05 REPORT

理工系人材育成のグローバル対応力の向上シンポジウム開催報告

2022年04月14日

 2022年3月4日(金)、理工系人材育成のグローバル対応力の向上シンポジウム「新時代の理工系グローバル人材育成~中央大学理工学部の取り組みと新しい挑戦~」が、理工学部のFD研修会を兼ねてオンライン形式で開催されました。

 本シンポジウムは、理工学部および理工学研究科が全学の教育力向上事業に応募し採択された2019年度からの3か年のプログラム「理工系人材育成のグローバル対応力の向上」の成果報告会として実施されました。本プログラムは、理工系コミュニティを構成する学部生・大学院生、助教などの若手教員・中堅教員のグローバル対応力を、理工学部・理工学研究所・理工学研究科の三位一体でグローバル基礎力・研究発信力・グローバル教育力を向上させることを目的とした取組です。本シンポジウムは、プログラムの実施責任者である加藤俊一副学長(研究推進本部長)の司会進行のもと、3部構成で行われました。

 冒頭に、河合久中央大学学長および取組責任者である樫山和男前学部長による開会のあいさつ、文部科学省の井上睦子産業連携・地域振興課長より今後の期待を込めた祝辞をいただきました。
 第1部の特別講演講演会では、明治大学においてグローバル化を推進されている横川綾子先生、金沢工業大学にて優れたSTEAM教育を実践されている田中忠芳先生、本学のOGであり企業および国際学会等でご活躍のリコーITソリューションズの矢野絵美様よりご講演をいただきました。
 第2部として、樫山和男前理工学部長より取組の総括として「理工系教育・研究の多面的・総合的なグローバル化取り組み 3年間のふりかえり」、藤井真也特任教授より最近の取り組みとして「グローバル志向のアントレ教育」、山西博之教授より今後に向けた取り組みとして「中大理工のこれからの英語教育」と題した報告が行われました。
 また、第3部のパネル討論会では、明治大学のグローバル化を長年牽引された大六野耕作学長、本プログラムの外部評価のグローバル人材育成教育学会(※2)理事長・西九州大学教授の小野博先生、グローバル人材育成教育学会会長・国際教養大学教授の勝又美智雄先生にご参加いただき、本プログラムの取り組みと今後について忌憚のないご意見・ご助言をいただきました。
 シンポジウムの締めくくりとして、全学のグローバル化を牽引する白井宏副学長(国際センター長/理工学部教授)、次年度からスタートする理工学部の新たなプログラム「国際頭脳循環の潮流に乗り、不確実性社会に立ち向かう高度理工系人材の輩出」の取組責任者となる梅田和昇理工学部長が閉会挨拶を述べました。

 コロナ禍において、オンライン形式での実施となりましたが、多くの教職員の方々に参加をいただき、本学の中長期事業計画ChuoVision2025に掲げている「世界に存在感のある大学」を実現するために、理工学部は今後何をすべきかを議論し認識することができた貴重なシンポジウムとなりました。

 以下で、その一部をご紹介します。
 

 第一部 招待講演 

横川綾子 氏(明治大学  国際連携機構 特任教授、
JAGCE理事、中央大学理工学部非常勤講師 )

 明治大学では、2009年から国際化促進に向けてALL MEIJIで取り組んできたといいます。10年間でブランドを確立し、近年のコロナ共存期、2022年度からの再加速期、それぞれの時期に実施してきたプラン、プロセス、成果等に。コロナ禍で方針変更や思うようにいかないこともあったようですが、具体例を交えながらお話しいただきました。
 学生の海外に出て学びたいという気持ちをサポートし支援する取り組み、語学力向上を目的とするカリキュラム、優秀かつ多様な学生や留学生を確保するための海外協定校との連携や入試に至るまで、大学が一丸となり全力で取り組むことが大切であると語りました。横川先生は中央大学理工学部の非常勤講師として、学生を指導し本学学生の個性をよく理解されておられます。中央大学理工学部の学生への思いや本学部のグローバルな取り組みへの期待が伝わる講演となりました。

