05 REPORT

第11回IW実施報告◇JICA×経済学部 特別公開授業「国際開発論」(林光洋) 「アジア、アフリカ等途上諸国の開発とJICAの役割」

2020年01月09日

インターナショナル・ウィーク 第11回  アフリカ・アジア諸国
 経済学部では、3年次以上を対象に途上国の開発を学ぶ講義『国際開発論』(担当=経済学部教授 林光洋)を開講しています。
この講義は、開発経済学をベースにしつつ、途上国の社会・経済発展、格差・貧困問題等について学際的に開発を扱っています。

 2019年11月12日(火)3限目、国際協力機構(以下:JICA)より、監事の戸川 正人 氏、国際協力人材部健康管理課課長 田中 理 氏、青年海外協力隊事務局海外業務第一課課長 川本 寛之 氏をゲストスピーカーとしてお招きし、多摩キャンパス7号館7102教室にて、特別公開授業「アジア、アフリカ等途上諸国の開発とJICAの役割」を開催しました。この授業は、本学のインターナショナル・ウィークのイベントの1つとしても実施され、本講義の履修者だけでなく、他学部からも途上国開発や国際協力に興味を持つ学生などが多数出席しました。
 
 第1部では、JICAがこれまでに実施しているさまざまな国際協力事業の中でも、インターナショナル・ウィークのテーマ、「アフリカ、アジア」地域における活動について、田中氏と川本氏がご自身の経験を交えながら講義しました。田中氏は中東・アフリカ地域、川本氏はアジア諸国を中心に、赴任地で実務にあたってきました。第2部では、国際協力の仕事に求められる素質・能力、JICA職員のキャリアパス等を紹介いただきました。出席した学生にとっては、途上国開発、国際協力についての視野が広がり、将来の進路選択に向け、大きなヒントを得る機会になったようです。

▲戸川 正人 氏 <国際協力機構(JICA)監事>
2017、2018年に国際開発論の特別授業で講義をしていただきました。パキスタン、ベトナム、ラオスのJICA事務所に駐在経験あり。監事の前は、人事部長として、採用、人事管理、後進の指導を担当。

▲田中 理 氏<JICA国際協力人材部健康管理課 課長> 大学で北欧言語を学び、スウェーデン、イギリスに留学。入構後は国内、中東地域等を担当し、国連へ出向。2015年よりJICA本部でアフリカ栄養改善やJICA人材の健康管理等に従事。

▲川本 寛之 氏<JICA青年海外協力隊事務局海外業務第一課 課長>大学では法学部で学び、入構後には外務省への出向、イギリス留学等を経て、アジアを中心に平和構築や復興支援等に従事。2018年より青年海外協力隊事務局に勤務。

 <第1部> 国際協力の現場から

ODA(政府開発援助)とサブサハラ・アフリカ支援について ~田中氏

●ODA~なぜ、日本以外の国の開発支援をするのか?

 ODA(政府開発援助)とは、政府が途上国・地域に対して資金(贈与・貸付)や技術の提供による協力、支援を行なうことです。
 
 特に日本は、第二次世界大戦後の復興過程で世界からたくさんの支援を受けました。現在日本は、飢えや貧困に苦しみ,十分な食料や飲み水が得られなかったり,教育や医療を満足に受けられなかったりする人々を抱える国・地域に対して、ODAを通じた支援をしています。途上国の開発を手助けすることは、私たちの親やその上の世代が恩をいただいた、その恩返しでもあります。
 日本はこれまでにトップクラスの貢献をしてきましたが、その成果として、先日の天皇陛下の即位礼には世界中のほとんどの国から来賓が来てくださったり、東日本大震災の際には、経済的に貧しい国からもたくさんの援助がありました。それは日本がこれまでに行ってきた国際社会への支援の結果です。つまり、私たちが途上国支援に取り組めば、それが次の世代に何らかの形で戻ってくるはずです。

 日本の「開発協力大綱」(2015年2月閣議決定)によれば、開発途上国を含む国際社会と協力して、世界のさまざまな課題の解決に積極的に取り組み、平和で、安定した繁栄する国際社会を実現すること、そしてそのような取り組みを通じて、国際社会のさまざまな主体と緊密な関係を形成していくことは、日本の豊かで平和な社会の持続につながっていく、ということです。

世界の国々が取り組む目標『SDGs』~2030年までに「誰ひとり取り残さない」

2015年9月、ニューヨーク国連本部において「国連持続可能な開発サミット」が開催され、193の加盟国によって「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」が全会一致で採択されました。
このアジェンダでは、「誰1人取り残さない~ No one will be left behind」を理念として、国際社会が2030年までに貧困を撲滅し、持続可能な社会を実現するために、『 SDGs(Sustainable Development Goals)』(持続可能な開発目標)として17のゴールが設定されました。

