05 REPORT

第11回IW実施報告◇世界銀行×経済学部 特別公開授業
国際開発論(林光洋) 「アフリカをはじめとする途上諸国における開発課題と世界銀行の役割」

2020年02月04日

インターナショナル・ウィーク   第11回 アフリカ・アジア諸国

▲世界銀行東京事務所上級広報担当官の大森 功一 氏

 2019年11月26日(火)3限目、多摩キャンパス7号館7102教室にて、世界銀行東京事務所より上級広報担当官の大森 功一(おおもり こういち)氏をお招きし、経済学部「国際開発論」特別公開授業 「アフリカをはじめとする途上諸国における開発課題と世界銀行の役割」を実施しました。
  経済学部では、3年次以上を対象に途上国の開発を学ぶ講義『国際開発論』(担当=経済学部教授 林光洋)を開講しています。この講義は、開発経済学をベースにしつつ、途上国の社会・経済発展、格差・貧困問題といった開発の課題を学際的に扱っています。この特別公開授業は、本学のインターナショナル・ウィークのイベントの1つとしても実施されました。本講義の履修者だけでなく、他学部からも途上国開発や国際協力に興味を持つ学生などが多数出席しました。
 
 世界銀行は、貧困削減と持続的成長の実現に向けて、途上国政府に対して融資、技術協力、政策助言を提供する国際開発金融機関です。アフリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development:TICAD)の共催団体の1つでもあります。2019年8月末に第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が横浜で開催されました。大森氏は、世界銀行が実施したTICAD7のサイドイベントの様子の紹介を通じて、アフリカの説明をしました。また、世界銀行が国際社会に対してどのような役割を果たしているのか、職場としての世界銀行について等、大森氏の活動や経験を交えながら紹介しました。
 
 以下で講義の様子をご紹介します。

アフリカの人たちが自ら成長・発展し、問題解決を目的とするTICAD

 アフリカ開発会議(TICAD)は、アフリカの開発をテーマとする国際会議です。1993年より、日本政府が主導して国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催しています。この会議にはアフリカ各国からの首脳や外相など、閣僚級が揃い、アフリカの自律的な成長と発展、アフリカの抱えるさまざまな問題について話し合います。
 
 2019年8月にTICAD7(テーマ:アフリカに躍進を! ひと、技術、イノベーションで。)が横浜市で開かれ、アフリカ53か国のほか、52か国の開発パートナー諸国、100を超える国際機関・地域機関、民間セクターやNGOs等、10,000名以上が参加しました。 人づくり、基本的インフラの整備、ガバナンスの整備、イノベーション、デジタル開発等、さまざまな分野で課題があります。世界銀行は、会議の中で「アフリカのデジタル開発イノベーション」をコーディネイトしましたが、各国のデジタル開発への関心は非常に高く、日本の科学技術とそれによる支援に期待を寄せています。

▲世界銀行・UNDP・JICA共催による、STI をテーマとしたサイドイベントの様子(世界銀行ホームページより)

 また、会議の期間中に100以上のさまざまなサイドイベントを開催しましたが、Science, Technology and Innovation (STI)関連のブースに人気が集まっていました。世界銀行グループはJICA、民間企業や大学等と共催して、「スポーツ」「食料・都市化・気候変動」「高等教育とSTI(科学技術イノベーション)「起業とSTI」の4つのテーマでイベントを実施しました。 専門家や有識者による講演やパネルディスカッション、展示イベントを通じて、アフリカの人々や支援する現場の声、力強いメッセージを聞くことができ、参加者同士が情報を共有できる場となりました。 
 「スポーツ」では、鈴木大地スポーツ庁長官(ソウル五輪水泳金メダリスト)、高橋尚子氏(シドニー五輪女子マラソン金メダリスト)、テグラ・ロルーペ氏(女子マラソン元世界記録保持者)らを招き、開発におけるスポーツの役割やアスリートが国の発展に寄与できること等について議論しました。「食料・都市化・気候変動」では、エスベン・ルンデ・ラーセン(世界資源研究所フェロー、元デンマーク環境・食糧大臣)、金丸治子氏(イオン株式会社)らを招いて、アフリカで急速に進む都市化とそれに伴う食糧システムの変化がもたらす新たな課題や最新技術の普及がもたらす影響や課題などについて議論しました。

▲中央大学多摩キャンパス中央図書館で実施された巡回展。開催期間中には、多くの学生、教職員、一般の方が訪れました

  また、TICAD7の開催を記念した写真展「アフリカ、胎動する大陸」を横浜と東京で開催しました。芸術を通じてアフリカの創造性、多様性、強靭性、強さを知ってもらうことを目的とし、世界銀行職員で農業エコノミストのドルテ・ヴェルナー氏とジャズミュージシャン渡辺貞夫氏が撮影した素晴らしい作品ばかりを選び展示しました。見た方もいると思いますが、この写真展は、初の巡回展として中央大学多摩キャンパス中央図書館で実施されました(2019年11月18日~11月22日)。中央大学での巡回展を皮切りに、日本各地で開催される予定です。


 次回のTICADは、3年後にアフリカで開催する予定ですが、今回の成果を維持したり、企業の関心を実際に仕事につなげたりすることができるのか、というような課題もあります。出席した各国の閣僚級の人たちが、次の開催を待たずに異動してしまうというようなことも実際にあります。世界銀行グループでは、TICADセミナーの実施等を通じて、アフリカに関連する情報や問題提起のレポートを引き続き発信していく予定です。
 

