02 GLOBAL PERSON

吉田研作上智大学言語教育研究センター長×若林茂則中央大学副学長【後編】

グループテスト評価法の確立も必要

若林:英語教育においては、自分自身で何がやりたいのか、どのような経験があるのかということと、言語習得が密接に関連していると思います。私たち日本人が英語を学ぶ場合には、先ほども申し上げたように、どういう場面でどのような形で英語によるコミュニケーションをとるのかということが大切になってきます。「実学教育」に基づくグローバル人材育成のために、本学では今、C-Compassをベースに、グローバルに活躍できる人材の育成を想定して、30歳くらいまでの尺度で新たなコンピテンシー(自己評価システム)グローバルC-Compassを開発しています。

吉田:上智大学では来年度からアカデミック英語を1年生で4単位必修にします。1年次に論理的思考やディスカッション、論文を書くといった最低限の力を身につけた上で、2年次から選択科目にして、全学共通の一般教養でも各学科8単位までは外国語で満たすことができるようにしたのです。専門科目の入門的な要素を持つ科目や、一般的な大人としての知識が必要とされる科目をたくさん用意することによって、今まで1・2年次に8単位必修だったものを4単位に減らしたかわりに、全学共通単位として、プラス8単位自由にとれるようにしました。また、文科省によるグローバル人材育成推進事業の補助金もいただいていますので、新たにグローバル教育センターを開設し、春期・夏期の英語集中プログラムを開始しています。語学系だけでなく、国際関係や地域研究の科目を設け、来年、再来年に向けて全学部にオープンにし、普段の授業で受けられないような国際性を強調した科目群を選べる体制を整えています。

若林:やはりどうしても全学的なスタイルになってきますよね。上智大学の先生方は皆さん、新しい分野に積極的に発信していくという方が多いですね。今回のTEAPもそうですが、日本の社会から期待されているところも大きいと思います。

吉田:TEAPに関しては、文科省はかなり積極的に応援してくれています。4年前にこの話が出た時に、当時の学事センター事務長と一緒に文科省に行って、「上智大学がゆくゆくは入試を語学能力検定テストという形でやりたいと思っている」と報告しました。これに対して文科省は「やるのはよいと思うが、上智大学だけにとどめないでほしい」と言われました。それでもっと汎用性のあるものを作ろうと開発を進めたのです。

若林:今のテストの限界は一人ずつを個別に測っていくという点にあります。公平に測ることが重視されていますね。そのことはとても大事なことですが、実際の言語の使用場面にはあっていませんね。ディスカッションをする力は、ディスカッションを何回かさせて得点をつけたらどうでしょうか。あるいはプレゼンをするときも、なるべく現実に近い内容を入れて、実際に評価していくようなシステムができればと思います。

吉田:TEAPのスピーキングテストを開発する際にも、実際にディスカッションをさせるという案があったのですが、日本でテスト開発をする場合、グループ実施するということ自体が受け入れられないんじゃないかという意見が多く、最終的に一人ずつを測る従来からの方法になりました。できればやりたかったのですが、時期尚早ではないかと思っています。

若林:大学卒業時の力とか、就職して2~3年後にはこれぐらいできるようになってほしいといった能力を測るためには必要だと思います。

吉田:オーストラリアでは、例えば看護師になるといった場合、スピーキングテストはまさに交渉場面、患者さんとのやり取りの中できちんと問題解決ができるかどうかを測るものになっています。それを考えると日本でもスピーキングテストのあり方を考えていかないといけないと思います。

学生に気づきを与える教育を

若林:中央大学がこれまでに行ってきた「實地應用ノ素ヲ養フ」教育は、現在も今後も、非常に価値が高いと考えています。このような教育を行っていく上では、専門を深められるようなグローバル化でなくてはなりません。本を読んで考え方を磨き、深い思考力を身につける教育をきちんと行いつつ、もう一方では、海外への留学などの機会を提供する。その両方を通して、学生自身の進化に繋げていければと思います。学生にも教員にも、深い思考力と広い視野の両方を培うことが必要なのだと伝えたいですね。このような教育は、単に社会の要求に応えるだけではなく、学生たち自身の幸せに繋がります。学生時代に、十分な専門性と広い教養と実行力・行動力を身につけられる、より質の高いシステムを提供していくのが、私たちの使命だと思います。

吉田:上智大学では外国語教育においてプルリリンガル(複言語)の発想で取り組んでいます。自分の考えや感じ方を奥深いところまですべて外国語で表現できるようにするためには相当の力がいります。そのためには、大学教育の中の一部分でどうしても日本語できちんと学んでいく科目を設けておかなければなりません。外国語で何でもかんでもやるということとは違うんだという発想も大事だと思っています。本学の国際教養学部や外国語学部英語学科のように帰国子女が多く在籍する学科であれば可能かもしれませんが、一般的にはそこまではできません。ここをきちんとわけて取り組んでいかないと混乱してしまいます。ですから、本学ではプルリリンガルを一つの標語にしているのです。今後、新たに総合グローバル学部が開設されますが、3言語式になっています。一つは母語、自分が研究したい地域の言語、そしてグローバル言語である英語です。深さはやはり母語が一番で、日本語以外のそれぞれの言語で何ができればよいかによって、到達レベルは変わってきますので、できるだけいろいろなレベルに合った科目を用意する必要があると思います。

