05 REPORT

【経済学部】できること会議 - オンラインイベント
~ 人ごとにしない #BLM ~ 学生国際交流委員会 × LA白門会

2020年09月10日

 2020年8月4日、経済学部公認の学生団体である、学生国際交流委員会(IEC)主催によるオンラインイベント「できること会議~ひとごとにしない#BLM~」が行われました。

 このイベントは、難しい・堅いイメージのある人種差別問題について、#BLM(Black Lives Matter:黒人の命も大切だ)を題材に、動画視聴やヒアリングを通じて自らが考える、そのきっかけづくりとして実施されました。Zoomを利用して行われたこの会議には、経済学部のみならず他学部、他大学の学生が参加しました。また、アメリカ・ロサンゼルスよりLA白門会に在籍する中央大学OG・OBの方々にも特別に参加していただき、オンラインを通じて学び合いました。

 ヒアリングセッションでは、中央大学経済学部准教授の中川康弘先生、慶應義塾大学2年の高杉真由香さん、中央大学OGでLA白門会副会長の満田泉さんが登壇しました。中川先生からは多文化教育の視点で、高杉さん、満田さんからはアメリカでの経験を基に、#BLM運動や人種差別問題、多様性などについてお話しいただきました。
 
 参加した約40人の皆さんは、動画視聴やヒアリングセッションを通じて知識を深めた後に、5人ずつのグループに分かれて意見共有をしました。

「無意識から意識へ」「THINKからACTIONへ」という目標を掲げて開催された本イベントを通じて、参加した多くの皆さんが#BLMの現実と併せて、アメリカだけでなく日本や世界中にある人種差別問題について、多角的な視点を学び、自分事として捉えたり、何かしらの行動を意識できるようになったりするなど、成果の残るイベントとなりました。

以下でイベントの詳細をご紹介いたします。

 はじめに。アイスブレイク~MOVIE

 はじめに、学生国際交流委員会の代表を務めている中島さん(経済学部3年)から、イベントの主旨が紹介されました。
 「日本人の人種差別に対する当事者意識の低さを喚起したいと思い、本イベントを企画しました。イベント名『できること会議〜他人ごとにしない#BLM~』には、人種差別問題に関して、”自分たちのできることを考えよう”という学生国際交流委員会からのメッセージが込められています。ヒアリングセッションに加えて、参加した皆さんの意見を聞いて、自分の中で咀嚼して考えてもらいたいです。今回は「#BLM」という人種差別運動を一つの軸にしてイベントを進めていきますが、自分の周りにある差別問題について考えるきっかけづくりとして、このイベントを活用してほしい」と挨拶を締めくくりました。
 
「#BLM」※=#BLM(Black Lives Matter/ブラック・ライヴズ・マター)
アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為に抗議するために、Opal Tometi、Alicia Garza、Patrisse Cullors、3人の黒人女性が立ち上げたアメリカ合衆国の組織的な運動のこと。2012年に黒人少年が射殺され白人警官が無罪になった事件から、「#Black Lives Matter」(黒人の命も大切だ)として拡散されていった。2020年5月にはアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが偽札使用の疑惑で警察に拘束され、無抵抗だったにもかかわらず白人警官は彼の首を圧迫しつづけた結果、死亡してしまう。これを発端とする抗議活動が国際的にも注目を集めるようになり、人種差別反対運動が過熱している。
 続いて、参加者の皆さんは小グループに分かれて自己紹介やアイスブレイクゲームを実施しました。後半の意見共有をスムーズにすすめるために5名程度のグループで交流しました。アメリカからの参加もありましたが、まるで同じ部屋でグループワークをしているような雰囲気の中で交流できたようです。オンラインという環境だからこそ実現できたことです。

 その後は、人種差別問題をテーマとした2本の動画を視聴しました。「衣料品店の店員が黒人の客に対して人種差別的な行動を取ったとしたら、周囲の客はどのような行動をするか」といったドッキリ企画のような実験動画と、「子どもたちが肌の色についてどのような価値観をもっているのか」について、子どもたちに白人と黒人の人形を選んでもらう映像でした。一般の人たちが人種差別的な行動にどう対応するのか、子どもたちがいつから人種差別を意識するようになるのか等を動画から知ることができた、考えさせられる動画でした。

