02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン メッセージ vol.057

メディアに流されず、ニュースの本質を見抜け

熊坂 隆光さん | 株式会社産経新聞社
代表取締役社長

中央大学法学部 1971年卒業
[掲載日:2016年09月01日]

自由に勉強できる環境は幸せ。学生運動に巻き込まれた大学時代

私が中大で過ごした1970年代前後は学園紛争真っ盛りで、大学は勉強をする雰囲気ではありませんでした。現在の学生の皆さんは、自分で自由に勉強ができて幸せです。私たちの時は授業がなく、試験はレポートでした。まともな卒業式もなくて、ベニヤ板で封鎖された事務室に行くと、穴から卒業証書が出てきました。手を入れると、学部長らしき人(こちらから顔は見えませんので)が握手をする。それが卒業式でした。この経験以来、左翼が嫌いになりました。
1971年に卒業し、産経新聞社に入社。記者時代に大切にしていのは、嫌と言わないことです。フットワークを軽くし、直ぐに出かける。現場主義。自分の目で見て、聞いて、記事にすることを心がけていました。取材は、いかに相手から本音を引き出すか力量が問われます。先輩の一人に、相手と喧嘩をして本音を引き出す人がいましたが、相手の懐に飛び込んで、顔を覚えてもらって、本音を語ってもらう。嘘をついていると分かっても真実がわからないので、本音かどうかを見分けるには、場数を踏むしかありません。

メディアの論調に誤魔化されてはいないか、見極める

新聞にはいろんな種類があります。日刊紙や月刊誌といった刊行間隔の違いや、全国紙、地方紙といった販売地域の違い、スポーツ紙や経済紙、専門紙と言われる業界紙、宗教団体の機関紙なんかもあります。新聞社には世界中に取材網があり、国内には支局、政治部や経済部などがあります。それでもすべてをカバーしきれないことがあるので、通信社から記事を受け取りますし、提携している新聞社とは記事の交換をしています。記者は国会を取材する記者、事件事故を取材する記者、海外特派員、専門記者もたくさんいます。
以前、スキーバスの事故がありましたね。この事故を記事にするために、現場に向かって一報を入れる記者がいます。このほか、バス業界や自動車構造を取材したりする、各分野の専門記者が必要です。いつ、何がどうだったかだけでなく、こうした肉付けをする記者がいないと新聞はなかなか書けません。その一方で締め切りは迫ってくるので、編集長は専門ではない記者に、「専門記者が来るまでに解説を書いてくれ。ナリチュウ原稿を書いてくれ」と頼みます。ああでもない、こうでもないと書いた後、「成り行きが注目されます」と結ぶんです。専門家ではなくてももっともらしい解説記事ができます。ほかにも同じような言葉があるので、私が新人アナウンサーとなって現場をレポートしてみましょう。
「はい、こちら現場です。事件は思わぬ展開となり、予断を許さない情勢が続いております。投げかけた波紋は大きく、関心はいやがうえにも高まっております。今後、どう推移するか成り行きが注目されます。以上、現場から熊坂がお伝えしました」
こうした言葉の最大の問題点は、事件が何なのか分からないことです。要するに、何にでも使える。なぜ私がこんなことを言うかというと、新聞、テレビがこうした常套句を使っている時は要注意だからです。こうした言葉を並べて、本質をずらす、あるいは時間や人手がなかったことを誤魔化しています。新聞、テレビが真実を報じているか考えて、皆さんにはニュースの賢い受け手になっていただきたいです。新聞、テレビが常に正しいわけではないんです。私の考えですが、日本のメディアは、リベラルで左翼的。反戦、平和、反原発がメディアの使命だと思っている。ダブルスタンダードで、一方でこちらのことを言い、もう一方でこちらのことを言う。日本を悪く言う、自虐的なメディアが非常に多いです。
皆さんと意見が異なるかもしれませんが、安全保障法制が成立した時に、一部の新聞、メディアは大キャンペーンをはって日本は戦争ができる国になる、徴兵制が迫る、これは安保法制ではなく戦争法だ、アメリカの戦争に引き込まれる、と意図的にニュースを報道しました。日本は自由と民主主義の国ですから報道は自由ですし、私もこうして意見を批判できるんですが、読者の皆さんは「新聞、メディアはそういうものである、主張するものがあるんだ」と理解したうえでニュースを受け取ってもらいたいです。集団的自衛権は国連で認められた権利で、日本は権利を保有していたにもかかわらず行使できませんでした。こうした事実を隠して特定の政治的意図で紙面を作り、あたかもどこかの国で戦争が起きたら日本が巻き込まれるとした報道は、やはり誤りです。日本が悪いと書いておけばいいと思っているメディアは多いので、注意してもらいたいです。

