02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソン メッセージ vol.067

数々の国際舞台で働き、たどり着いた思い。
草の根レベルで「困難に直面している人を救いたい」

辻 佳輝さん | 日本赤十字社
事業局救護・福祉部 防災業務課長

法学部 法律学科 1992年卒業
[掲載日:2019年08月20日]

 学生時代は実家のわずかな仕送りを補うために、家庭教師等を含め、さまざまなアルバイトを経験しながら大学に通っていた頃、1991年1月に(第1次)湾岸戦争が勃発し、イラク領内にいるクルド人に人道危機が発生しました。

 当時、国連難民高等弁務官だった緒方貞子さんやカンボジアで国連PKO活動のトップだった明石康さん、といった日本人の国際舞台での活躍をテレビで知りました。その頃から将来は、日本人として自分も国際的な舞台で働きたいと考えるようになり、英語力向上のために、NHKラジオ英語講座の聴講などの自力学習と授業の外書講読に力を入れるようになりました。
 
 大学を卒業してからは、開発協力機関(JICA)や人道援助機関(UNHCR)等での職務に就きました。それらの活動を通じて、 草の根レベルで「困難に直面している人を救いたい」という思いが、より強固になっていきました。そして、世界中に人道活動のネットワークがあり、地域社会に根付いた活動を実施している日本赤十字社にたどりついた次第です。

▲2018年1月インドネシアにて。赤十字ボランティアの少年に、防災の大切さを伝えた際の記念写真

▲2019年8月上旬。大阪で開催した赤十字防災セミナーで防災マップづくりをした際の様子

 日本赤十字社に勤務して10年目を迎えた今年4月より、災害にかかる「事前の備え」の大切さを一般の方々に普及するための業務に就き、防災教育セミナー(通称:赤十字防災セミナー)を全国的に開催しています。

 2011年に発生した東日本大震災以降、日本列島が地震の活動期に入ったと言われ、今後30年以内に、南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模な地震が、70%以上の確率で発生すると言われています。このような状況に対応するため、災害の発生前に自分で備える「自助」や、地域の住民と協力して備える「共助」の活動を、全国展開しています。
 
 現在の業務は、「人のいのちを救うこと」に直結しています。
このことは、私にとって大きなやりがいとなっています。

グローバルに働くこと、そのために必要なスキルとは

▲マレーシアで孤児院を訪問。同院スタッフの方(中央)に記念品を贈呈しました

 海外で活動する上では、多国籍・多文化社会の中で、相手の文化と習慣を尊重しつつ、自分の意見や日本の立場をしっかりと主張できることが必要だと思います。そのような姿勢を堅持しつつ、多国籍チームで「地球規模の課題(グローバル・イシュー)」に取り組むことは、私にとって”グローバルに働くこと”だと感じています。

 グローバルな仕事に従事するために必要なスキルは2つあると思います。それは自分の意思をしっかりと伝えることができる「語学力」と、自国についての正しい歴史認識です。
 
 まず第一に、語学力とりわけ「英語力」が必須です。欧米やアジア諸国等の非日本人との意思疎通の手段は、もちろん日本語ではなく、現在においては英語が基本と言っていいでしょう。英語をぺらぺらと流暢に話すことに重きを置かず、たとえ流暢でなくても、話す内容に中身があれば、相手は真剣にこちらの言うことを聴いてくれます。また、将来国際機関等で働きたいと考えている学生には、高度な英語のライティング能力も必須です。
 
  そして、中身のある話しをするためには、まずもって自国である日本をしっかりと相手に説明できる力が必要です。現在の日本が国際社会の中でどの位置に立っているかを理解しておくことも大切ですが、より重要なことは、日本の歴史、中でも近現代史をしっかりと知っておくことです。海外では、「なぜ日本が戦後急速に発展したのか」と尋ねられることがよくあります。その理由として、特に明治維新以降から、近代国家建設のための先人のたゆまぬ努力があげられます。  
 その一方で、戦前の日本は台湾を始め、朝鮮半島を植民地支配した時代があり、また太平洋戦争では戦場となったアジア・太平洋地域の人々に、多大な苦難を強いました。そのような過去の歴史を経て、私たちが現代を生きていることについて、謙虚に正しい歴史認識を持ってほしいと思います。
 

後輩の皆さんに伝えたいこと

 大学の4年間は、意外に短いものです。学生の本分である学問(大学の授業やゼミ)に注力し、また可能であれば、短期間でもいいので留学することをお薦めします。海外を知ることで、日本をより理解することができます。


いまだから思う、学生時代にやっておいてよかったこと。
その後、いまでも継続していること

 学生時代にやっておいてよかったと思うことは、地道に英語の勉強を続けていたことで今日の自分があり、過去には国連機関でも活動できました。また、さまざまなアルバイトをしたことは実社会の経験につながったように思います。
 また、就職先を選ぶ時や就職する際には、自分のやりたいことをしっかりと決め、ぶれないことも大切です。私自身は、転職を繰り返してきましたが、「困難に直面している人を救いたい」との思いは強く持ち続けていて、一貫してその思いが実現できる職務に従事しています。
 

 そして今後は、自然災害で一人でも多くの方々を救うための防災・減災分野において、よりプロフェッショナルな職員になりたいと思っています。そのためには、現在自分に与えられた職務を懸命に遂行することだと考えています。 

 

▲2018年1月インドネシアにて。インドネシア人の同僚(左)と

■プロフィール■

辻 佳輝(つじ よしてる)さん

●1968年生まれ。大阪府出身。
1992年(平成4年)中央大学法学部法律学科卒業。
卒業時のゼミ:「国際法ゼミ」宮野洋一教授(当時は助教授)
 
●職 歴
①青年海外協力隊員(ミクロネシア駐在)、②JICA職員(任期付き、東京勤務) ③UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員(任期付き、イラク及びマレーシア駐在)
④外務省職員(任期付き、東京勤務)、⑤日本赤十字社職員

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