世界銀行グループとは

 世界銀行グループには、189か国が加盟しています。本部は米国・ワシントンDCにあり、世界各地127 か所の事務所で約16,000 人のスタッフが開発のためのインフラ、保健、教育、気候変動などの地球規模課題、ジェンダー、ガバナンスといった幅広い分野で、途上国への支援を行っています。

●世界銀行グループは以下の5つの機関から構成され、貧困のない世界を目指して、資金協力や知的支援などを提供しています。
・国際復興開発銀行(IBRD):低・中所得国への融資等
・国際開発協会(IDA):最貧国への融資、贈与等
・国際金融公社(IFC):民間セクターへの投資や長期融資等
・多数国間投資保証機関(MIGA):民間投資に対するリスクへの保証、信用補完等
・投資紛争解決国際センター(ICSID):国際投資紛争の調停・仲裁の場

 財源は、加盟国からの出資金と国際資本市場で発行する世界銀行債券で調達した資金です。特に2015年以降は、SDGs(2030年までに達成する 17 目標、 169 ターゲット)の達成に向け、国際開発金融機関(MDBs)、国際通貨基金(IMF)、民間セクターとのこれまで以上の連携を強化し、また国連機関と協働して取り組みを進めています。

●世界銀行の融資とプロジェクトの流れ

▲大森氏の授業資料より

 世界銀行は、途上国政府が自国のさまざまな課題を解決できるように、資金とノウハウの面で支援しています。具体的には、途上国政府に対して、資金の融資、政策のアドバイス、人材育成などを行っています。途上国政府は、受けた融資を使い、機材、機器、土木工事、コンサルティングサービス等を発注し、企業、学術機関、NGO、個人など専門家らの手を借りながらプロジェクトを実行していきます。

 第二次世界大戦後の日本も世界銀行の融資を受けました。主に鉄鋼、自動車、造船、ダム建設、電力開発、運輸セクター等の分野で融資が実行され、東海道新幹線や東名高速道路、黒部ダム、各地の火力発電所などが建設されました。日本は1966年に最後の借入をして1990年に返済を完了しています。日本は、世界銀行からの資金を基礎として戦後の著しい復興と躍進を遂げ、現在では、第2位の世界銀行の出資国として、世界中の途上国の経済成長を支援しています。

 現在、世界銀行グループでは、ホームページ内の「データバンク」で、さまざまなデータのほか、開発支援に関わってきた約8,000の開発指標や1万件以上の調査レポートを無料で公開しています。右上図は、国際開発を学ぶために役立つ3つのポイントです。国別の支援戦略、プロジェクトの内容や進捗状況を知ることができます。ホームページをチェックすることをお勧めします。

キャリアについて:職場としての世界銀行

 127か国に事務所があり、177か国、1万6,000人が従事しています。それぞれがプロフェッショナルに業務を遂行しています。フレキシブルな働き方ができ、テレワークも可能で、他国に住みながら東京事務所に所属することもできたりします。次のポジションへの異動は自ら応募して勝ち取るシステムで、そういう意味では競争の激しい職場でもありますが、個人の専門性を活かしながら、それぞれのライフステージに合わせた働き方をすることができて、働きやすい場所です。
 
職員に必要とされること
・3つの要素 ~英語力、専門性、途上国での活動経験 → 32歳頃(大学卒業後10年間)までには身に付ける
・3つの力 ~プレゼンテーション力、リーダーシップ力、気力と体力
・あきらめないこと

 日本人職員の採用活動も積極的に展開しています。採用には開発途上国での活動経験が必要なため、大学卒業後すぐの採用はありませんが、若い世代向けのプログラムが用意されています。ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)という日本人向けプログラムや インターンシップ・プログラム(夏季・冬季)等です。ホームページにも採用基準などの詳細が出ていますので、ぜひとも参考にしてください。

<経済学部/FLP国際協力プログラム 林光洋ゼミ>
フィリピンでのフィールド調査結果発表会

 続く4、5限⽬、経済学部/FLP国際協⼒プログラムの林光洋ゼミでは、 世界銀行東京事務所(上級広報担当官)の大森 功一氏をお迎えし、3年生のフィリピン・マニラでのフィールド調査に基づく研究結果の発表会が⾏われました。この発表会には、4年生と2年⽣も参加しました。
 3年⽣は、防災、教育、保健医療、BOPビジネス分野の4班に分かれて、春から研究計画の検討を重ね、夏に現地を訪問して調査を実施しました。帰国してからは調査結果をまとめ、翌月の「FLP国際協力プログラム期末成果報告会」(12月14日実施)でのプレゼンテーションを準備したり、最終的な成果物である英語論文を執筆したりする作業を続けてきました。
 
 大森⽒は、世界銀行に勤務するなかで、さまざまな国の情況や多様な要望を踏まえながら貧困削減や開発支援に携わってきました。さらに、現在はさまざまな情報を発信する広報としても活躍されています。4班の発表に対して、出典データを含めてクリティカル(本当にそうなのか)な視点をもつとよい、ファイナンス面を含め持続可能性の視点をもつとよい、途上国の事例だけでなく日本の取組事例から学べることを反映するとよい、研究する上で世界銀行の公開データを参考にするとよい等、具体的な指摘とアドバイスしていただきました。

 この授業を通じ、国際協力をする上での心構えや研究に対しての視野、研究結果の伝え方等を助言いただき、前期から取り組んできた研究に関してだけでなく、将来の進路やそのために準備するべきことなどに関しても、ゼミ生各自は大きなヒントを得る機会になったようです。

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