【You Tube】UNVLK チャンネル
あなたならどうする?~人種差別の実験~

【You Tube】Fanpage.it チャンネル
Doll test - The effects of racism on children (ENG)

  ヒアリングセッション ~3人の皆さんにそれぞれの立場からの意見をお聞きしました

多文化教育の観点から考えるべき視点と問題提起

■中川  康弘(なかがわ やすひろ)
中央大学経済学部准教授
専門分野:日本語教育学、多文化教育

 中川先生には、ご専門のひとつである多文化教育側面からレクチャーいただきました。
「多文化教育の基盤は、人種や民族間の教育機会配分の不平等、マイノリティ文化の差別の是正といった政治的運動から生み出されてきたものにあります。クリティカル=批判的思考で考えてみてください。この場合の批判的というのは単なる否定ではなく、自分の論理構成を内省し適切な分析をするという意味です」。この批判的思考を踏まえ、意識として向き合う点について、以下の3つのポイントを提起されました。

①制度的人種差別への意識
制度的人種差別(systemic racism)とは、あからさまな直接的な差別ではなく、現行の制度の下で暮らす限り、社会全体が行う差別的行為に私たちも加わっているということである。そのことに敏感になろう。

②日常に潜む(刷り込まれる)教育文化(メディアを含む)への意識
身近な人やメディアの影響、受けてきた教育などから、知らず知らずのうちに刷り込まれていくものがある。言葉の中にも潜んでいて、色を例にあげると、白からはポジティブを、黒からはネガティブをイメージしやすい。白=美白・勝つ等、黒=ブラックリスト・ブラック企業・負ける等がある。他にも昔は絵の具の色の名前に“肌色”があったけれど、この名前自体も制度的差別の言葉である。メディアの面からみると、海外ニュースもよくみれば、アメリカ、イギリス、フランスなどの西洋諸国を中心に「世界のニュース」と構成される傾向がある。世界中にはもっと考える必要のある国々のニュースもあり、一定の国だけに特化することについても敏感になろう。

③運動(#BLM)そのものへの意識
BLMを日本語に訳すと「黒人の命も大切だ」というが、ここで言う黒人は誰のことか? 文化や民族を本質主義で考えると多様性が外されてしまう、そのことに敏感になろう。
「運動」という面からみると、LGBT運動というものがある。この運動は現在進行形だが、近代の婚姻制度や家族制度に再考を促し、新たな性の様式を投げかけている。#BLMの場合はどうか、黒人VS白人、差別・反差別の二分法になっていないか。新しい様式について考えてみる必要がある。


反差別・反人種を目指す二分法構図そのものを見直すこと。新しい社会の新しい人間の在り方とは何なのか。それを考えることの先に、問題の答えがあるように思います。

幼少期に経験したアメリカでの差別体験から思うこと

■高杉  真由香さん(たかすぎ まゆか)
慶応義塾大学 総合政策学部2年
父の仕事により幼少期7年間をアメリカで過ごす

 
 高杉さんは、学生国際交流委員会委員長 中島さんの高校の後輩というご縁でこのイベントに登壇しました。日本人の父、韓国人の母を持つ高杉さんには、アメリカで体験した差別体験や大学で学んでいること、人種差別問題についての思いを語ってもらいました。
「アメリカ人でも知識を持っている人もいます。そのような人たちは、アジア人や日本人を見下すこともなければ、特別扱いもすることがなく普通に接してくれます。しかし残念なことに一部には、アジア人を見下している人々もいます。私が体験した差別を例として紹介します」

<高杉さんの差別体験例>

・白人の友達から「真由香はアジア人だよね?、じゃあ中国人だよね」、他にも過激なことを言われた。それを近くで聞いていた先生が白人の子に注意をし、その理由を聞くと、白人の友だちには悪気はなく、親から聞いたことをそのまま発言したという。
・プール教室で温水シャワーを使ったときに「アジア人のくせに良いシャワー使うのね」と白人の子どもの保護者から言われた。
・老人ホームの慰問の際に、日本人の友人が戦争を経験している高齢の入所者から「パールハーバー、ジャップ」といった言葉をかけられた。人種によって差別的なことを言われたりされるというのは寂しい。
・中国人を筆頭に、アジア人は見下されたり、悪い印象を持たれて差別的を受けることがあるが、黒人の友人たちはもっと辛い経験をしている。彼らは普通に外を歩くだけでも、常に身の危険を考えながら、できるだけ安全に生活できるように生活している。

