05 REPORT

【2012年度中央大学国際教育年報】グローバル人材育成推進事業のスタートに寄せて

2014年01月15日

中央大学国際センター所長 大村 雅彦

Ⅰ.はじめに

大学のグローバル化は、近年の国家政策である。グローバル化を進める大学に、国として予算を付けるようになった。いわゆる「グローバル30」の最初の募集に乗り遅れた中央大学は、グローバル化の後発組となった。しかし、中央大学クラスの規模の大学にとって、もはやグローバル対応を避けて通れる時代ではなく、本学の今後の発展のためには、遅ればせながらもグローバル化の道を歩むべきである。そのような政策判断の下に、本学は平成24年度(2012年度)「グローバル人材育成推進事業」に応募し、全学推進型(Aタイプ)として、同年9月末に採択された。これに先立ってグローバル化対応のために同年7月に新たに組織化された「国際連携推進機構」、その意思決定機関たる「国際連携推進会議」、および、同機構の枠内に位置づけられた新「国際センター」を主たる運営リソースとし、学事部、教務総合事務室、各学部事務室、入学センター、広報室などと連携しつつ、教学執行部がリーダーシップを取って、昨秋から全学的にグローバル人材育成推進のための種々の試みを検討・実施していくことになった次第である。それは、基本的には、文科省への申請においてあらかじめ示した種々の事業計画の具体化のための活動である(その枠を越える新たな企画はこの助成の対象ではない)。もちろん、国際センターの業務としては、これらの計画の策定以前から実施しているルーティン業務が相当ある。それらに加えてこの申請計画に盛られた新たな多種多様な業務が雪崩のように押し寄せたというのが、現場の偽らざる実感であろう。もっとも、これに対応するために、国際センターは、旧来の国際交流センターに比べて、相当の組織的強化が図られていることも付言しておかなければならないが、他大学の思い切った組織的対応状況を見ると、必ずしも本学の現状で十分とは思えず、さらなる組織的対応の必要性を感じる。

それはここでは措くとして、以下では、グローバル人材育成推進事業を中心に据えて、本学の国際交流事業の概要を記録しておくことにする。(なお、「グローバル化」ないし「グローバル人材」とはそもそもどういうことを意味するのかについては、栗原文子准教授の別稿における考察をご参照いただければ幸いである。)

Ⅱ.グローバル人材育成推進事業の趣旨と内容

本事業の目的は、知識基盤社会の到来、グローバル化の急速な進展、そしてグローバル人材が求められる場面・局面の多様化に対応するため、「地球規模での諸課題に的確に対応できる多様なグローバル人材を養成すること」にある。本学の構想では、①グローバル・ジェネラリスト、②グローバル・リーダー、③グローバル・スペシャリストの3つの人材像を措定し、育成することとしている。

この3つの人材像の概要は次の通りである。

以上のような事業を、平成24年度から5年間かけて遂行していくことになった(平成24年度は実際には後半の半年しかなかったので、4年半と表現するのがより的確である)。そして、多くの事業計画については年度ごとに数値目標が設定されており(例えば、一定の英語能力をクリアした学生数を各学部で何人育成するか)、特に最終年度にはこれらをクリアする実績をあげることが求められる。 

Ⅲ.平成24年度のグローバル人材育成推進事業の概要

以下では、本学が平成24年度(10月~3月)に実施した事業の概要について、簡単に紹介することとする(紹介の順序は前述のWGやプロジェクトと必ずしも一致していない)。 

①グローバル人材育成WEBサイトの設置と情報発信に関しては、11月より設置に向けた準備を行い、2月1日に特設ページを立ち上げ、グローバル人材育成推進事業の概要と今後の予定を掲載した。2012年度現在の取り組みの全体像を学生のみならず卒業生、他大学を含めた社会全般に対して効果的に伝えることで、本事業の公表・普及に資することができた。引き続き2013年4月1日開設予定の本格版立ち上げの準備を進めた。

②学生向けの冊子『グローバル人材になろう』(仮題)については、正式名称を『Go Global-中央大学から世界へ』と決定し、 3月に発行した。中央大学の育成するグローバル人材の3タイプ(GG、GL、GS)の定義について、⑩とも関連して精査し、OB・OGの声、在学生の活動紹介、学内サポート体制の紹介、学内グローバル環境の紹介、留学プログラム・留学支援の紹介を盛り込んだ内容となっている。3月下旬から在学生、新入生への配布を開始した。

