02 GLOBAL PERSON

自由民主党教育再生実行本部長 遠藤利明衆議院議員 × 若林茂則中央大学副学長 【前編】

学校教育の多様化を目指して

※敬称略

遠藤:日本の小学校は現状、横並び主義です。これまでは、「“能力や成長スピード、興味や関心が違う”」ということが日本では認められなかったのですが、我々は今回、教育改革に関わる提言の冒頭に、「結果の平等はない」ということを打ち出しています。ここからスタートしないと、伸びたい子供が十分に伸びられず、苦労している子供はずっと苦労するということになってしまう。どうやったら多様化複雑化できるかということがこれからの課題です。

若林:難しいところですね。日本は改善していかないといけないところがたくさんあると思います。

遠藤:我々団塊の世代は1年に270万人も生まれて、一斉に教えるシステムしかありませんでした。その時代はそれでよかったのですが、今、子どもたちの数が1年に100万人規模になってきています。それを昔ながらに、全体を同じシステムで教えるというのは、構造自体がおかしいですね。現在よりも、むしろ戦前の教育のほうがバラエティに富んでいました。できる子は飛び級もたくさんしていたし、当然のごとく留年する子もたくさんいました。

若林:子どもたちのためを思えば、理解できていないのに進級させるのは乱暴なことです。個人個人がわかるまできちんと教えていく、個人差が生まれてもそれを社会がきちんと受け入れていくことが大切です。教科にはさまざまな特徴があります。子どもたち一人ひとりには、それぞれに特技・特長があります。子どもたちの優れているところ、あまりできないところを、それぞれきちとんと認めて、確実に社会に必要とされる力がつくようにしていくというのが求められていると思います。

遠藤:学校教育も少しずつ変わってきてはいますが、まだまだですね。小学校では、成果を評価しないのに、中学校に入ると突然受験競争、成果主義になってしまう。あまりにも小学校と中学校の差が大きすぎます。小学校の段階から、適度な競争や評価をすることを、きちんと位置づけられていないために、かえって対応できない生徒がいます。今、教育の方針転換を堂々とやっておかないと、なおさら子どもたちにとって不幸なのではないかと思います。

若林:私は今51歳で、ちょうど共通一次試験が始まった世代です。この試験は、正解が必ずあって、それを選びなさいというものでしたから、いかにして正解に近づくかということを練習するのが大学受験に対する一つのやり方でした。大学入試で成功するには、確立された問題の中で正解を求めていくということになります。それはそれで悪いことではありませんが、全体的にテストに合格するために、どうやって正解を選ぶかを身につけるのが勉強だと考える傾向が強くなりました。そこが大きな問題なのです。社会の問題を考えると正解は一つではありません。地域の個性もある、個人の個性もある、家族の個性もある、その中でどうやって社会に役立つ、社会に触れるという体験をさせるのか。小学校では、体験学習・調べ学習という形でやっていますが、中学校になると、最終的に(あらかじめ決められた)正解のあるところへ行きなさいという形が主流になってしまうのです。これに加えて、私たちの世代から評価の方法がわからなくなってしまいました。多くの学校の先生が評価の方法を知らないのです。例えば、イギリスの小学校では、先生が子どもたちの成績・評価について、文章でしっかりと書いてきます。書くということには、文章で評価を伝えるスキルとエネルギー・時間がかかります。何より先生のスキルアップが必要です。実際、先生が記述で一人ひとりを評価するという形をとれば、自分がどういう子どもたちを育てたいかが見えてきます。今の日本の仕組みは、あらかじめ決められた内容を教えるための教科書があって、その内容がわかったかどうかを調べるテストをして、その結果の点数をつけるという仕組みです。それに乗っかっているのが楽だから、それでいいのかどうかを考えずに実施しているという場合が多いのではないでしょうか。

遠藤:小学校では「良く頑張りました」「頑張りました」「もう少し」というような成績付けをしていました。しかし、ただ「頑張っています」だけであれば評価は必要ありません。それが中学校へ入った途端、試験の点数で評価されて、対応できなくなってしまうのです。そのあたりが今回の教育改革の一番のポイントだと思っています。

若林:日本の多くの人は、学校の教室では、先生が黒板の前に立って教えるということが一般的で、世界中どこへ行っても行われていると思っています。大学では、大教室で教える講義とゼミ形式の演習しかないと思っています。本当は違います。いろいろな教え方があります。それぞれの学校や先生が知恵を絞って、教える側、教えられる側がどうやったら、授業をおもしろくできるかに真剣に向かい合う。文科省によるグローバル人材育成推進事業の提言もいろいろ読ませていただいているのですが、結局のところ咀嚼する側がどうやっておもしろいことをやるのか考えなさいと言っているのだと思っています。

遠藤:教える先生が持っている答えが一つで、なかなか途中経過を考えることに対応できていないということですね。

若林:イギリスなどでは、先生を育てることにお金をかけています。英語教育についていえば、今、日本では、本当に研究をしている英語教育の専門家が、その専門性を活かす形でブレーンとして政策に関わっているとは言えないように思います。最終的に日本人にどういった英語の使い方をさせるのかを考え、そこに予算を投下していかないといけません。日本人として、高校や大学を卒業した人間として、英語が使えるとはどういうことかを考え、その評価やテストの開発にお金を使うことはとても大切です。

