02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン メッセージ vol.005

ファイナンスや情報システムの知識を活かして 世界経済や世界の発展に貢献していきたい

伊藤 敦人さん | OECD(経済開発協力機構)パリ本部
エグゼクティブ(執行)局 予算・財務部セクション・ヘッド

中央大学総合政策学部 政策科学科 1997年卒業
[掲載日:2013年4月1日]

OECDの予算関連案件や財務、ファイナンス・システムの開発を担う

伊藤 敦人さん

私は現在、OECDのパリ本部で、加盟国の拠出額や拠出金ルールの取り決め、経費のモニタリングや分析を行っています。また、OECDのさまざまなプログラム(環境、教育、金融安定化、生活水準の向上、世界貿易、税制)の予算編成や用途について各局と調整し、年間予算策定に取り組んでいます。財務は、国際会計基準IPSASに準じた会計制度で加盟国に対して透明性の高い財務諸表やプロジェクトレポートの策定を行っています。その他、OECDのファイナンス・システム(購買・各種レポーティング・財務会計ソフト)のインフラ整備や開発の仕事も行っています。

国籍や考え方が異なる人たちと働くということ

OECDには現在34カ国が加盟しており、文化や考え方が異なるさまざまな職員がともに働いています。中でもいちばんやりがいに感じるのは、そのような国籍や考え方が異なった人たちや部下と同じ目標を達成したときです。
またOECDの予算や財務を総括している官房部門でもあるので、OECD全体の業務効率化に貢献する点にもやりがいを感じます。一例では、財務諸表や活動レポートが加盟国や監査に評価されたとき、また新たに効率的なファイナンス・システムをOECD全体に導入し、それが見える形で業務の効率化に繋がったときなどです。

多国籍で構成されているOECDでは英語とフランス語が公用語です。会議はもちろん、普段の同僚との会話もすべてこの二言語を同時に使用します。そのため、母国語ではないコミュニケーションがとても重要になってくるわけですから、まずは部署内でも明確で的確な伝達方法にとくに注意を払っています。その積み重ねがOECD全体の潤滑なコミュニケーションにつながります。多文化を理解し、円滑にことを運べるよう創意工夫を凝らすことも、やりがいのひとつになっています。

総合政策学部で培った幅広い知識と専門性

学生時代には、総合政策学部と総合政策研究科に在籍していました。授業やゼミを通して、幅広い知識と自分の核となる専門性を身につけることができ、現在の仕事にも活かされています。
大学院では、大橋正和教授のご指導で、情報システム・ネットワークに注力し、情報ネットワークにリンクしたICチップの導入について研鑽を積みました。さらに、情報処理や情報科学・工学をはじめ、幅広い分野で活躍する教授の下、広い視野で物事を捉える環境にめぐまれた中、英語やフランス語の語学、政策、国政政治、文化にも興味を持ち、学ぶことができました。

グローバル社会となった現代社会では、情報リテラシーと政策、外国語、文化、そしてファイナンスリテラシーは欠かせないものであると実感し、現在のキャリアにも活かされていると自負しています。
そして、自分が専門としたい分野以外にも、幅広い知識が身についたことは、民間や国際機関での政策立案時にも如何なく活かされています。

総合政策学部は、自分の専門分野に特化するだけでなく、国際関係、法律・法学、語学取得の積極的な推奨など、幅広いラインナップが魅力でした。たとえば、文化人類学の授業では、レポートの一環として、電気も水もないセネガルの奥地に数週間滞在し、村の学校で衛生教育を教えるボランティア活動に参加し、共生のテーマについて調査研究しました。このような活動も現在、途上国でのビジネス、あるいは経済発展を考える際などの礎となっています。
また、学生時代、個性的な仲間たちと多く出会え、それが人生において、かけがえのない財産となっています。当時の友人は、さまざまな分野で活躍していますが、今でも変わることなく、いろいろなアイデアや世界情勢、ビジネスにまつわる意見交換をしあう仲です。

グローバルに活躍する人材となるために

第一にグローバル社会で通じる、目的意識をもった「図太い人間」になってほしいと思います。

日本で生活をしていた際に気がついたことですが、日本ではグローバルという言葉だけがただ一人歩きしているのが現状ではないでしょうか。別の言い方をすれば、英語がネイティブの欧米人は自分たちがグローバルで自分たちの仕事の進め方こそグローバルだと思っています。日本は、それに合わせることがグローバルだと思っている人も多いように見えます。語学が上手なだけであることがグローバルではありません。たとえばの話ですが、今後インドや中国が世界をリードするようになったら、グローバルな人間はヒンズー語もしくは中国語が話せて、文化に精通した人がそうなることもありえるでしょう。