  現在、大学で国際関係や政治の勉強をしている中で、「人間というものは自分と異なるものや予測できないものを怖がるものである」と、先生からよく言われています。相手に対する知識や理解が足りないと恐怖を抱き自分を守ろうとする意識が高まります。人付き合いでも、何かを行動するにも、まずは相手に対する知識を増やすことが大切なのだと思います。
 また、日本人は日本に住んでいれば自国の文化に守られ、世界の中では比較的平和な島国です。ここで暮らせることが幸せであり、簡単に手に入れられないことであることを意識したいです。自分に知識を付ける、相手を理解する、そこから黒人差別の問題をはじめ、さまざまな問題について、これからも考えてくれる学生が増えることを期待しています。

 現在、慶応義塾大学FSCで大学の授業から派生した学生団体の発足に関わっています。『 Diversity in Asia 』という団体です。アメリカに限らず、アジア人同士でもお互いの理解が足りていないと感じていて、日本人から見た中国人や韓国人について等、アジアの多様性について考えています。昨年、シンガポールとインドネシアでインタビュー撮影をしてきました。その様子や団体の詳細を、Instagramの " 慶應義塾大学@diversityinasia2020 " で紹介しています。ぜひともチェックしてみてください。

アメリカで生活するなかで感じてきたさまざまな差別、家族のこと。学生の皆さんへのメッセージ

■満田 泉さん(みつだ いずみ)
LA白門会副会長/中央大学
法学部卒業、在米歴30年以上。
航空会社CAを経て、Kimura London & White LLPに
勤務しパラリーガルとして活躍中。
 

 満田さんはアメリカに移り住んで30年以上になります。アメリカ・ロサンゼルスで暮らしてきて、これまでに見てきた・経験したことやご家族の経験のほかに、犯罪に関わる数字からみる、黒人差別の実態を聞かせていただきました。

<アメリカで暮らして感じたことや実情>

・いわゆる黒人のことを「アフリカ系アメリカ人」と表現している。また、「ブラック」という言葉は、形容詞で使うことはあっても、名詞として使うことは差別につながるので使わない。
・犯罪を犯して刑務所に入ったアフリカ系アメリカ人・白人の割合や刑期に関するデータを紹介からは、そこから黒人差別の実態が数字で見てはっきりと出ている。白人と同じよう犯罪を犯してもアフリカ系アメリカ人の方が長い刑期を言い渡されたり、白人判事が白人に対して軽い量刑を出したりする実態もある。
・また、家族のことを例に挙げると、私の姉はアフリカ系アメリカ人の男性と結婚し、3人の子どもがいる。甥が運転中に警察に車を止められた際に、車の中まで調べられたこともあった。私が運転中に停められることはあっても車内を調べられるようなことはない。また#BLM運動について家族で話し合いたくても、姉は子どもたちから「You don’t understand、ママにはわからない、肌の色が違うんだから」と言われたという。家族なのに分かり合えないことがある。
・アフリカ系アジア人に限らず、アジア系に対するはっきりとした差別がある。さきほどの黒人のお客さんが差別される動画を見て、日本人に対しても起こりうることだと思った。

 このように人種差別問題がある中で、なぜ「All Life matter」ではなくて ”#BLM” なのか、中川先生のおっしゃった制度的人種差別、その差別の根底には、彼らが奴隷として連れてこられた人ということが根付いているからなのではないかと思います。
 また、日本にも、人種、ジェンダー、年齢に関係するような差別がたくさん存在しています。身近なところにさまざまな差別があることを意識してほしいです。

 最後に、このイベントに参加にあたり、学生の皆さんにお伝えしたいメッセージを紹介します。

You Must be the Change You Wish to See In the World

・#BLMの背景には、諸説がありすべての説に一理あると言えるが、自分で情報を取捨選択し、自分の意見を持とう。
・偏見や人種差別の背景はさまざまで永遠の課題ではあるが、それをなくしたいと思う人、なくす努力を続ける人でいることは重要である。
・人は必ず他者とのつながりの中で生きており、繋いだ手の先には、必ず多種多様な背景を持つ人たちがいる。
・海外に出れば、嫌でも日本人代表になる。日本人としての自己を確立して他者と交わり、他者との違いを受け入れる社会を築き、次世代に引き継ごう。
・学ぶこと、人との出会い、他者と語り合い共鳴し合うことは人生の醍醐味である。
・家族、友人、先生、多くの人に助けられてここまできたことを忘れず、誰かを助けたり誰かに支えられたりしながら豊かな人生を送ってください。

