2日間に決めておいてよかったと思いました。
 

「やらずに後悔したくない――」 人生を左右した勇気と決断

 4月から、日本語教師としてブータンで働きます。カリキュラムの概略は決まっていますが、教材作りなどは教師一人ひとりの裁量に任されています。仕事で日本語を使いたいという生徒が多く、なかには日本に派遣される方もいるので、現場で活かせる日本語だということはもちろん、言葉だけでなく日本人が持つ精神文化や日本の生活で必要な言葉遣い、礼儀、マナーを一緒に教えたいと思っています。SENDを経験して気が付いたのは、学習者が日本語に対して持つ疑問を、母語話者である私たちがわかっていない場合が多いということ。生徒たちとのやり取りを通じて、私自身の日本語レベルも上げなければいけないでしょう。日本語と英語、現地で使われているゾンカ語を頑張って習得する。言葉の勉強をしつつ、生徒に教える感じですね。

 ブータンに行くと決めた時が、転機でした。日本であまり知られていない国にひとりで行くのは家族から心配されましたし、自分自身も初めてのひとり旅行で勝手がわからない国に行くことが不安で、すごく迷っていました。でも、「今行かないと後悔する。失敗するかもしれないけどチャレンジしてみよう」と、一歩を踏み出しました。チャレンジしないで後悔するより、チャレンジして後悔した方が絶対にいいと思ったからです。若い時に人との出会いや経験があればあるほど、その先の人生の選択肢は広がるはず。やりたいことは、とにかくチャレンジしたほうがいいと思います。
授業の様子

↑イラストを使って授業を行う川口さん。日本語学校を見学した時には、
日本での大学生活を紹介。生徒たちの目に新鮮に映り、喜ばれた。

川口さんの学生

↑川口さんとブータン日本語学校の生徒たち。
ひとクラス10~20人程度、学校全体で例年100人ほどの生徒が在籍。

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