虚偽を報道し続けた新聞社。メディアの暴走はメディアが抑えなければいけない

新聞の話をする時に伝えておかなければならないのが、朝日新聞が2014年8月に「慰安婦の強制連行の報道は誤りだった」と記事を取り消したこと。当時の社長は責任を取って辞任しました。戦時中の朝鮮半島で、現地の家庭に日本の兵隊が踏み込んで女性をさらい20万人、いまでは40万人と言う人もいますが、強制的に慰安婦にさせたと嘘を語った吉田清治という人がいました。これを、裏付けも取らずに朝日新聞は記事化し、30年もの間、繰り返し報道していました。慰安婦はいましたが、国家権力が家庭に踏み込んで女性をさらい、強制的に慰安婦にさせた事実はありません。女性の人権問題はありますが、嘘を書いてはいけない。新聞とは恐ろしいもので、一度、こうしたことが報道されると世界中に拡散されます。韓国・中国はこれを政治的に利用して、日本に圧力をかける外交上の武器にしています。一回、嘘が広まるとそれを打ち消すのは非常に難しい。日本政府は何をしていたのかというと、軋轢を恐れてあいまいな態度をとり続けていました。産経新聞は、以前から吉田証言はおかしいと訴え続けていたわけですが、孤独な戦いで、右翼だとか女性の人権を無視しているなどと言われました。しかし、批判されても誰かが、これは誤りだと訴えなければいけない。暴走したメディアを止めるのはメディア。メディアはセンセーショナルな話題にすぐに飛びつきますが、取材を怠ってはいけません。
漫画『はだしのゲン』の騒動を覚えておられますか? 松江市の教育委員会が公立の小中学校において『はだしのゲン』の閲覧を制限しました。教員の指導の下では閲覧できたのですが、日本の新聞、テレビは閲覧制限をやめろと大騒ぎしたんです。市の教育委員会は閲覧制限を撤回することになり、日本中の新聞、テレビが「読む自由が戻った」「子どもに平和の本、戻る」とはやしたてたんです。日本には出版の自由がありますが、『はだしのゲン』は子どもには刺激が強すぎる描写で、学校で教えている歴史認識とも反するため、教育上の配慮からオープンでの閲覧を辞めたわけです。この漫画は少年漫画雑誌で連載がスタートしましたが、途中から共産党系の機関誌『文化評論』や日本教職員組合の機関誌『教育評論』などに掲載が切り替わり、内容が偏ってきました。しかし、新聞、テレビはこうしたことを報じません。テレビでは、こんな残酷な漫画を子どもに見せられるわけがない、放送コードに反していると言って漫画にモザイクをかけているんです。矛盾を繰り返しているわけですね。
日本の新聞は反日的で自虐的と言われます。8月になると、産経新聞を除いて各紙が広島をヒロシマと記載する。戦後の民主教育を受けた我々は、片仮名でヒロシマと見ただけで原爆、反戦、平和と刷り込みができているわけです。日本の新聞社編集長は、我々のメンタリティーを動かすなんて簡単。新聞は意図的に作ろうと思えば作れるし、皆さんの気持ちをコントロールすることもできるんです。
民主党政権時代には、鳩山由紀夫元首相が総額12億の資金を受け取っておきながら、申告をしていない典型的な脱税事件がありました。産経新聞は政治家も処分されるべきと主張しましたが、民主党寄りの新聞などは「お母さんからもらったお金で悪いことをして得たお金じゃないのだから、修正して税金を払えばいい。一国の総理を罰するのはおかしい」と言って、結局は訴追されませんでした。しかし、これは言葉のレトリック。我々庶民が脱税して捕まるお金も、「一生懸命に働いて稼いだけれど、納税したら工場の改築ができないな」など、脱税自体は悪いですが、お金は悪くありません。それなのに、悪いお金じゃないから甘く見るというのは、言葉の誤魔化しです。そうしたことが日本の新聞には頻発して見受けられます。こうした実態を皆さんに知っていただきたい。
メディアを批判してきましたが、そうは言っても日本は新聞が自由なことを書けるので、いい国ですね。新聞に自由がない国はあちこちにあり、政治批判をした記者がいなくなってしまう場合もあります。新聞に自由のない国に国民の幸せはないと思っています。