真の英語力を身につけるために

遠藤:中学高校で6年間、英語の授業をやっても、大半の人はほとんど話すことができません。せっかく6年間勉強したのであれば、片言でもいいから話したいですよね。話が出来て、初めて英語への興味がわいてくると思うのです。日本の今の教育では読みと書きだけで、大学受験が終われば大半は英語が必要なくなります。もちろん、人によっては努力しますし、海外へ行って鍛錬する人もいます。しかし、ほとんどは受験英語で終わってしまいます。これをどうやって変えていくか。今までも英語教育を変えよう変えようと努力してきましたが、今の中学高校の読み書きシステムをそのままにしている限り、変えようとしても変わらないのです。

若林:今の大学入試では、ご存じのように大学がほしいと思う人材を選抜します。本学は6学部あり、統一入試を除くと、それぞれ独自の入学試験を行いますが、各学部の英語の試験はそれぞれ内容が違います。高校卒業に必要とされる力とずれてしまうのは、ある意味では、当たり前です。大学入試を基準にするのではなく、高校教育での最終的な目標をどこに置くかをはっきりさせておかなければなりません。各高校で異なっていてもよいかもしれません。できる子の目標はここまでのレベル、できない子でもここまではできるようにするといったレベルを、会話なら会話のレベルで作るべきです。もうひとつ、日本の先生はまじめですから、教科書に載っていることを全部教えて、繰り返し練習させて、全部できるようにしようと考えます。しかし、これは現実問題、無理な話です。外国語の場合は、いろいろな材料に触れながらたくさん勉強して、少しだけ使えるようになるのです。

遠藤:それは英語を教養と思っているからですね。日本人はまじめだから、きちっとした文法で話さないと恥ずかしいと思ってしまうのです。

若林:でも、よく「文法が邪魔になる」という人がいますが、そんなことはないんですよね。話したことがないから話せない。口から言葉が出ないだけです。実際の会話では、文法にとらわれすぎるということはほとんどありません。

遠藤:それでも日本人は正しい英語じゃないと話せないと思うから、外人がいても自分から近づいていけないのです。

若林:日本人はえてしてそういうところもあるんでしょうね。

遠藤:逆に言うと、今回なぜTOEFLを大学入試に導入することを提言したかというと、これはショック療法なんですよ。せっかく大学に入るまでに英語を勉強するのなら、読み書きだけじゃなくて、話せるようになったほうがいい。では、どうやってそこまでもっていくかというと、今の制度ではできません。だからまずはゴールを変えようと思ったのです。

若林:ゴールに到達させるためは、ゴールまでちゃんと届けられる教員が必要です。研修制度も充実していかないといけません。

遠藤:私は小学校の先生すべてに英語を教えるというよりは、英語のできる人を教師にさせたらいいと思います。日本中の小学校の先生に、頑張って英語を勉強してくださいといっても大半うまくいかないと思います。

若林:もしスキルとして求めるのなら、そうしないと無理かもしれませんが、英語に対する教養や興味を湧かせ、子どもたちの目を海外に向けさせる素地を作るためには、英語教育がきちんとわかっている人を招いて、教員を養成することが大切です。

遠藤:この間いくつか英語教育を導入している小学校を見てきましたが、ALT(外国語指導助手)と日本人の先生の両方で教えていました。これであれば、最初からALTだけでよいのではないでしょうか? もちろん教える能力がないといけませんが、もともと英語ができない教員がALTと組んでも仕方ありません。逆にできる先生とALTが組むのももったいないと思います。ALTが一人で英語学習を担当したらどうでしょう。子供たちは多分半年くらいは理解できないかもしれませんが、案外柔軟ですから、すぐに慣れると思います。

若林:それも一案ですが、英語好きの子が増える一方、英語嫌いの子も増えてきます。テストをするから勉強しなさいというのではなくて、実際に英語を使う必要性を感じるような体験をさせることが大切です。今、本学ではグローバル人材育成推進事業のもと、そういったことを学生たちに感じさせようということを第一に考えています。現代の日本社会で活躍するためには、いわゆるグローバル人材としての力がないと厳しい時代です。そのためにはまず、多少英語力が心もとなくてもグローバルを体験してもらうことが大切です。そのためのカリキュラムを組み、インターナショナルウィークなどの国際イベントなども開催しています。ドイツウィークでのドイツ大使の講演には600人の学生が来場しました。全体的には少ないかもしれませんが、学生たちの関心はどんどん高まってきています。実は本学では2009年に海外へ長期留学する学生数が底をつき、今ではその倍以上の学生が長期留学に出かけています。本学では、かなり前からゼミ教員の引率による海外研修や国際インターンシップなどを通して、「これはできないな」「もっとやらなければ」という気づきを与えてきました。現在はその制度を整備し、さらに留学なり、専門なりをもっと深める勉強していけるように改良を進めています。