SDGsを達成するためには、1人ひとりに焦点を当て、これを、貧しい国、中所得国、豊かな国のあらゆる国々で取り組むことが必要です。さらに、民間企業や市民社会の役割が益々高まり、あらゆるステークホルダーが連携すること(グローバル・パートナーシップ)も求められています。

●変わるサブサハラアフリカ

▲提供:JICA

 アフリカ大陸の国々では、紛争や貧困、累積債務、汚職等の深刻な課題を抱えていたために、長い間、負のイメージがありました。しかし、2000年頃から「成長の大陸」として見られるようになり、今では新興国を含む多様性に富む地域へと変化しています。そして、資源の宝庫ということも功を奏し、成長著しい地域へと変化しています。
 
 日本は、1993年から政府が主導して、国連、国連開発計画、アフリカ連合委員会、世界銀行と共同で、第1回目のTICAD(アフリカ開発会議:Tokyo International Conference on African Development)を開催しています。
 ここで「アフリカ自身の自助努力を国際社会が支援していく」という理念を提唱しました。TICADは定期的に開催され、2019年には7回目となるTICAD7を横浜で開催しました。国際社会が広く知恵と努力を結集し、アフリカの開発をアフリカ自らが推進してゆくための議論を行っています。近年、世界各国がアフリカとの関係を強化するパートナー会議を開催していますが、日本が主導でスタートさせたTICADは先駆的存在で、アフリカ大陸の発展に大きく貢献しています。

●JICAの取り組み~「水の防衛隊」と「IFNA」

▲エチオピアにて。「水の防衛隊」の活動の様子。“バイ菌”が付く場所を考える小学校での手洗い授業(提供:JICA)

 世界の水事情の悪い地域に住む人は24億人と言われています。2008年に開催された第4回TICADで、日本側が提案したのが「水の防衛隊」の創設です。
 「安全な水をが飲めない→病気になる→学校に行けない→収入がない・上がらない→貧困→水道が引けない→安全な水が飲めない」という貧困の連鎖を断ち切るために、JICAでは「水の防衛隊」を組織しました。

 「水の防衛隊」は、2008年のスタート時からの10年間にアフリカの21か国で活動。水や地域開発に関わる専門家や青年海外協力隊員等を現地に派遣し、地域の住民と共に、井戸の建設、下水道の整備、安全な飲み水の確保、衛生指導等を実施し、住民が維持管理できる体制を整えるまで活動をしています。水は、栄養と同じように体に取り入れるものなので、細心の注意を払いながら活動をすすめなければなりません。

 さらにJICAは、2016年に開催された第6回TICADにおいて、IFNA(イフナ)「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ」を立ち上げました。アフリカ各国と支援機関がより連携を深めて現地の具体的な取り組みを推進し、栄養改善に向けた目標の達成を支援するもので、アフリカの栄養改善に向けた実践活動の促進や普及をすすめています。
 

アジアの紛争地域支援の難しさ ~川本氏

●フィリピン・ミンダナオ島                   日本の対フィリピン開発協力方針(2018年4月)

▲提供:JICA

 川本氏は2007年にJICA本部の平和構築担当として、2016年には国際監視団(IMT)への派遣専門家として、フィリピン・ミンダナオ島に派遣されました。
 フィリピンは、生産年齢人口が若く、平均年齢が20歳代の勢いのある国です。フィリピンの人たちは我慢強くてとても真面目な人たちですが、おしゃべりが好きで盛り上げてくれる印象もあり、愛すべき国民だと、川本氏は言います。

 2016年に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、破天荒なイメージがありながらも責任をもって国政に取り組み、2040年までの長期開発計画では、マニラ一極集中を是正するためにも、地方、農村部におけるインフラ開発の推進を掲げています。
 また、日本と良好な関係を築いており、フィリピンにとって日本は最大のODA支援国です。2016~2018年には安倍首相と外務大臣が2回フィリピンを訪れています。世界の国々と交渉をすすめる首相が特定の国に複数回行き来するというのは珍しいことで、それは日本政府がフィリピンとのパートナーシップを重要視している証です。

●ミンダナオ島における紛争地支援

  JICAの紛争地域支援においては、基本的には和平合意が結ばれた後に、支援活動のために現地に入るのが一般的です。しかし、フィリピン・ミンダナオ島については和平合意が結ばれる前から支援を始めていました。コミュニティ・レベルの人々に、和平交渉継続中の段階から「平和の配当」を実感できる開発支援を届けることは、和平プロセスの促進につながるからです。
 治安が維持され停戦中のときに、主に、住民の基本的ニーズの充足やキャパシティ・ビルディング等の支援をしています。川本氏は銃を持ったPKO(国連連合平和維持活動)の兵士たちと寝食を共にし巡回活動等をしていました。40年も続いたミンダナオ島の和平交渉中に、住民の安全保障を支援するということは、開発援助機関としてするべき事業は基本的に変わりませんが、紛争影響地域ならではの支援の難しさがあったようです。

