02 GLOBAL PERSON

グローバル・パーソンを目指す中大生 vol.31

大学生活の分岐点になったオーストラリア研修

橋本 花 さん | 【法学部】アクティブ・ラーニング海外プログラムに参加

法学部 政治学科 3年
[掲載日:2019年07月29日]

どうしたらグローバルな分野への関心を法学部での学びにつなげるのか、
模索しながら1年次を過ごした。友だちの勧めで2年次に参加した
「アクティブ・ラーニング海外プログラム(シドニー)」で流れが変わった。

初めて訪れたオーストラリアで、さまざまな人にインタビューをしたり、
ワークショップに参加したり…、言葉の選び方、視点の広げ方、研究テーマとの向き合い方等をじっくりと学び、充実した時間を過ごすことができた。
学ぶことの面白さを知り、新しいテーマも見つかった。
グローバルな学びを法学部で追求してよかったと実感した。

次のステップは国際インターンシップとイギリスへの長期留学。
卒業までに、法学部でしか学べないことに挑戦し続けていく。
将来、学んだことを活かせる仕事に出会える日を目指して。
 
 通っていた中高一貫校は国際教育に力を入れていて、生徒の半数近くが帰国子女、4月や9月には編入生が来るような学校でした。普段から英語が飛び交うような環境で育ち、高校時代にはアメリカに1年間留学をし、モルモン教を信仰する家庭にホームステイをしました。その時に、ベースに宗教がある暮らしや、男女で異なる生活のルールがある文化を初めて肌で感じ、国際政治や宗教、ジェンダーの分野に興味を持つようになりました。そして国際政治を学ぶために法学部に入学しました。
 
 入学してみると、法学部なので当たり前のことですが、日本の法律などを基礎科目として学ばなければなりません。そこになかなか興味を持てなくて、最初は学びたいこともぼんやりしてしまいました。しかし、2年次3年次には長期留学の機会もあるので、いずれイギリスに長期留学するという目標を支えにしながら、グローバルな関心をベースに、学びたいと思える授業を探していくことにしました。
 

学びたいことが具体化してきた海外研修プログラム

▲オーストラリア博物館からの景色

 2年次になり、前年度「アクティブ・ラーニング海外プログラム(シドニー)」(以下:SALP)に参加してきた友人から、このプログラムがとても勉強になったと聞きました。オーストラリアのシドニーに2週間半滞在し、ニューサウスウェールズ大学(以下:UNSW)を拠点に、多文化主義、人権、市民社会の諸課題等について学べるプログラムです。
 
 移民が多い国なのでグローバル化の縮図を見ることができるのではないか、高校時代から関心のあるジェンダーについても新しい視点で学んでみたい、そして、まだ行ったことのないオーストラリアで学べるチャンスでもある。大学での新しい目的が見えた気がして、参加を決めました。
 
 SALPは専門総合講座という授業で、秋学期から春休みの研修に向けた準備が始まります。毎週、正規の授業1コマでは、いろいろな先生から「先住民の権利」「難民・移民」「ジェンダーと性的多様性」の3つのテーマについて短い講義を受け、それに加えてもう1コマ分のサブゼミで、日本とオーストラリアの事例を比較しながらリサーチしていきます。
 私は自分のテーマとして「ジェンダー」を選び、企業の育児休暇や男女共同参画といった制度に注目してリサーチを始めました。女性の多い企業を中心に調査を進め、育児に特化した制度や企業のチャイルドケア制度について情報を集めました。そして、働き方のフレキシビリティやワーク・ライフ・バランスにも注目しながら、オーストラリアの育児制度や働く女性の意識、先住民文化の子育て方法なども学び、現地研修の計画を立てていきました。
 
 この事前授業の講義は日本語で行う場合もありますが、サブゼミでの議論やプレゼンテーションは主に英語でした。マイク・ニックス先生をはじめとする担当教員との会話も英語です。当時、英語はリーディングの授業しか履修していなかった私にとっては、英語で自分の意見を伝える練習をする重要な機会でした。

待ちに待ったオーストラリア! ギュッと詰まった研修スケジュール!