③国際遠隔授業・フィールドワーク科目の開設・実施については、経済学部で、「グローバル・フィールド・スタディーズ」の開講(2013年度)に向けた学則改正を含む準備を進めた。また、新規導入した遠隔授業システムを用いて、文学部SENDプログラムの受講生を対象にマレーシア工科大学との国際遠隔授業を実施した。

④“Introduction to Psychology”等のアカデミック外国語の授業開始については、平成24年度は、“Introduction to historical studies (Ⅱ)”“Introduction to social science (Ⅱ)”“ドイツと日本の現代事情(Ⅱ)”“現代フランス事情(Ⅱ)”“中国語で学ぶ日本と中国(Ⅱ)” を実施した。

⑤ 文学部SENDプログラムについては、受講生を募集し、面接選抜を経て32人の受講生を決定した。受講生は4つのステージのうち、初めのステージとして指定科目を履修した後、 2月~3月にかけてロンドンにある英国国際教育研究所にて日本語教育に関する集中講義(実習を含む)を受講した。なお、平成25年(2013年)夏季に予定されているステージ4における実習先大学の開拓のため、2月~3月にかけてアジア、ヨーロッパ、北米、オーストラリアの各大学と学生受け入れに関する交渉を行った結果、約20の大学で平成25年夏の受け入れが決まり、順調にプログラムの拡充を図ることできた。

⑥ICTを活用した海外大学との共同プログラムの準備については、海外大学との話し合いを通して総合的な共同プログラムとして運営する可能性を探ることとなり、結果として本学学生を協定校に直接派遣する形で行うこととなった。具体的には、平成25年2月にカリフォルニア大学デービス校に29名の学生を派遣して、異なる文化的背景を有する学生同士が共に学修し、異文化理解とコミュニケーション能力涵養に資することができた。このプログラムは、上記⑤の日本語及び日本文化を紹介するSENDプログラムの要件を備えたプログラムとして開設したことにより、参加学生が将来、日本と留学先との掛け橋となるエキスパート人材の育成を目指す契機となった。

⑦留学支援英語プログラムとして大学全体で初めて開講したTOEFL講座は、10日間の講座を2期に渡り2クラス開講でき、79名が受講した。 TOEFL学習用のE-learning教材を用いた授業を展開した結果、受講生はE-learning教材を十分に活用する技術を身に付けられた。TOEFL-iBTの結果が芳しくなかった学生も、CALL教室を自習用に開放しているので、同E-learning教材を使用した自律学修を実施することで、得点を伸ばすことが可能となった。なお、TOEIC講座は、10日の講座を3期に渡り開講でき、延べ499名の受講申込があり、英語力涵養教育を始めることができた。受講最終日に実施したTOEIC-IPテストの結果は、最低220点、最高945点、平均572.5点であった。今後の講座実施に向けても貴重な基礎データを得ることができた。

⑧グローバル・ラウンジ設置、国際的行事、派遣留学イベント等の開催については、(a)多摩キャンパスヒルトップ2階にグローバル・ラウンジ(Gスクエアと命名)を開設。(b)後楽園キャンパス1号館2階にグローバル・ラウンジを開設。(c)10月26日ILO国際労働基準局次長カレン・カーチス氏、11月17日ITと創る賢い地球の未来講演会、11月23日ドイツヴッパータール環境・エネルギー気象研究所元所長ペーター・へニケ氏の講演会に加えて、12月6日フォーリン・プレスセンター理事長赤阪清隆氏の講演会を含むインターナショナル・ウィーク第4回テーマ「国連」を12月3日~8日に実施した。以上のうち、インターナショナル・ウィークでは、国際関係機関の講師による講演会、シンポジウム、学生による国際インターンシップ報告、国連関連機関ポスター展示を多摩キャンパス・後楽園キャンパスにて行った。また、多摩キャンパスと後楽園キャンパスのグローバル・ラウンジについては、3月28日に開設式典を実施し、ハワイ大学のアジア太平洋研究学部長エドワード・シュルツ氏及び赤阪清隆氏から記念講演をいただいたほか、タマサート大学とテレビ会議システムによる同時中継を行い、同法学部長スラサク・リカシットワタナクール氏の講演を実施した。また、留学生1名を含む本学学生3名による体験報告会をあわせて実施した。