私が皆さんにめざしてほしいグローバル人材とは、単に英語がとても上手で仕事ができることだけではなく、世界に日本人として出て、いかに国益・企業の利益、ひいては自分自身のために益になるようなものを見据えて、交渉でき、相手を自分に感化させる、説得できる人材、いわゆる「図太い人間」になれるかということに帰着します。

私はヨーロッパ・アフリカ・アジア含めて6カ国に住み、現在もアメリカ人、イギリス人、フランス人、韓国人、オーストラリア人など多国籍の人と仕事をしたり出会ったりする日常の中、私がその都度感じているのは、日本人がいちばんおとなしいということです。

一人ひとりの日本人の能力は勤勉で大変優れていますが、海外では主張が不足していることで、能力が発揮できなかったり、損をしていることも少なくないのです。

またグローバルフォーラムなどで世界各国のさまざまな学生と話し合う機会でも、残念ながら、他国の学生に比べると日本人の学生はおとなしいので、ナイーブな印象を受けざるをえません。アメリカ人や中国人、フランス人、韓国人、イギリス人、ドイツ人など、世界の他の国々の学生は非常に目的意識がしっかりしており、自国の政治、経済も熟知して、自分の国、自分の将来、自分のやりたいことなどを明確に考え、それを相手にうまく伝える学生が多いように思います。

日本社会で美徳の、おくゆかしさや、「能ある鷹は爪を隠す」は、ここでは通用しないのです。さまざまな国籍の人で構成されている国際社会や欧米社会などは、日本でもなければ、自分と同じ文化土俵でもありません。

今後、グローバルな社会になればなるほどいわゆる「待ち」の体制、だまっていても、誰かが目をくばってくれている、わかってくれているという姿勢では、相手にされなくなります。したがって、大事なのは、知識や語学を修得する以前に、まずは世界で、「図太く」意見を主張して自分の目的のために相手を感化・説得できる人間になる、ということです。

次に、「語学は手段」であることを忘れないということです。

そうは言いながらも、英語はこれからますます世界の言葉になり、必要不可欠になっていくでしょう。
しかし英語もその他の言語も、あくまでコミュニケーションの道具でしかないことを忘れないでください。

これは私の経験からですが、「覚えるために習う」のでなく、自分の「主張を伝えるため」「具体的な目的のため」に、学ぶという意識、いわば自分の趣味でも将来の目標などがあれば、その目的を達成するために言語をツールとして利用するという考え方のほうがコミュニケーション能力が上がると考えています。

最後に、「活躍視野を世界に向ける」こと。
皆さんはいずれ大学を卒業し、社会にはばたいていくと思います。その際に、グローバルな人材という意識をもつと同時に、できれば日本社会で働く、というだけでなく、世界で働ける人間になるためにどうするかを考え、積極的にチャレンジしてほしいと思います。

経済危機の中にあるヨーロッパの学生たちは、もはや自国だけを視野にいれて就職活動をしていません。たとえばフランスの大学では、学生のうちに、自国とは違う国でインターンをして、仕事の仕方と語学を学ぶというのも当たり前になってきています。

日本だけが労働市場ととらえるより、世界が労働市場だと思えば、さらに活躍場所も広がるわけですから、広い視野で自分の生き方を決めることができます。

ぜひとも今の学生のうちに、将来、どういうスキルをつけて、世界でどうはばたいていくのかを、具体的に考えてみてください。

プロフィール

伊藤 敦人(いとう あつひと)
1973年タイのバンコック生まれ。1999年総合政策研究科にて修士取得後、(株)資生堂に入社。海外事業部で北米と欧州での合弁や提携、新規事業開発に従事。2002年にサントリー(株)に転職。欧州ホールディング会社の財務部長としてパリに駐在。欧州子会社の予算・財務管理の他、ヨーロッパでの合弁や新規事業開発に携わる。その後、フランスのコニャックにある子会社にDeputy Director Generalとして出向し、会社全体の経営戦略と運営に携わる。2007年に国際機関OECDの予算・財務マネージメント局のセクション・チーフ、現在に至る。

前へ

次へ