 イベントを終えて ~委員会代表 中島さんからのメッセージ~

 ヒアリングセッションの終了後には、アイスブレイクゲームと同じ小グループに分かれて、意見共有しました。動画視聴・ヒアリングセッションを経て、このイベントの感想や自らの考えに変化があったか、LA白門会の方からアメリカの現状を詳しく聞いたり、これから私たちがどうしていくべきか等、グループごとにさまざまな思いを共有することができたようです。

 中央大学の後期授業がオンラインで実施することに併せて、学生国際交流委員会では、後期にも同様のオンラインイベントを計画しているようです。委員会のTwitterとInstagramでイベント情報をお伝えするようです。
 
イベントを終えて、学生国際交流委員会の委員長 中島さんからお言葉をいただきました。
 
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  新型コロナウイルスが蔓延する中で、今、私たちにできることは何かと考え、学生国際交流委員会として初めてのオンラインイベントを開催致しました。初めてのオンラインイベントということで不安もありましたが、約2ヶ月に渡る準備期間から、多くの方々に支えられ、このイベントを無事に終えることができました。コロナ禍で人と接する機会が制限される中、あらためて「人のつながり」を実感することができました。

 登壇いただいた中央大学准教授の中川康弘先生、LA白門会の満田泉様、慶應義塾大学の高杉さんによるヒアリングを通じて、参加者した皆さんには人種差別を多角的な視点で捉えていただけたと思います。また、LA白門会の皆さんにはグループワークにも参加していただき、アメリカ現地での現状について生の声にも触れていただきました。

 お三方をはじめ、LA白門会の皆さん、経済学部事務室の方々には本当にお世話になりました。また、参加者無くして私たちのイベントも成立せず、参加していただいた皆さんには感謝の気持ちで一杯です。今回参加してくださった皆さんがいつか異なる人種の方と関わる際に、このイベントのことを少しでも思い出していただけたら幸いです。
 
  学生国際交流委員会 委員長 
中島(経済学部3年)

   お世話になった、LA白門会をご紹介します

 LA白門会(中央大学ロサンゼルス白門会)は、ロサンゼルス周辺に在住する中央大学出身者同士が集う会です。現地で活躍される先輩、奮闘している後輩、勉学に励む現役学生等、中央大学のOG・OBらが交流できる場として、約70人が参加しています。
 新型コロナウィルスの影響で2020年度は実現できませんでしたが、毎夏LA白門会のバックアップの下、「LA白門会インターンシッププログラム」が実施されています。参加した学生は約2週間、現地の企業、会計事務所、法律事務所などで研修を行います。2019年度には13期目を迎えました。
(▶写真は13期生と白門会の皆さん)


☆今回のオンラインイベントには、副会長の満田泉さんのほか、LA白門会所属の先輩方にご参加いただきました☆  
    ◎ファウラー  ゆかりさん:ヨセミテ/マリポサカウンティ観光局(アンバサダー)、文学部卒
    ◎若林  大幹さん:劉&若林法律事務所(弁護士)、法学部卒
    ◎山﨑  健史さん:SingerLewak LLP(Manager)、理工学部卒       
    ◎卜部  健治さん:MicroVention Terumo(Business Planning Manger)、総合政策学部卒

   経済学部学生国際交流委員会をご紹介します

 2011年度に始動した中央大学経済学部公認団体である学生国際交流委員会は、2018年にIECと名称変更して、新たなスタートを切りました。
 「国際交流をもっと気軽に、楽しいものに」というビジョンを掲げて、年齢や国籍、ジェンダーを超えた国際交流を目的としたイベントの企画・開催を行い、新しいコミュニティが生まれるきっかけづくりができるように、授業の合間に活動をしています。
 現在、メンバーは12人。コロナ禍にあり、これまでと同様の活動をすることができませんが、来年度に対面授業が再開した際にはパワーアップした活動ができるように、オンラインイベントの開催等を通じて、意識を高めたり、メンバー同士の交流を深めています。
(▶留学生たちとイベント後に撮影)

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