グローバル・ラウンジの設置により、海外留学生と日本人学生の相互による語学学修や留学のための情報交換の場を設けることができた。この主体的な学びの場の提供により、キャンパス内でグローバル人材育成の充実を図る体制を構築することができた。また、10/26講演会に150名、11/17講演会に110名、11/23講演会に180名、12/6講演会(3講演)に570名、12/8シンポジウムに80名、12/18講演会に120名の学生が参加し、国際関係の学修はもとより、国際機関へのキャリア形成に対する啓発がなされ、日常的にグローバル社会を実感することができたといえる。

⑨グローバル人材育成教育のための教材・教授法・評価法開発については、「カリキュラム改革及び教材開発WG」のもとに「専門科目を外国語で教えるための教材開発プロジェクト」を設置して、12月より協議を開始し、まずは法律、日本史、国文学を対象とした教材開発に向けた取り組みを始めた。平成24年度は、各分野の本学教員にて協議、取組みを始めた。

⑩Global C-compassの開発(全学)については、「グローバル評価指標の開発及びG-C-compassの開発WG」ならびに「G-C-compassの開発プロジェクト」を設置し、平成24年12月から3つのグローバル人材像の持つ行動特性を抽出し、コンピテンシーという視点から評価指標を定めた。この関係では、全体会3回、分科会9回、合計12回の会議を開催し、評価指標7分野31項目について6段階評価を行うことができる評価指標を完成させた。本学学生のキャリア形成支援の一つとして活用するためのシステム改良(平成25年度実施計画)の準備が整い、グローバル人材へ向けた学生の主体的取り組みを促す基盤形成に繋がった。

⑪教育機器整備については、仕様を精査した上で平成24年12月より導入に向けた準備を行い、多摩キャンパス及び後楽園キャンパスにCALLシステムを導入し、多摩キャンパスに遠隔授業システムを導入した。このCALLシステムにより最新のTOEFL学習用のE-learning教材を活用することができることになり、TOEFL講座や自律学修のために使用できる環境を整備することができた。多摩キャンパスに導入した遠隔授業システムでは、マレーシア工科大学と日本の漫画・アニメをテーマとした遠隔授業を実施でき、専門的知識の修得のみならず、英語コミュニケーション力と受講生間の人間形成を通じた社会通用性の涵養にも繋がった。

⑫新型短期留学・国際インターンシップ・海外拠点整備等のための協定校・国際機関・海外同窓会との交渉開始については、平成24年12月末以降、アジア、ヨーロッパ、北米、オーストラリアの各大学及び大使館、JICA、JETRO、JCII等の機関・団体及び海外現地同窓会(白門会)との交渉を行った。 この交渉は6学部のみならず、キャリアセンターなど、大学全体が行ったことにより、本取組構想に向けた準備が着実に推進された。特に、文学部SENDプログラムのステージ4における日本語補助教員としての本学学生の派遣先について目処が立てられた。また、本取組における海外拠点の設置に向け、ハワイ大学マノア校のキャンパス内に海外オフィスを設置する協議も行われ、海外ネットワーク・海外拠点の活用体制を大きく推進できた。これとは別に、2013年5月にタイ国バンコクにおいて「グローバルCHUOシンポジウム」を開催する準備を進めることができ、関連大学及び諸機関・団体、海外現地同窓会(白門会)の後援を受けて実施する予定である。これらは、海外プログラム等の開発の支援体制整備の強化に繋がるとともに、学生の渡航中の危機管理体制、海外でのキャリアサポート体制の強化に向けて前進できた。

⑬「グローバル人材育成推進アドバイザリーボード」による年度活動結果の点検・評価については、10月以降アドバイザリーボード委員の人選を進め、多様な分野で活躍されている方々から就任の了承をいただいた。メンバーは、赤阪清隆フォーリン・プレスセンター理事長(元国連事務次長)、松浦晃一郎日仏会館理事長(前ユネスコ事務局長)、柳井俊二国際海洋法裁判所長(元駐米大使)、折田正樹元駐英大使、柏木昇日弁連法務研究財団常務理事(元三菱商事法務部長)、田中克郎弁護士(TMI総合法律事務所長)、藤沼亜起公認会計士(日本公認会計士協会前会長)、荒井敬彦元中央大学執行役員会特別顧問の8名である。今後、さらに若干の増員も考えられる。2012年3月にアドバイザリーボード会議の開催に向けてスケジュール調整を図ったが、日程が合わず、2013年4月15日に開催することとなった。このアドバイザリーボードは、原則として年度内に2回開催することとし、本学のグローバル人材育成推進事業その他グローバル化関連の活動につき、自己点検評価の結果をも踏まえて忌憚のない意見を聴取し、活動全体の改善に結びつけていく予定である。