▲2006年から5代目となるIMTへの派遣。川本氏は9人目のIMT派遣専門家として赴任しました(前列右が川本氏)

紛争影響地域支援の難しさ
1.治安が不安定 →現場にいつも入れるわけではない
2.基礎データの欠如 →事前の下調べができない
3.政府機関が不在である
4.人口が流動的 →住民が逃げていくため人口調査はできない
5.高い技術を要しない基礎的支援ニーズが多い
6.行政(警察を含む)への不信感がある

 
 治安が維持され、住民が物を作れるようになり、所得を得るようになれることが第一歩です。そのためには、水をひかなくても稲ができる等の農地を整備する、医療従事者・医療器材を揃える、公民館や自治制度を立ち上げる、税収をあげる、というようなことも必要で、住民代表への研修も行います。

<第2部> 国際協力の仕事

国際協力のキャリアを目指す方へ~国際協力人材に求めるもの~

 さまざまな現場での経験を経て、現在、JICAで活躍している田中氏と川本氏から、学生に向けて国際協力人材に必要なこととして以下のアドバイスがありました。

                                       ~国際協力人材に必要なこと~

①構想力(夢を描く力)と実行力
多様化・複雑化・広範化する開発課題に対して、前例にとらわれず新たな解決策を打ち出すためには、柔軟な思考とチャレンジ精神が必要。

②粘り強さや忍耐力
自らの意志を強く持ち、人を巻き込んで粘り強く取り組み、結果を出す。

③顧客志向(相手の立場に立って考える姿勢)
相手の立場を理解しつつ、win-winの関係を追及する姿勢をもつこと。

どんなに能力が高くても社会常識を備えておく必要がある。「専門性」を磨くとともに、「人間性」も磨くことが重要である。
 

▲日本からの援助物資。2013年、田中氏は国連に出向。JICAと連携してパレスチナの難民支援に携わりました

●田中氏~本部の健康管理課の業務を通じて思うこと
 アフリカでも中東でも、効果を実感してくれるパートナーの国の人々がいたり、支援によって助かったと感じてくれる人たちがいたりします。自分が貢献できていることを直接確認できることが海外の現場で感じたやりがいでした。
 そして現在は、本部で、隊員や職員らが病気にならないように、またケガの際のサポートをする仕事に従事しています。地味にもみえますが、私にとっては最大のやりがいを感じています。たとえば青年海外協力隊員が派遣先で事故に遭い、帰国治療が必要となった場合に、飛行機やドクター等を手配します。年に約10人が志半ばで帰国しますが、これをゼロにできたり、彼らが復帰できたりすれば10人の力が世界のために活かされます。私がひとりで仕事するよりも10倍以上の力を発揮してくれるのです。そういう思いで、日々活動しています。
 
●川本氏~復興支援・開発支援の現場で感じたこと
 これまでボスニア・ヘルツェゴビナ、スリランカ、ミンダナオにおいて平和構築と復興支援に関わってきましたが、心が折れてしまうときもありました。そんな絶望に陥りそうなときには、現地でがんばっている住民たちに励まされます。自分たちは2~3年で日本に帰国しますが、現地にはそこにずっと住む人がほとんどです。主役は現地の人々なのです。
 現在は、青年海外協力隊事務局を担当していますが、国際協力の仕事はさまざまで多岐に渡ります。開発計画に基づいて、どのような支援が必要なのかをデザインし、プロジェクトを作り、マネジメントするJICA職員のような仕事もあれば、現地でフィールドに入ってプロジェクトを実施したり、活動をしたりする専門家や協力隊のような仕事もあり、国際協力の仕事は多様です。
 
~国際協力のやりがいとアドバイス~
・派遣先では、現地の言葉を使い、現地の人と同じ暮らしの中で支援できる。
・世界のいろいろな場所に身を置き、人と出会うことで刺激を受け、それが自らの成長につながる。
・世界と日本の絆を通じて世界と日本の社会経済への貢献の実感が得られる。
 
 ひとつひとつのステージごとにコンクルージョン(結論)を得ることが次のステージに必ず役に立ちます。まだ将来の目標が明確でなくても、目の前にあることを一生懸命にやって結論を出してください。きっと将来、そのことが生きると思います。

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