05 REPORT

2021年度FLPスポーツ・健康科学プログラム期末報告会講演会  「スポーツの力で誰一人取り残さない『スポーツ×SDGs』の現在」

2022年02月22日

▲写真は岸氏のPPTより

 2021年12月11日(土)、FLPスポーツ・健康科学プログラム期末報告会が行われ、終了後に報告会の一環として、法学部OBで、一般社団法人A-GOAL(以下;A-GOAL)代表の岸  卓巨さんによる講演会「スポーツの力で誰一人取り残さない『スポーツ×SDGs』の現在」がオンラインで開催されました。

 岸さんが代表を務めるA-GOALは、2020年5月、新型コロナウイルスの影響を受け、生活に困窮するアフリカの人々への緊急支援活動を目的として設立されました。設立以降、ケニア、ナイジェリア、マラウイなどアフリカ各国で現地の地域スポーツクラブと連携し、これまでに1万人以上の人々へ食料や衛生用品を届けてきました。
 今回の講演会では、スポーツの力を生かした支援とSDGs(国連の持続可能な開発目標)について、プログラム履修者に考察を深めてもらいたいと、岸さんからプロジェクトの概要やアフリカの現状について紹介していただくとともに、ケニアと中継を結び、現地の様子をリアルタイムで伝えていただきました。
 また、総合政策学部教授 小林勉がファシリテーターを担当し、学術的な考察や補足を行いました。小林教授の専門はスポーツ社会学、スポーツ政策、国際協力論等で、総合政策学部とFLPスポーツ・健康科学プログラム及び地域・公共マネジメントプログラムにおいて学生を指導しています。過去には、JICA海外協力隊員としてバヌアツ共和国で活動した経験があります。

岸さんがアフリカ支援プロジェクト「A-GOAL」を立ち上げたきっかけ

 岸さんは、中央大学在学中は法学部で学びながらFLPスポーツ・健康科学プログラムを履修し、総合政策学部 小林勉教授の元で「スポーツの持つ力」と「地域活性化」「国際貢献」などについて学びました。大学卒業後は民間企業勤務を経て、中央大学大学院総合政策研究科で「スポーツを通じた国際協力」を研究。そしてJICA海外協力隊員として2年間ケニアに赴任し、保護・補導された子どもなどを収容する施設において授業やアクティビティの充実化といった支援活動に従事しました。

 2020年春、新型コロナウイルス感染症が世界的なパンデミックに拡大した頃、岸さんの元に、ケニアでの協力隊員時代にサッカー大会やイベントを共に開催したりするなど、一緒に活動したパートナーのひとり、カディリ・ガルガロさんから連絡が入りました。

▲『A-GOAL』代表の岸 卓巨さん

「コロナウイルスの影響で住民の多くが職を失い、政府の支援物資も行き渡らない。
ウィルスで死ななくても飢餓で死者が出るかもしれない。力を貸してほしい」


 カディリさんは、ケニアの首都ナイロビのスラムで地域サッカークラブを主宰しています。ケニアをはじめとするアフリカでは、地域のスポーツクラブが、スポーツの指導だけでなく、地域課題を解決するための活動にも取り組んでいて、カディリさんのクラブも同様に地域活動に取り組んでいます。

 2020年5月、岸さんはカディリさんの要請に応えるべく仲間を集め、コロナ禍で困難に直面するアフリカの人々を支援するA‐GOALプロジェクトを立ち上げました。しかし、ケニアの街はロックダウンしているし、日本からアフリカに行くことも難しい状況です。A-GOALのメンバーたちは、日本からの支援やアフリカ現地の日系企業の協力と寄付を募り、それらをアフリカの地域スポーツクラブを通じて、コロナ禍で職を失ったり困窮するアフリカの人々に食料や感染予防のための石鹸などを配布してもらう形で支援活動をスタートさせました。
 

『A‐GOAL』の活動をご紹介します

 プロジェクトの名前『A‐GOAL』は、Africa Global Assist with Local Sport Clubsの略称です。アフリカの各地で地元住民自らが運営する地域スポーツクラブを「ハブ」に、日本とアフリカの人々が協働し、社会課題を解決していくプロジェクトです。
 アフリカの地域スポーツクラブは、以前からクラブではサッカー指導だけでなく、地域の清掃活動、ドラッグ・犯罪防止活動、教育機会の提供を行い、子どもたちの居場所としても機能するなど、地域の課題を解決するための活動を行っています。そのため選手・子どもたちやその家庭、学校などに幅広いネットワークを持っています。地域の実情をよく知るスポーツクラブが「ハブ」になることで、本当に困窮している人たちに必要な支援物資を確実に届けることが可能です。

 一方、岸さんの元に集まったA‐GOALの運営メンバーは、情報やアイデアを出し合いながら仲間を増やし、日本からアフリカに行くことが難しい状況の中でできることとして、イベントを開催したりクラウドファンディングを実施するなどして、賛同者を増やし支援の規模を広げていきました。それにより支援内容もますます充実していきました。そして立ち上げから1年半、アフリカのケニア、マラウイ、ナイジェリア等の5か国で22の地域スポーツクラブと協働して、約2600世帯・1万3千人を支援することができました。

 現在は、未だコロナ禍の終息には至っていませんが、A‐GOALの活動は緊急支援的なものから、持続性のある支援につなげていく、さらにはアフリカと日本がお互いに助け合える関係を築くことへとシフトし始めました。「スポーツの力でパートナーシップを築き、スポーツの力で地域コミュニティの活性化につなげていきたい」と、岸さんは熱く語りました。
 