以上に略述した平成24年度の活動は必ずしもすべてを網羅してはいないかも知れないが、これだけみても、わずか半年の短い間にしては、本学はかなりの活動実績をあげてきたといってよかろう。これも各学部・各部署の協力の賜であるが、今後ますますグローバル化の活動を全学的に充実させていかなければ、申請した計画の達成は困難であることも容易に予想されるところである。気を引き締めて事業を展開していかなければならない。

Ⅳ.結びに代えて――法曹の国際化

筆者は、2004年に本学法科大学院に移籍するまでは、22年間にわたって本学法学部に勤務していた。現在も、法学部では専門演習で民事訴訟法を担当している。そのような立場であるので、法学教育との関係に絞って、最後に雑感を付記することをお許しいただきたい。

本学は、伝統的に法曹養成に重きを置く大学と、内外からみられている。そして、この場合の本学出身法曹とは、いわゆる日本的な精密司法を支える裁判官、緻密な捜査に基づく高い有罪率を誇る検察官、及び、多様な国内法律業務を担当する弁護士というのが、かなり一般的なイメージである(誤解を避けるために言っておくが、本学出身で国際的に活躍されている法曹を筆者は何人も知っている。しかし、全体から見れば圧倒的少数である)。これらの法曹は日本社会にとって貴重な役割を果たしているのであるが、率直に言って、いかにもドメスティックである。もちろん、法学部の学生のうち、法曹になるのはむしろ少数であり、企業や公的機関に就職する者が多数を占めている。後者の学生たちは資格試験に縛られずに自由に学びたい分野を学び、留学にも行くことができるはずである。前述したグローバル志向の教育は主としてこうした学生たちが対象となっているといえよう。しかし、こういった学生たちも含めて、本学法学部の学生のイメージは、まじめで誠実なのだけれども、おおむねドメスティック、内向き志向、消極的、というのが、私の受けている印象である。

これはもう、伝統的気風というしかないのかも知れない。高校時代に国際学科という学科に在籍して留学生や留学経験者と日常的に接していた私のゼミ員が、多摩キャンパスに通うようになってからは自分自身が周りの伝統的気風に染まっていったと述懐している。中大のドメスティック度は相当に根強い。「炎の塔」に閉じこもって法律の勉学に明け暮れている学生は、なおさらグローバル化とは縁遠い学生生活を送っている。

しかし、新規法曹を毎年2000人も生み出す時代になっても、本学は従来どおりの法曹を生み出すだけでよいのであろうか。特に増員の著しい弁護士は、もはや少数エリートではなく、他の弁護士との差別化を図らなければ競争に勝てず食っていけない時代になりつつある。何の特徴もない法学部出身者は、法律事務所への就職そのものが難しくなってきている。自分が外国に出なくても、いまや外国人労働者の流入は顕著であり、労働・福祉・婚姻その他さまざまな分野で外国人の権利を実現する法律業務が増えていく。中小企業でさえ東南アジア等に工場を設けることが普通になりつつあり、企業内弁護士を擁しないそのような会社の法律相談のニーズはますます増える。外国語や外国法も学ぶ現実的必要性が迫ってきているのである。社会の変化を見据えた学生の意識改革が求められるのであるが、同時に教育者もそのような状況を学生に伝え、差別化の1つの方法としてグローバル化の努力を学生たちに説かなければならないと感じている。そして、学生のそのような努力は、法律学修に邁進すべき法科大学院への入学後はきわめて困難であり、学部生の時代にこそやってもらいたいと思うのである。

[筆者プロフィール]
大村雅彦(おおむらまさひこ)

中央大学法学部法律学科卒(昭和52年)。中央大学法学部助手、助教授、教授を経て、平成16年から中央大学法務研究科教授、法務研究科長(平成16年~19年)、法学博士。University of Texas School of Law, Cambridge University, University of California Hastings Law Schoolなどで在外研究。専門は民事訴訟法、倒産法、アメリカ司法。中央大学国際センター所長(平成24年~)。

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