05 REPORT

【経済学部】特別公開授業「国際開発論」(林 光洋)「世界から電気のない村をなくそう~アジア・アフリカにおける分散電源への挑戦」

2019年12月23日

▲講師を務めた経済学部卒業生の山田 晃一氏(三井物産)と経済学部教授 林 光洋(右)

 2019年9月24日(火)3限目、多摩キャンパス7号館7102教室にて、特別公開授業「世界から電気のない村をなくそう~アジア・アフリカにおける分散電源への挑戦」を開催しました。
 本公開授業は、経済学部教授 林光洋の講義『国際開発論』の⼀環で、三井物産株式会社プロジェクト本部プロジェクト開発第二部第二営業室マネージャーの山田晃一⽒をゲストスピーカーとしてお招きし、実施されました。また、2019年度の中央大学  インターナショナル・ウィーク「アフリカ・アジア諸国」の前哨戦的なイベントとしても開催されました。この講義には、本講義の履修者だけでなく、他学部からも国際開発や民間ビジネスの国際協力などに興味を持つ学⽣が多数出席しました。

▲山田氏は経理研究所、林ゼミ、インカレ活動団体に参加し多忙な大学生だったそうです

 山田氏は中央大学経済学部国際経済学科を2009年に卒業され、同年、三井物産株式会社に入社しました。入社後は経理部決算統括室で決算開示に関わる業務を担当し、2013年からは海外研修制度を利用してエジプトとヨルダンで1年間アラビア語を学んだ後、同社のアンマン(ヨルダン)事務所でアラビア語を使ったオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を経験しました。その後、本社に戻りプロジェクト開発第二部に所属して中東・アフリカ地域を中心とするインフラ開発に携ってきました。
 そして、2019年11月からインドの企業OMC Power社にCFO(最高財務責任者)兼CAO(最高総務責任者)として出向する予定です。インドでは、これまでの経験を活かし、世界の非電力化地域における生活・経済基盤の底上げを目指していくそうです。
 
 今回の授業では、山田氏の学生時代の活動、就職活動を交えながら、商社の進める国際協力・国際開発、海外ビジネスなど、さまざまなトピックについて、語っていただきました。

大学生活~就職

 高校時代までは剣道一筋、大学1年次は経理研究所の「炎の塔」で簿記1級を目指して猛勉強の毎日を過ごしていたという山田氏。大学1年の冬にニューヨークを貧乏旅行したことが転換点になったと言います。ニューヨークの街は見るものすべてがきらびやかな一方で、寝泊りしたハーレムの街で見たのはゴミをあさって暮らす人々。華やかな街の陰と陽、人々の格差を目の当たりにして衝撃を受けたそうです。
 
 そして、帰国後に林光洋ゼミの門をくぐります。ゼミでは、林先生から国際開発について学び、フィリピンでのフィールドワークや大学の休みに途上国に通い続ける熱い仲間たちに刺激を受けながら活動していたそうです。自身もインドへの放浪旅や北京大学での語学留学、インカレ団体の運営など、将来の自分を模索しながらも意欲的に過ごしていました。

 就職活動では総合商社を目指し、三井物産株式会社に入社します。⼊社後は経理部に配属され、年に4回開⽰する決算を担当。決算期は多忙を極めるも、決算後の閑散期にはキリマンジャロ登⼭、マレーシアのキナバル山登山等にも挑戦。公私共に充実した数年間を過ごしました。一方で、「営業もしてみたい」そんな夢が浮かびながら、経理部で将来の自分を模索する時期は続きました。