▲田中先生が実際に行っているSTEAM授業の様子を紹介しながら
STEAM教育について解説いただきました

田中忠芳 氏(金沢工業大学基礎教育部/数理教育研究センター)

 STEAM教育(※)は「自分」の力で学び、理解し、さらに考える力を育むための教育で、数理的思考力を養うのに適しているといいます。金沢工業大では、STEAM教育をカリキュラムに取り入れ、「社会や生活にある事象を吟味し、積極的に問題を発見、主体的に問題の解決策を考えられる能力」を持つ人材育成に力を入れています。講演では、田中先生が実施するSTEAM教育授業の様子と併せて、その成果を具体的な数値で紹介していただきました。そして、学生の育成と向上のためには、指導者の指導力の育成・向上も必要不可欠であると、講演を締めくくりました。
 
(※)STEAM(スティーム)教育=Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Arts(リベラル・アーツ)、Mathematics(数学)を
統合的に学習する教育手法。頭文字からSTEAMと呼ぶ。 
矢野絵美 氏(中央大学理工学部OG、リコーITソリューションズ、IEEE Region 10 WIE Chair )

 矢野さんがグローバルな活動に意識を向け始めたのは、中央大学OG在学中に学んだ第二外国語のフランス語、そしてフランス短期留学やシンガポールでの国際学会発表が大きく関わっているそうです。在学中は海外で自由自在に話せるほどの高い英語力があったわけでもないそうです。そのような理系女子が、現在では世界最大のエンジニア集団組織であるIEEE(トリプルイー)に所属しアジアの仲間たちをまとめる存在になり、特にSTEM分野において女性の躍進やキャリアを育むための活動を行ったりしています。また、企業では人材育成部門に従事されています。ご自身のさまざまな経験を実例にあげながら、卒業生、理系女子、国際的な活動や人材育成のスペシャリストという視点から理工系学生のグローバル育成について語っていただきました。

▲横川先生は、中央大学理工学部の非常勤講師としても「英語講読演習」で学生を指導。

▲金沢工業大学で田中先生が実際に行う授業の様子を、STEAM教育の実例として紹介していただきました

▲大学時代は加藤先生の元で学んでいた矢野さん。海外留学や海外での学会発表等、意欲的に活動していたそうです

 第二部 理工学部の取り組みの報告

樫山和男 中央大学 前理工学部長(前取組責任者)
 2021年度まで、理工学部におけるグローバル化の取り組みを指揮してきた樫山教授は、「理工学部における理工系教育、研究の多面的・総合的なグローバル化の取り組み」と題し、2019~2021年の3年間に実施してきたグローバル人材育成について具体的に紹介しました。この3年間に、「学部生のグローバル基礎力の向上」として多様な短期体験留学の開発や留学準備学習(教育)を実施し、研究科においては教員のグローバル教育力の向上として「授業の英語化」に向けた個別指導等や「理工系分野のグローバル教育コンピテンシー」の定義等を作成。理工学研究所では、英語での国際研究発信力の向上も目指してきました。コロナ禍により、思うように進まない面もあったようですが、課題がはっきりと見えてきたようです。これまでの取り組みの反省と課題を、今後の新しい取り組みに活かしてほしいと締めくくりました。
藤井真也   中央大学理工学部 特任教授  
 藤井特任教授は「グローバル志向のアントレ教育」と題し、海外から日本を見ることから始めるグローバル人材育成、アントレプレナーシップ教育について語りました。日本企業の海外事業展開や海外市場の現状報告、グローバル人材の不足等、世界の現状や日本企業の実情も紹介。そこから日本企業が海外展開をするために必要なこと、必要とされるグローバル人材像、ビジネスパーソンについてシリコンバレーやインド等と日本人との違い等を分かりやすいPPTを交えて紹介し、世界の潮流に乗り遅れないための「国際頭脳循環の潮流に乗る人材創出」の必要性を語りました。また、この取り組みのためには、学生を学年ごとにどのような流れで成長させてゆくべきか、理工学部のカリキュラムを交えて、学部における人材創出について解説しました。
山西 博之 中央大学理工学部教授
 理工学部の英語教育を担当している山西教授からは、「理工系のこれからの英語教育」として、理工学部で2022年度からスタートした理工学部の「理工グローバル入試」はどのようなものか、英語6年一貫教育で育成する高度な英語運用能力について報告しました。2021年度までの理工学部入試、学部・大学院での英語教育と比較しながら、新しい「英語教育」で実践する「英語における6年一貫教育カリキュラム、英語検定試験の活用や留学準備が、学年ごとにどのようなカリキュラムや選択科目、コース等があり、それらを通じてどのような人材育成を目標とするのか等を分かりやすく説明しました。