人の力が生み出すニュース、正義感が世の中を動かす

新聞はある意味、歴史を動かすこともできるし、たった一行の見出しが世の中を動かすこともあります。
1980年、北朝鮮の拉致問題を初めて報じたのは産経新聞です。他のメディアは拉致被害者――そのうちの一人は中大OBの蓮池 薫さんですが、彼らの拉致を北朝鮮が認める段階になるまで、ほとんど報じてきませんでした。当時、日本のメディアは北朝鮮を悪く書くことができず、産経新聞が言われていたことは、「日朝友好に大きな障害を起こした。意図的な大誤報をして北朝鮮に難癖を付けている」でした。しかし、事実は事実として書かなければいけない。
1966年、心臓に重い病を抱える女の子・明美ちゃんが、お金がないために手術が受けられずにいました。産経新聞が「貧しいがゆえに死なねばならぬか」と見出しを付け記事にしたところ、大勢の人の心を動かし寄付金が集まりました。明美ちゃんは手術を受け、過分に寄付いただいた分は「明美ちゃん基金」として今も続けられています。
また、1974~1975年に日本を震撼させた連続企業爆破事件がありましたが、犯人逮捕の瞬間を産経新聞が特ダネしたことは、戦後最大の事件取材と言われています。こうして歴史の節目に立ち会うことも、記者生活の醍醐味であると思います。
逆に、SMAP解散報道について、記事にしようかと思っていた日に他社に特ダネを抜かれてしまったケースもある。そういう事を毎日、毎日、繰り返しているんです。新聞を作る立場から言いますと、速報性はインターネットに敵いません。しかし、新聞は速報だけが売りではない。事件報道で言えば、背景や犯人の心理分析なども大切になってくる。新聞社自体はIT化が進んでいますが、取材は絶対にデジタル化できない。現場に行ってカメラマンは写真を撮り、記者は周囲に話を聞く。相手の顔を見て、相手が嫌がる質問もぶつけて表情も見ながらたたみ掛け、面白いニュースが生まれるわけです。朝回り夜回りをして警察官と親しくなって、こういう事件の犯人が捕まるかもしれないとネタを貰うんです。
産経新聞のモットーはタブーを恐れず、群れず、ポピュリズムに流されない。正しいことは正しいと主張する。産経は記者だけではく、印刷、広告、総務や経理といった職種など色々あります。我々が求めているのは新聞が好きな人、好奇心旺盛な人、時代の最前線を覗いてみたい人、人と接するのが好きな人、正義感が勝る人、フットワークが軽い人、専門がある人、こうした人がいたら、是非、産経新聞社に挑戦して頂きたいです。
熊坂隆光さん
株式会社産経新聞社代表取締役社長

1971年法学部卒業、産経新聞社に入社。政治部記者として活躍し、ワシントン支局長、政治部長を経て、東京本社と大阪本社の編集局次部長を歴任。2000年に東京本社編集局長、2008年に常務・大阪本社代表に就任し、2011年より現職を務める。

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