05 REPORT

「特別展示会―ユネスコ世界記憶遺産登録資料」
(舞鶴引揚記念館・中央大学政策文化総合研究所)

2019年10月23日

 2019年10月3日(木)~10月10日(木)、多摩キャンパス中央図書館1F展示ホールにて、舞鶴引揚記念館と中央大学政策文化総合研究所主催による「特別展示会―ユネスコ世界記憶遺産登録資料―」を開催しました。シベリア抑留と海外(外地)からの引き揚げの史実継承と平和の尊さを、1988年の開館以来、発信し続けている舞鶴引揚記念館(京都府舞鶴市)から、提供を受けて展示しました。
 会場には、2015年10月10日のユネスコ世界記憶遺産の登録につながった資料の一部で、舞鶴引揚記念館で所蔵されている白樺日誌、抑留中の様子を描いたスケッチブック、絵画(回想記録画)、シベリアの抑留者と日本にいる家族が思いを寄せあった葉書や手紙、防寒帽子、衣類などが並べられました。また当時、一部の日本人が抑留されたウズベキスタンの紹介パネル等、数々の所蔵品も併せて紹介されました。

▲多くの一般の方も来場されました

 会場を訪れていた中央大学文学部フランス語文学文化専攻1年の学生は、「戦争で日本がアジアの人々に対して行ったひどい歴史もあれば、逆に日本人が受けた歴史もある。この展示を見て、多角的な視点を持って文学や歴史を学ぶことの大切さを実感しました」。
 また、年配の男性は「祖父がシベリアに抑留されていたので、とても興味深く拝見しました。祖父はあまり語らなかったようですが、シベリアで日本に帰国する者、残る者の2つのグループに分けられたのだそうです。幸い祖父は帰国グループに属し帰国できましたが、戻れなかった方々のことを想うと……。そのような事実を知りたいと思い、シベリア抑留に関する本を読んだりもしましたが、この展示会に来て、初めて知ったこともありました。実際の物を見ることができましたし来てよかったです」と、感想を述べました。
 

舞鶴引揚記念館に所蔵された数々の資料など

▲極寒のシベリアで着ていた防寒の衣類

▲白樺の皮をノートにして拘留中の思いを綴った「白樺日誌」

▲帰国者が記憶をもとに描いた拘留中の記録画

▲日本の家族らと連絡を取り合った手紙

▲ウズベキスタンの紹介。舞鶴市は2020年東京五輪ウズベキスタン選手団のホストタウンです

    「ユネスコ世界記憶遺産登録資料」中央大学特別展示会の開催にあたって

舞鶴引揚記念館 館長 山下美晴さん

 ユネスコ世界記憶遺産に登録されたシベリア抑留と引き揚げに関する貴重な資料を中央大学でこのように大きく展示をしていただけまして本当にうれしく思います。また、この展示にあわせて、文学部の授業にお邪魔し、講演もさせていただきました。
 近年、戦争やシベリア抑留という歴史を実際に知り、体験された方々も高齢になり、継承する担い手が年々減少しています。「舞鶴引揚記念館」はシベリア抑留の事実と貴重な収蔵品を後世に確実に継承するために活動をすすめています。
 当時、シベリアに抑留されていた方々はちょうど大学生世代です。学生の皆さんには、先人が皆さんと同じような年代にこのような体験をしたという歴史をぜひ知っていただきたく思います。そして、二度と起こしてはならない戦争と引き揚げの歴史を継承し、平和への願いを未来に繫いでいただけることを願っています。
 

中央大学大学院文学研究科日本史学専攻 大澤 由悠さん

 第二次世界大戦は昭和20(1945)年8月15日に終戦しました。しかし、シベリアに抑留された方々が舞鶴に引き揚げた最後の年、昭和33(1958)年までそのご家族の方々の苦しみは続きました。また、帰国することができなかった方々のご家族の想いは今でも続いています。戦争は戦いが終わっても、負の歴史は続いてゆくのです。世界を見渡すと、中東や現在でも紛争している地域があります。その地域では、同様に苦しんでいる家族がいるのです。
 史学を専攻する私にとっては、歴史を紐解き、その事実を伝えていくことがいかに大切かを、今回の展示会を通じて学ぶことができました。

 

中央大学政策文化総合研究所研究員/中央大学文学部教授 佐藤 元英

 本企画展には、幸いにも多くの教職員はじめ一般の方にご来場いただきました。自由に見学いただきたいという趣向で特に受付を設けませんでしたが、7日間の開催期間で、留学生数名を含む141名の来場署名をいただいております。

 また、企画展と併せて、舞鶴引揚記念館の山下美晴館長にご講演いただきました。46万人のシベリア抑留体験者を迎え入れた「引揚げの町舞鶴」について、ユネスコ世界記憶遺産の登録申請にあたり、舞鶴市民の皆さんといかに取り組んだのか、抑留地であったウラジオストックやウズベキスタンといかにして友好関係を築いたのか、そして、企画展のテーマにも掲げられた、70年以上の時を経て「抑留の歴史から国際的な平和の交流」に繋がっている、というお話をいただきました。
 討論では、学生らが、シベリア抑留について多くの事実を学ぶことができたと謝意を表しつつ、舞鶴引揚記念館の活動や市民との相互協力について興味深く質問する場面が見られました。
 舞鶴市 多々見良三市長からは、本学の学生に対し、世界の平和の尊さというメッセージをいただいております。

 研究・教育の場で、このようなすばらしい企画展を開催することができましたことに対し、関係者の皆様、舞鶴市民の皆様に 心より感謝申し上げる次第です。
 

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