05 REPORT

第10回 IW実施報告◇JICA×経済学部 特別公開授業「国際開発論」(林 光洋)『国際協力という選択~SDGsの概要と実際』

2018年12月18日

        インターナショナル・ウィーク 第10回 SDGs (Sustainable Development Goals)

 2018年11月20日(火)3限目、多摩キャンパス8号館8301教室にて、特別公開授業「JICA講演『国際協力という選択~SDGsの概要と実際』」を開催しました。
 インターナショナル・ウィーク・イベントの一つでもある本公開授業は、経済学部教授 林光洋の講義『国際開発論』の一環で、独立行政法人 国際協力機構(JICA) 人事部長の戸川 正人 氏をゲストスピーカーとしてお招きし、実施されました。講義には、本講義の履修者だけでなく、他学部からも国際協力や途上国開発に興味を持つ学生などが多数出席しました。
 
 政府開発援助(ODA)をはじめとする国際協力の仕事に求められる素質・能力、国際協力機構(JICA)職員のキャリアパスなどについて、戸川氏の体験談も交えて2部構成による講義が行われました。現地に駐在した経験も持つ、人事部長ならではの視点で語られた講義は、学生にとっても大いに参考になったようです。

国際協力機構(JICA)人事部長の戸川 正人 氏。学生に向けて国際協力の現状と魅力を熱く講演しました

【PART1】国際協力およびSDGsについて
 戦後の日本は被援助国で、アメリカからも多くの援助を受けていました。世界銀行からも融資を受け、完済したのは1990年でした。また、日本は、資源・エネルギー、食糧など国民が必要とする多くのものを、海外、特に開発途上国からの輸入に依存しています。そのような歴史や状況を踏まえると、途上国のさまざまな問題の解決に取り組むことは、日本の責務といえます。

 2015年、国連の場で、世界のリーダーたちによって「SDGs=持続可能な開発目標」が設定されました。そのもとで、「だれ1人とり残さない」世界を実現するために、世界中の政府、NGOs、企業、国民が一丸となって開発を進めています。日本も政府開発援助(ODA)をはじめ、さまざまなツールを用いてSDGs達成に向けて努力しています。JICAもSDGsを意識したプロジェクトを実施していて、それらの具体的な説明がありました。

国際協力で得たグローバルな知見によって、人間的な成長とともに、将来の可能性の広がりが期待できます。

 現在、国際協力を取り巻く環境は変わりつつあり、かつての開発途上国が新興国となり影響力が増してきています。開発課題・問題も多様化・複雑化・広範化し、国際協力に関わるアクターも多様化してきています。

 国際協力の仕事は、大きく「プレイヤー」と「コーディネーター」に分けられます。「プレイヤー」は実践・現場に従事するスペシャリスト系であり、「コーディネーター」は計画・立案・調整を行うマネジメント系であると紹介しました。

 また、人事を担当する立場からみて、国際協力に携わる人材を目指す人には特に学生時代に養ってほしいこととして、以下の3点を挙げました。
(1) 構想力(夢を描く力)と実行力 
(2) 粘り強さ、忍耐力
(3) 顧客志向(相手の立場に立って考える姿勢)

 専門的能力のみを高めるのではなく、常識を備えた人間性を磨くことが大切であり、「現場に十分なリソースがないからできない」ではなく、そのような制約を乗り越えて「いかにして対応していくか」といった構想力が求められると訴えました。

 JICAは、1965年以降、5万2,000人超の青年海外協力隊員等のボランティアを派遣しています。現在、73か国で2,295人の隊員が活動しています。120以上の多岐に渡る職種があり、中には専門性の資格が求められないものもあります。派遣前の研修および派遣中の支援体制は整っているので、安心して業務に携われます。そして、派遣終了後は、派遣の経験を活かして企業や国際機関職員や省庁・地方自治体等の公務員、国際協力に関わる人材として活躍しています。
 また、JICA職員の採用は、新卒もありますが、転職からの社会人採用枠もあり、多様な人材に門戸を広げています。
 

【PART2】戸川氏によるラオスでの体験談・質疑応答

▲2012年、ラオスの国道9号線(東西回廊)道路維持管理プロジェクトの式典に出席した戸川氏(前列右から2人目)

 PART2では、戸川氏自身のJICAでの仕事例について語っていただきました。
 戸川氏は1984年にJICAに入り、研修事業部を皮切りに、88年からはパキスタン事務所、帰国後に本部のマネジメント関連の部局、2000年から3年間ベトナム事務所、2010年から3年間ラオス事務所でご勤務されました。ラオスでは事務所長として現地でマネジメントを行っています。

 ラオスは、1965年に日本が初めて青年海外協力隊を派遣した国であり、以来50年以上に渡って極めて良好な友好関係が続いています。そして現在では、駐在する日系企業が約130社に上っています。

 自身が携わった事業を振り返り、援助の方針として「ラオスは人口が少ないうえ分散していますから、タイやベトナムのような発展モデルは適用できません。ラオスらしい発展を進めようと思いました。不発弾処理への取り組みやうちわ産業振興支援プロジェクトや電気自動車の普及・実証など、環境にやさしい、人に優しい、ゆっくりとして焦らないというのがキーワードです」と、現地状況や国民性を踏まえた支援を行う様子やその後の経過について説明しました。
 
 特別授業の最後に行われた質疑応答では、学生たちから国際協力や途上国経済に関する質問があがりました。民間企業による途上国への投資、プロジェクトの成功と失敗の違い、反日感情を持つ国や日本を知らない国への支援についてなど。学生からの質問に、戸川氏はラオスをはじめ、パキスタンやベトナム等自身の経験や派遣ボランティアの具体例を挙げながら丁寧に答えていました。
 
 

<経済学部×FLP国際協力プログラム林光洋ゼミ> インドネシア・フィールド調査の報告会

▲林光洋ゼミの皆さんと。前列左から3人目より、A&Mコンサルタント有限会社 代表取締役 松本氏、JICA人事部長 戸川氏、経済学部教授 林光洋。

 続く4、5限目には経済学部とFLP国際協力プログラムの林光洋ゼミに戸川氏とA&Mコンサルタント有限会社 代表取締役 松本 彰氏を招き、質疑応答のかたちで授業が行われました。松本氏はJICAの海外事業でコンサルティングを行っており、2008年度以降、林光洋ゼミを訪れて学生たちを指導してくださっています。

 林ゼミの学生たちから、今年の夏に実施されたインドネシアでのフィールド調査についての報告会が行われました。学生らはマイクロフランチャイズ、環境教育、排水処理マネジメント、保健の4班に分かれて、それぞれのテーマについて調査を実施し、現在、論文を執筆しています。
 この日は環境教育班と排水処理マネジメント班が発表しました。戸川氏、松本氏からは、研究論文の質の向上につながるような具体的なコメントやアドバイスを受けました。

 今回の授業を通じ、国際協力の現場でマネジメントを行う戸川氏とコンサルタントとして現場で解決策を提案してきた松本氏という異なった立場の2人から意見を聞けたことで、国際協力の現場を目指す学生たちの視野がより広がり、今後の研究や学びにおける大きなヒントを得る機会になったようです。

▲排水処理マネジメント班のプレゼンテーション

▲保健班・小児用ワクチン接種についての発表

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