▲大学1年の冬。初海外でニューヨークへ

▲ハードワークの合間に世界中を飛び回っていました

修業生時代

 転機が訪れたのは、経理部に在籍して3年目のこと。「会計パッケージ」のプレゼンテーションのために上海への出張命令。内勤が中心で語学学習から遠ざかっていた上、社内規定にある海外出張者のTOEIC基準には程遠い成績だったといいます。上司に呆れられながらも短期間で英語を猛勉強し、ようやく基準をクリアして上海に向かうことができました。
 出張を終えてから、同期社員や先輩たちに負けない新たな強みを持とうと、会社の人材育成制度、「海外修業生」制度を利用してアラビア語の習得に挑戦することになりました。1年間のエジプト留学に飛び立ったものの、留学先のカイロではエジプト・クーデター(2013年)が勃発、留学先をヨルダンに移しアラビア語の学習を続けました。
 語学研修後は、三井物産のアンマン(ヨルダン)事務所に所属し、OJT研修で営業業務に携わる経験をしました。しかし、イスラム国がシリアに侵攻した影響で、アンマンの街にはシリア難民があふれていた時期。そのような情勢の中でも、ヨルダンを拠点にヨルダンの電力事業、中東のイラク石油関連事業に力を注ぎました。

 そして営業範囲をアフリカにも広げていき、モロッコでは電力事業、モザンビークやマラウイを中心とする東アフリカでは炭鉱、鉄道、港湾等のインフラ事業にも携わりました。そして、今年11月からは三井物産と提携を結んだインドの「OMC POWER」に出向し、インドを拠点にアジア、中東、アフリカ地域における『分散型太陽光発電事業』を進めていきます。中東、アフリカ、インドでも、山田氏の根底には、「国際開発」「国際協力」に関わりたいという思いがあり、ビジネスの面からその思いを実現させていきます。

▲中東での修業生時代

現在 ~インドから、世界の電気のない村をなくすために

  サブサハラ・アフリカやインドを含む南西アジアでは、約12憶人の人々が電気のない暮らしをしています。電力のない地域を非電化地域と呼びますが、非電化地域であっても、多くの住民が携帯電話を所有し、携帯電話を利用したキャッシュレス決済もできるといいます。住民は、電気が通じる時間帯に充電したり、電化している家庭や施設で充電させてもらったり、地域で協力し合いながら携帯電話を利用しています。

 いまや水、食料の次に必要なものは電気なのです。電気があれば、携帯電話に限らず、さまざまなことができるようになります。火力発電、電気自転車、ショップの夜間営業、冷蔵庫や地下水のろ過装置の使用など。さらには、夜に明かりを灯して子どもが家庭で勉強することもできます。電気の存在は、生活の質や教育、所得の向上にもつながっています。

 非電化地域に対しては、日本と同様の大規模発電所を作り、送電線から各家庭に電気を送ることを目指してきました。しかし、火力発電所の建設には時間と莫大なコストがかかるうえに、発電に要する燃料は高価格かつ安定的でないため、人口密度の低い地域では大規模発電施設建設は難しい状態です。また水力発電に頼る地域では雨量・水量に影響されるなど、電気の安定供給が難しいのが実情です。

■電力市場は集中型からクリーンな分散ネットワーク型に。携帯通信利用者数・携帯電話基地局の増加。
そこから誕生した新しいビジネス

▲インドの村に太陽光発電設備を設置

 世界中で携帯電話が普及するのに伴い、携帯電話基地局(電波塔)も増加しています。アフリカには2017年現在、162万の携帯電話基地局があると報告されていますが、2022年には300万を超えるとみられています。基地局を動かすためには、電気が必要ですが、送電線とつながっていない非電化地域では、24時間のディーゼル発電で作った電気で基地局を動かしています。しかし、燃料費が高額という問題にも悩まされています。

 そんな中で近年注目されているのが「太陽光発電」です。RE(再生可能エネルギー) 技術の向上やコストダウンを背景に、太陽光発電設備を設置し、発電・蓄電した電気を送電する「分散電源」が注目されています。「分散電源」とは、「分散」した小さな地域ごとに太陽光発電で作った電気を地域内で使う、いわば電力を地産地消するものです。
 先進国の中ではアメリカ、新興国ではインドやアフリカなど、従来の大規模発電所建設が困難かつ電気需要の高い地域で設置が進められ、三井物産の電力事業部門もこれらの地域に進出しています。
 
 この「分散電源」の増加により、2016年現在の非電化地域人口(アジア約6憶人・アフリカ約6億人)は、2030年にアジアでは0.5億人に減る一方、アフリカでは爆発的な人口増加により横ばいになると報告されています。

▲「分散型太陽光発電事業」を備えた村のイメージ図
(OMC Powerのウェブサイトより)