ケニアとリアルタイムで生中継

 ケニアで地域スポーツクラブを主宰するカディリ・ガルガロ(Kadiri Galgalo)さんからスマートフォンのビデオ通話を通じて、リアルタイムに現地の様子を伝えていただき、さらに、講演会に参加する学生からチャットに届いた質問にも答えていただきました。
 カディリさんはケニアのサッカープレミアリーグでプレイしていた元サッカー選手で、U17時代にはケニア代表のキャプテンとして活躍していました。ケガによって引退してからは自らクラブを主宰。自身が「地域コミュニティに育ててもらったからこそ、自分が子どもたちを育てたい」と、2008年からクラブを始めました。クラブではサッカーを指導するだけでなく、学校が休みの時期にはクラブが学校に代わる居場所になっています。そして、子どもたちが犯罪に手を染めたり巻き込まれないように教育するといった活動もしています。他のクラブと一緒に地域課題を解決するためのアイデアを出し合ったりもしているそうです。A-GOALと連携を取るようになり、支援物資の配布だけでなく、子どもたちや地域住民へのさまざまな啓発活動をしやすくなっていると語っていました。

▲カディリさんが主宰するサッカーチームの子どもたち

▲子どもたちに慕われているカディリさん

講演会に参加したFLPスポーツ・健康科学プログラムに所属する学生の感想

●森 宇輝さん 文学部  人文社会学科・社会学専攻3年 (天田ゼミ・FLP小林ゼミ所属)
  Jリーグクラブと連携したプロジェクト運営に興味を抱き、小林先生のゼミでスポーツを通した地域活性化について学んでいます。本日の講演会から、スポーツを通して行われる地域振興、地域コミュニティによって、地域の社会課題を解決することができると感じました。スポーツには助け合いの関係性を築く力があり、この力がSDGsの達成にも必要なのではないかと感じました。特に印象に残っていることは、アフリカの人たちの優しさです。もし私が物資をいただく立場だとしたら、生きていくために物資を欲しいと思いますが、アフリカの人たちは自分よりも困っている人に譲っていました。このような思いやりのある行動は、誰にでもできることではないと感じました。また、岸さんの行動力と優しさにも感銘を受けました。何か実現したいことがあっても、実際に行動に起こせる人は多くないと感じていて、それができる岸さんの凄さを感じました。私も岸さんのように実現したいことを実現するための行動力を身に付け、人間関係を築きたいと思いました。 
 
● 尾原 美姫さん 文学部  人文社会学科・日本史専攻2年(FLP小林ゼミ所属)
 サッカーチームの川崎フロンターレの地域密着活動に興味があり、スポーツで地域活性化をするという小林ゼミの取り組みを、より実践的に自分も学んだみたいと強く感じて、FLPスポーツ・健康科学プログラムを履修しました。2021年度は多摩市に協力してもらいスポーツ施設に関する政策提言を行いました。
 今日の講演会を聞き、アフリカの現状(日本との生活の違いや問題等)は、今まで教科書等から知ることはできていましたが、資金の持ち逃げや飢餓など、日本ではなかなか考えにくいことや日本の外で起こっていることを、実際に現地に携わる方から話を聞いたことでより、現状をリアルに感じることができました。特に、「コロナでは死なないかもしれないが、飢餓で死ぬかもしれない」という現地の方からの声。日本では、コロナに関するニュースでアメリカやヨーロッパのニュースは、ほぼ毎日聞こえてきますが、アフリカの様子、特に生活についての話を耳にする機会があまりなく、飢餓やコロナ感染による死や病棟の圧迫等よりも、日々生きる上での生活に影響が出ていることを知ることができました。
 また、講演会から、自分が今まで学んできたことは、教科書の中にある狭い範囲で形式的なものであると感じました。そのため、今後の生活や活動では、より実践的に、広い視野で物事を見つめ、自分の意見や考えを深めることができるように、今回の経験を活かしていきたいと思います。
 
●大川 航生さん 総合政策学部  国際政策文化学科2年(FLP小林ゼミ所属)
 これまでサッカーを17年間やってきており、自身の競技経験やスポーツの持つ力を社会に活かしたく、その方法を学び実践してみたいと本プログラムに所属し、「スポーツと社会開発」をテーマに学んでいます。学部の授業においても、スポーツ健康政策や世界の各地域の社会文化論など、多様な分野を学び、物事を多角的に捉えられるように日々勉強に励んでいます。
 今日の講演会を拝聴し、コロナ支援を「地域スポーツクラブ」という地域に深く根差し、厚いネットワークを持つ組織をハブに行うことで、より住民のニーズに沿った支援を効果的にできると感じたとともに、SDGsにおける新たなスポーツの社会貢献の形を知ることができました。A-GOALは日本からの支援ではあるものの、現地のスポーツクラブをハブとすることで、その援助が地域コミュニティ内での自立した助け合いや連携の形を生み出し、地域の活性化につながっているということが最も心に残りました。スポーツによるSDGsへの多様な面での貢献の可能性を講演会から学ぶことができ、日頃から現在の社会問題について考えるきっかけとなりました。また同時に、その学びをFLPスポーツ・健康科学プログラム内での活動においても実際に社会の場において実践し、スポーツを通じて地域活性化を目指す際に活かしていきたいと思いました。私自身もA-GOALの活動のようにスポーツによって少子高齢化や地球温暖化などの社会問題にチャレンジし、スポーツのもつ大きな力で社会をよりよくしていきたいです。

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