▲UNSW法学部棟の前で一緒に行った仲間たちと


 秋学期の準備を経て、春休みの2月から3月にかけて2週間半のオーストラリア研修が始まりました。

 シドニーでの毎日は、スケジュールが目白押しでさまざまな活動を行います。全員が参加するアクティビティのほかに、テーマごとのフィールドワークも行います。午前中に訪問先へフィールドワークに行き、午後や夜に仲間と成果をまとめる日もあれば、全員で先住民の文化を学ぶためシドニー湾内の島へクルーズに行ったり、夜にマルディ・グラのパレード(毎年シドニーで開催されるLGBTのパレード)を見学しに行ったり。今回のプログラムを通して、インタビュー先やワークショップなど20ヵ所以 上の場所を訪問しました。
 
 フィールドワークは、事前授業の中で先生方の助けを借りながら訪問先を計画します。自分でアポ取りにも挑戦しましたが、なかなかうまくいかないこともあり、そのような場合には先生の提案してくれた所を訪問することもあれば、就活イベントに潜り込んで直接企業の方にインタビューしたこともありました。

 私は「子どもを持つ女性の働き方や育児制度」がテーマだったので、主にさまざまな働き方をする母親たちにインタビューをしました。研修前のリサーチで読んだ文献によると、日本よりもオーストラリアの方が働く母親へのサポートが進んでいるという記述が多く見られました。しかし実際に話を聞いたり、現地の英語文献を読むと、それほど単純ではない現実が見えてきました。

▲法律事務所にてインタビュー
(写真中央が筆者、右隣がニックス先生)

 訪問先の一つ、シドニーの高層ビルが多く集まる一角にある法律事務所では、フレキシビリティ・マネージャーの女性を含め、2人の働く母親たちから話を聞くことができました。マネージャーは2回の育児休暇取得経験がありますが、上司に理解があるかどうかで働きやすさが大きく変わったということでした。現在は自分の経験も生かして、職場の働きやすさを増すための取り組みをしているそうです。また、2人とも育児休暇後はベビーシッターを利用して、子どもの世話のほか、家事や日々の買い物も頼んでいました。「ベビーシッター代は確かに高いけれども、他の家事に時間を費やさなくて済むので代金に見合っている」と言っていました。
 彼女たちは、オーストラリアの社会の中心で男性と同等に働いている、キャリア志向で専門職に就く母親たちです。しかし、コミュニティ・ハブという場所を訪問して出会った、移民で英語を母語としない母親たちの状況は、法律事務所の女性たちとは異なっていました。コミュニティ・ハブとは、移民の家族、特に小さい子どものいる女性たちが集まって情報交換などができる場所です。母国で高い教育を受け、中には博士号まで取得していても、移民であることや職歴がないために望む仕事になかなか就けない女性たちは、コミュニティ・ハブでボランティアをすることで職歴を積むことができます。また同じ場で子どもの面倒を見てもらうことができ、言語サポートも得られるということでした。
 このほかに、仕事をしていない母親でも子どもの社交の場として利用できるプレイグループも訪問することができ、母親たちと仕事のさまざまな関わり方を見ることができました。
 
 日本とオーストラリアを比較すると、日本も企業や行政の育児休暇制度の内容は種類こそ少ないけれど整っていると感じました。しかし、その内容や取得方法等がきちんと周知されていなかったり、実際に利用しにくいという問題があります。日本で暮らす女性の多くは、社会で「結婚→出産→退職」という一連の流れが一般的になってしまっており、制度を知っていても周りに利用する人がいないと利用しづらい等、社会の風潮の影響も大きいと思いました。
 一方のオーストラリアでは、たくさんの種類のサポート制度があり、女性たちは、日本の女性よりも自分に合うものを選んでサポートを受けているように思いました。同時に、母親と一言で言っても置かれている状況や求めるものがさまざまであることが、オーストラリアのフィールドワークを通して見えてきました。フィールドワークで実際に話を聞くことで、文献から見えてこない実態を見聞きすることができ、調査の大切さを実感することができました。
 