若林:大学は4年間が基本なので、限られた時間の中で、どう学生を導いていくか、学生に気づきを与えるかという仕組みが大事になってきます。短期留学などでの経験も非常に達成感があると思いますが、それ以上に「できなかった」とか、「もっとやらなければ」という気づきを重視し、次の進化に繋げていくような教育を大学でしていく必要があると思います。吉田先生が今、担当していらっしゃる外国語を英語で教える授業もそうですよね。

吉田:もともとの発想は模擬授業をどうやって面白くするかということでした。英語教員を目指している学生が、英語ができる学生を相手に、英語で授業をしても何も面白くありません。他の言語を教えることで、教えるというのは難しいなとか、新しい言葉を学ぶのは難しいなと感じ、それと同時に結構楽しいよねと実感してもらうことが必要だと思っています。そのため授業での指示は英語で行いますが、教える対象となる言語は、皆が知らない言語となっています。これが実に面白い。ちなみに今は、担当者がヒンドゥ語を教えていますが、担当者自身にとっても初めての言語で、それを英語で教えています。

若林:自分が十分ではない、理想の自分と現実の自分とのギャップに気づくことが大切ですね。

吉田:最初に授業を担当した学生は、やはりあまりうまくいきません。「先生、もう1回やらせてください」という学生が必ずでてきます。

若林:本学では自分のライフスパンの中で、社会でどう活躍したいのかを考えられるように、世界を舞台に活躍するOBの方をできるだけ多く紹介する機会も設けています。また、学んだことをその後のキャリアやコミュニケーションに活かしていく形をどう作っていけばよいのかも考えています。

吉田:いろいろな側面から話を聞きながら、一つのことをより広く捉え、キャリアに繋げていくとよいですね。上智大学のキャリアセンターでも、企業で働いている方たちを交えてのセミナーやワークショップなどを積極的に設けていますし、外国語学部英語学科では、「英語と社会」という科目において、毎週卒業生に来てもらい、仕事に英語がどう活かされているか、社会に出るとはどういうことかを学んでいます。

若林:私のゼミ生も今、卒業研究に取り組んでいますが、内容はかなり抽象的で言語モデルや心理言語学実験を使った研究をしていますから、社会に出た時にこの経験がすぐに役立つわけではありません。しかし、他の人が書いた論文を読み、自分の考えを発表し、深く、繰り返し考え、文章にまとめて行く作業を通して、問題を発見し、解決するために努力し、一つ「わかった」と思ったら、「わかったことで見えてきた問題がある」というアカデミックな経験していくこと自体が人としての基礎力、つまり、問題発見力や課題設定・解決力に役立つと思っています。

吉田:私もそう思います。私の場合は、応用言語学の中でも教育と密接に関わる分野を専門にしていますので、出てきた理論にしても何にしても即教育に結びつけて議論することができます。理論言語学的な側面とはまた少し違いますが、それでも実際に今の英語教育にどう活かしたらよいか悩みます。比較的現実に近いように見える分野であっても理論は理論ですから、ものの考え方の基本は何かを教えて、社会に出てから活かせるような指導ができればと思います。

若林:いろいろな経験を経て自分がどういう生き方をしたいのかを考えられるような体験をさせることが必要ですね。

吉田:年齢を重ねるごとに、これまで自分が経験してきたことが、今の自分にどう働いているのかに気づくことができますから。私も振り返ればたくさん苦労がありましたが、その時の経験があったからこそ今があると思えます。

若林:今の学生たちも、自ら積極的に、もっと貪欲にいろいろな経験をして、成長してもらいたいですね。中央大学では、2011年から「インターナショナル・ウィーク」というイベントを開催しています。これまでフランス、イギリス、ドイツ、国連をテーマに、各国の大使による講演などさまざまなイベントを実施しています。今年は日本ASEAN友好協力40周年ですので、ASEANをテーマに開催します(第5回インターナショナル・ウィークの詳細はこちら)。毎回、好評を博していますが、それでも自ら企画して何かやりたいという学生が少ないように思いますので、もっと学生を鼓舞していきたいと思っています。

吉田:自らイニシアティブをとってやりたいと言ってくれる学生がもう少し増えるといいですね。

若林:その仕組みを作っていくのは我々の仕事ですが、学生自身がもっと挑んでくれたらと思っています。学生が知的に前向きに楽しむこと、それが、私たちにとって何よりの喜びですから。