   この「分散電源」の広がりは、太陽光発電システムを備えた携帯電話基地局における「分散型太陽光発電事業」という新たなビジネスを生み出しました。太陽光で発電する安価で安定した電気を基地局に送るだけでなく、近隣の住民、学校や病院、ビジネスセクターにも販売するというものです。これにより非電化地域の経済が回り活性化していくという利点もあります。

 三井物産は「分散型太陽光発電事業」を進めるために、インドの携帯電話基地局を中心に発電事業を行うベンチャー企業OMC Powerをビジネスパートナーに迎え、インド北西部を中心とした事業を展開し始めました。さらに中東、アフリカにもこの事業を広めるために、ドバイに新たな拠点を構えたそうです。山田氏はこの事業に従事するために、本年11月よりOMC Powerに出向し、アジア・アフリカにおける「分散型太陽光発電事業」を展開させていくそうです。

後輩に伝えたいこと&質疑応答から

 この授業のまとめに、学生時代に学び、自分を高めることなどについて、山田氏からのアドバイスをいただました。
 
 生きていく中で自分の価値観を持ち大切にすること、自分自身がコントロールできることに集中すること、より良い価値観を優先することはとても重要です。また、スキルとテクニックの違いを知ることも大切です。スキルとは、状況、場面、時間軸に応じてテクニックを使い分けることです。テクニックは学生時代の勉強でもビジネスでも身に付きます。ぜひスキルにつながるテクニックを学んでください。また、良い仕事をするためには競争は避けられません。いろいろな人との競争は自分を高めることにもつながります。そして、自分がその状況から逃げているのかを常に自問自答し、逃げない自分を作ることで自分がより磨かれます。
    ●ビジネスの視点では長期的に付き合えるお客さんを得ること
    ●テクニックとスキルの違いを認識し、スキルにつながるためのテクニックを学ぶこと
    ●競争を避けないこと
    ●逃げない自分を作っていくこと
 授業の最後に設けられた質疑応答では、経理と営業の業務、アラビア語との出会いや修業制度、インドや中東文化、海外ビジネスの流れ、ビジネスパートナーの見つけ方、途上国のインフラ整備、今後のビジネス展開等、多岐に渡る質問が寄せられました。

 アフリカ、中東、インドにおける山田氏の挑戦は、総合商社のネットワークだけでなく、ご自身のEdge(強み)と熱意があるをからこそ展開してゆけるのだと、この講義から感じました。アラビア語や赴任先の文化・慣習を学ぼうとする好奇心、簿記のスペシャリストとして数字から経営を読み取る力、大学・社会人のさまざまな経験がご自身のEdgeとなっていることは間違いありません。聴講した多くの学生たちが自らのキャリアデザインを描く上で大きな参考にもなったようです。

        4限目<経済学部・FLP国際協力プログラム 林光洋ゼミ>
        教えて先輩!~後輩たちの疑問や悩みについてお答えします

 続く4限⽬には、経済学部・FLP国際協⼒プログラムの林光洋ゼミにおいて、 ゼミの大先輩であり、現在は三井物産に勤務している山田晃一氏をお迎えし、座談会が開催されました。

 この夏にフィリピンでのフィールドワークを終えたばかりの3年生を中心に、2年生と4年生も出席しました。座談会で、学生からの素朴な疑問や悩みや不安について山田氏が回答する形ですすめられました。大学時代の過ごし方、就職活動のこと、入社後の不安、国際開発・国際協力、商社の実態、生き方、林ゼミのこと等。ときには山田氏から学生に質問を投げかけたり、笑いを交えながら親身に答えていただきました。ここにその一部をご紹介します。

教えて先輩! ~林ゼミ生から山田先輩に質問

林ゼミでの学び、今活きていることは?アジアを中心に、途上国の経済やビジネスが発展するプロセスについて学べたことは海外でのビジネス展開に役立っている、今でもゼミで使った開発経済学の教科書を読み返して参考にしている。共通の認識を持つ仲間と先輩に出会い、授業やフィールドワークを通じて、価値観や世界で生き抜く方法を学んだ。

