05 REPORT

オランダ人戦争被害者と学生による「中央大学日蘭交流会」を開催

2017年11月02日

↑オランダ人戦争被害者の方たちが学生に向け、
子どもの頃の戦争体験を語った

 第二次世界大戦時、日本支配下にあった東インド(現インドネシア)で、旧日本軍の戦争捕虜・民間人拘留者になったオランダ人の方々がいました。
 戦争はやがて終結し平和条約が交わされましたが、その後もこの過去に対して日本とオランダの間で平和と友好について対話が続けられ、1995年、外務省欧州局により交流事業のひとつとして「日蘭架け橋事業」が開始されました。2005年からはこの事業の後継として「日蘭平和交流事業」がスタート。毎年20名ほどのオランダ人戦争被害者の方たちが日本に招聘され、観光や交流を通して日本に対する理解を育み、両国の理解を深めています。

 中央大学では2007年より、こうして招聘されたオランダ人の方々を招き、学生に向けて戦争体験を共有してもらう「中央大学日蘭交流会」を行っています。
 今年は2017年10月25日(水)に13名のオランダ人の方々を多摩キャンパスに招き、交流会を実施しました。会場には法学部と経済学部の学生61名と教職員10名が列席。学生たちは国際情勢や外交の授業を履修しており、オランダ人の方々から語られる戦争体験から自己の学習を深めることはもとより、教科書だけでは読み取れない歴史を学び、未来への教訓としていく貴重な機会となりました。
 
「中央大学日蘭交流会」
 オランダ人戦争被害者の方たちに、現代の日本の姿を日本人学生との対話から理解してもらうとともに、学生たちには国際的な交流を通じながら戦争経験に触れ、学修の動機づけを得る機会としています。
 同交流会は、かつて外務省に所属していた元法学部教授・元駐英大使 折田正樹の発起により、2007年に開始しました。現在は中央大学国際センターの主催、外務省欧州局西欧課の協力のもと、法学部教授 宮丸裕二、法学部准教授 ピーター・ソーントンの企画にて開催しております。

オランダ人戦争被害者の方たちによるスピーチ

↑ヴエイブ・ボルヘル氏からの冒頭挨拶

 司会を務めた法学部准教授 ソーントンや、開会の挨拶を行った前メキシコ駐箚特命全権大使である法学部教授 目賀田周一郎は、「訪日団の方たちの多くは、捉われた時にはほんの子どもでした。その時に負った心の傷は決して癒すことができないでしょう。そうした歴史を私たちは忘れてはいけませんし、正しく理解することが非常に大事です」、「両国には深い歴史の繋がりがあるにも関わらず、オランダ人の方々は旧日本軍の行動により体や心に耐えがたい傷を負ったのです。そのことに対し、心からお悔やみ申し上げます」と、訪日したオランダの方々に対し、お悔みと体験を共有してくれることへの感謝を述べました。
 訪日団の団長、ヴエイブ・ボルヘル氏からの冒頭挨拶では、「自分たちと話し合い、現在と将来のために過去から学ぼうとする皆様の姿勢を幸いに思います」と、学生たちにメッセージを送りました。

 体験談のスピーチは訪日団のなかから2名が代表。
 登壇者1人目のファン・リート氏は、8歳であった時に旧日本軍が東インドを支配下に置き、生活が一変したと言います。飢餓や屈辱的状態に置かれた体験を振り返りながら、「大きな戦争が終わるごとに平和を訴える人々の叫びが響き渡りますが、残念ながら長くは続きません。飢餓や権力、欲望に取って代わります。よりよい世界のために戦争が必要と説く人がいますが、よい戦争など存在しません」と、戦争下にいる子供たちの状況を改善するために何をすればいいのか、議論の材料にして欲しいと訴えました。
 2人目の登壇者であるファン・デル・リンデン氏は40年もの教員経験があり、スピーチを依頼された時には「学生たちに語ることが難しいはずがない」と思っていたそうです。しかし、過去の体験を思い出さずにはいられず、嫌悪感が沸き上がり涙が溢れ、想像よりもずっと困難であったと打ち明けました。その後、悲惨な体験が生々しく語られ、「人々の争いは避けられません。しかし、慎重に、臨機応変に、そして尊敬を持って対応するように、すべての若者に教えたい」とスピーチしました。

↑ファン・デル・リンデン氏

↑ファン・リート氏

↑休憩時間には学生とオランダの方々が懇談

↑学生へ積極的に話しかけてくれる場面も

↑和やかな雰囲気で交流する様子も見られた

質疑応答・学生プレゼンテーション

 スピーチを聞いた学生たちは訪日団の方々に向け、「オランダではこの体験が語られているか」、「この体験がその後の人生にどう影響したか」等について質問。
 続いて日本の戦前・第二次大戦中や東アジア、東南アジアとの関係についてリサーチを行った学生たちが、調査結果を英語でプレゼンテーションしました。

↑学生たちの質問に答える訪日団の方々

↑4名が代表してプレゼンテーションを行った

懇親会

↑法学部教授 スティーブン・ヘッセによる懇親会挨拶

 交流会の最後には懇親会が開催され、記念品が交換されました。

 オランダ人戦争被害者の方たちによるスピーチでは、険しく悲しい表情を浮かべながら語られた衝撃的な体験から、学生たちは「何が起こったのか」を学び、質疑応答で時に目を潤ませながらオランダ人の方たちに質問を投げかけました。
 しかし、「将来の友好関係に向け、日本の若者たちに体験を伝えよう」としてくれる彼らの暖かな心に触れ、次第に笑顔を見せながら言葉を交わす様子が各所で見られました。

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