 第三部 パネル討論(中央大学へのアドバイス、Q&A)、まとめ

▲明治大学の国際化においては、どのように全学一丸となり実施しているのか、その秘訣も話してくださりました

 パネル討論では、中央大学へのアドバイスと題して、大六野 耕作先生(明治大学 学長、JAGCE 理事、本取組の外部評価委員)、小野 博先生(JAGCE 理事長、本取組の外部評価委員)、勝又 美智雄先生(JAGCE 会長、国際教養大学名誉教授、本取組の外部評価委員)にご登壇いただき、理工系分野の教育におけるグローバル教育の課題やコロナ禍・アフターコロナにおけるグローバル推進、新しい取り組みの方法論、教員の指導力等について、さまざまなご助言をいただきました。
 講演をしていただいた横川綾子先生、田中忠芳先生、矢野絵美さんにもパネリストとしてご参加いただき、樫山和男前理工学部長、藤井真也理工学部特任教授、山西博之理工学部教授も加わり、中央大学理工学部のグローバル化取組みの展望について意見を述べていただきました。さらにチャットに寄せられた多岐に渡る質問についてお答えいただいたほか、大野六明治大学学長と横川綾子先生からは明治大学のグローバル推進の工夫や秘訣等を熱く語っていただきました。
 

指名コメンテータとしてご参加いただいた先生方

▲大六野 耕作先生(明治大学学長、JAGCE理事、本取組の外部評価委員)

▲小野 博先生(JAGCE理事長、本取組の外部評価委員)

▲勝又 美智雄先生(JAGCE会長、国際教養大学名誉教授、本取組の外部評価委員)

本シンポジウムに参加した本学関係者の言葉

▲大学を代表し開会の挨拶を述べた河合 久 学長

 開会時には、河合久中央大学学長および取組責任者である樫山和男前学部長による開会挨拶では、2019~2021年の3年間、理工学部のグローバル人材育成推進の取り組みのために多大なご協力をいただいたお礼と今後の協力への期待などを述べました。
 そして閉会挨拶では、白井宏中央大学副学長(国際センター長、理工学部教授)、樫山前理工学部長の後任として2022年度から理工学部のグローバル教育の推進を取りまとめる梅田和昇理工学部長が、お礼と今後の抱負を述べました。
 2022年度から、理工学部では、新しい取り組みに着手し、その中で、①理工学の確固たる知識と教養を持ち、②高度な英語運用能力 ③新たな価値を創造する精神(アントレプレナーシップ)とを兼ね備えた人材の育成に、これまで以上に取り組み始めました。今回のシンポジウムで、これまで3年間のふりかえりを報告し、さらにご提案いただいたことや語り合われたことを参考に今後の取り組みに生かしていきたいと締めくくりました。

▲本学の国際戦略を取りまとめる、白井 宏 副学長(国際センター長、理工学部教授)

▲新年度からの新たな取り組みにおける新総責任者を担当する、梅田 和昇 理工学部長

▲司会を担当した加藤 俊一 副学長(研究推進本部長、理工学部教授)

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