・学生時代に悩んだ?先生から高く評価されたい、自分の可能性を知りたい等、たくさん悩んだ。

・経理研究所と林ゼミやほかの活動をどう両立した?…必死になるしかなかった(笑)。簿記試験の1回目で落ちて「ゼミも忙しいから経理研究所を辞めたい」と父親に話したところ「一度やるといったものはやれ!」と一喝され、「ちくしょ~」と根性でやり抜くことができた。自分の中のスイッチを周りにも押してもらえるといい。

・途上国支援ができるセクターはたくさんある中で商社を選んだのは?大学1年のニューヨーク旅行で出会った日本人商社マンへの憧れがきっかけ。就活は商社1本でした。今になってみて、商社の守備範囲は広く、国づくりの土台となる大きな案件もビジネスとしてやってしまう、そんな商社の凄みにおもしろみを感じている。

・語学力について英語=入社時のTOEICスコアは新卒基準より下。海外出張が決まり、社内の海外出張基準720点を超えるために、ハードワークの中、高額な語学学校を利用して短期決戦して突破できた。必死な時にどうすべきか、一度は経験するのはよいと思う。アラビア語=留学(海外就業制度)することが決まった時点でゼロからスタート。1年間エジプトとヨルダンの大学で学んで日常会話はできるようになった。

・一流大学出身者に勝つためには…自分のEdge(強み)を知ることが大切。就活では自分の経験を7割、今後の思いを2~3割伝えた。未来のことより今の自分を正直に表現しよう。しかし、就活は競争、他大学の学生を常に意識し、彼らが学生時代に何を勉強してきたか、どこまでやりこんでいるか等を知るのも大切。入社後、仕事上では学歴はあまり関係ないと思うが、彼らに勝てるもの持っておくと自信につながる

・ゼミと仕事で共通することは何?…チーム活動を意識できるようになる。チームメンバーの立ち位置や各自の役割を考えることはビジネスでも同じです。

・社会で活躍できる人になるには?…ひとつでもEdge(強み)を持とう。どういう人材を目指すのか、どこまで頑張れるのか知る。謙虚さを忘れない。人それぞれの価値観を知るためにも先人に学び、本を読み、人と話すことも大切。

・商社で女子は活躍できる?…三井物産では総合職の2割は女性。セクターによっては男性中心の部門もあるが、イキイキと働く女性はたくさんいて、女性ならではの観点に気づかされることも多い。現在はダイバーシティの転換期。会社ももっと変わるべきだと思う。

・事業の失敗は怖くない?…営業セクションは数字で出てくるので明瞭。海外勤務、特に発展途上国の場合には、国や地域の情勢によって諦めなければならないこともある。インドOMCはスタートしたばかりなので5年後10年後を見据えてやっていく。インフラ整備は利益が大きく、アフリカのモザンビーク鉄道も5,000億円くらい。国造りの象徴ともいえるから、お金も半端ではなかった。

▲FLP林ゼミの学生と。前列中央左が山田氏、右が林教授

山田 晃一 (やまだ こういち)氏 プロフィール

●神奈川県出身
●趣味:旅行・登山・子供と遊ぶこと・一人飲み
●家族:妻・子ども2人
●大切にしていること:先憂後楽、実行すること、
4E(Edge・Energy・ Energize・ Execution)
●大学時代に頑張ったこと:経済学部・林光洋ゼミナールの
活動、経理研究所で簿記1 級を取得、インカレ学生団体Share Project (金融勉強会の開催)2008年度代表、北京大学短期留学、インド・米国放浪等

 
【経 歴】
2009年 3 月:中央大学経済学部国際経済学科卒業(経済学部林光洋ゼミ3期生)
2009年 4 月~:三井物産株式会社入社。経理部決算統括室配属
2013年 6 月~:海外修業生制度にて留学。エジプト/カイロアメリカン大学、ヨルダン/ヨルダン大学
2014年 6 月~:ヨルダン/アンマン事務所配属
2015年 6 月~:プロジェクト開発第二部配属。中東・アフリカインフラ開発。
2019年 11 月~:インド/OMC Power社出向 (CFO 兼 CAO)

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