さまざまなアクティビティに参加して幅広い視点を持つことの大切さを学ぶ

▲アボリジニについて学ぶツアーの様子

 多くのアクティビティに参加して、自分のテーマ以外の分野も学ぶことができたのは、本当によい経験になりました。
 
 たとえば、移民について学ぶ機会として、シドニー工科大学(以下:UTS)で行われたAnti-Slavery Australiaというグループのワークショップに参加しました。現在のオーストラリアには奴隷制度はもちろんありませんが、実際は他国から出稼ぎにきた移民たちが酷い状況で労働を強いられているそうです。彼らは言葉が分からないために雇い主に従うしかなく、低賃金でひたすら働き続けているといいます。しかも、そのような移民を支援したり守る制度もほとんどないといいます。先進国であるはずのオーストラリアで今、このようなことが起きているという現実に、ハッとさせられました。私の知らないだけで、もしかしたら日本でも同様のことがあるのかもしれません。このワークショップのおかげで、「人権と労働」という新しいテーマを見つけることができました。
 
 また、性の多様性について学ぶワークショップで行ったロールプレイゲームも印象的でした。学生一人ずつに異なる人物設定が書かれた紙が配られ、一人一人設定された人物になりきって先生の質問に答えるゲームです。といっても言葉で答えるのではありません。全員が教室の真ん中に横一列に並び、質問に対する答えがイエスなら一歩前に、ノーなら一歩後ろに下がります。そのとき、自分がどのような立場の人物なのか、他の人には秘密です。
 私に配られた紙には、「韓国人の21歳の女の子。女性の恋人がいるが家族はそのことを知らない」と書かれていました。「人前でパートナーと手をつなげますか」「両親や親戚にパートナーのことを話せますか」などの質問に、わたしは「ノー」と答えて後ろに下がり続けました。
 すべての質問が終わったとき、先頭と最後尾には大きな差が開いていて、わたしは後ろから2番目の位置でした。ゲーム後、各自与えられた設定人物を明かし、前に進めた人と後ろに下がった人との違いを全員で考えました。先頭になったのは、「地方出身の女子学生で、同級生の男の子とつきあっている」設定の学生でした。同じ年代の女性という設定にもかかわらず、私は「同性の恋人」がいることで後ろに取り残されてしまいました。家族やコミュニティのサポートを受けられず、孤立してしまう性的少数者の立場を実感することができました。

 このワークショップの中で、講師のBen Oh氏は、何度も”Who is society?(社会とは一体誰なのか)”とおっしゃっていました。誰かの「当たり前」を社会が「当たり前」ではなくしていて、この状況を変えるためには誰かが声を上げなければいけない。生まれた時は誰しも同じ位置に立ってスタートしているはずなのに、日々の問いかけの一つ一つに答えていくうちにどんどん差が開いてしまうのです。前にいる人は後ろの人の存在に全く気が付かないで進んでいく、だからこそ、後ろを振り返って違う視点から物事を考える必要があるというメッセージをしっかり受け取ることができました。
 また、自分たちが住む国が先進国だからといって、「偉い」というようなことはなく、その国にも悪い面がたくさんあるということ常にベースに置き、思考も発言も、いろいろな方面から物事を見ていくことの大切さを教わりました。

▲プレイグループで母親たちにインタビュー

▲強制労働について学ぶワークショップ(UTS)

▲UTSではグループディスカッションも実施

オーストラリアで学んできたこと

▲オペラハウスでは、参加者全員でトゥーランドットを鑑賞しました

 研修中に参加したさまざまなアクティビティやフィールドワークでは、事前準備をしていってもうまくいかないこともたくさんあったし、想定とは全然違う展開になることもありました。
 たとえば、UNSWの教授にインタビューしたときは、事前に自分のテーマに関係する先生の著作を読んで質問を考えていったのに、先生はその点に一切触れることもなく、ご自身のビジョンや他のテーマについてお話をされました。事前準備の際に、自分の研究テーマをピンポイントにフォーカスしすぎず、もう少しテーマを広げて準備すればよかったと感じました。
また、英語のネイティブスピーカーとの会話では、彼らの話すスピードが速くて独特な発音をなかなか聞き取れませんでした。録音した音声を聞いて書き起こすことでなんとかなりましたが、同じ言語でも国や地域によって違いがあることを体感することができました。

 このように想定外の展開や失敗にも遭遇しましたが、ニックス先生や仲間たちの的確なアドバイスのおかげで何度も乗り越えることができました。そして、新しいことを発見し、新しい問題やテーマを見つけることができました。少人数のプログラムのため、丁寧に指導してもらえるだけでなく、仲間同士との距離が近く気軽に話し合える環境で、実りの多い研修となりました。
 
 3年生になってからは、国際インターンシップという授業を履修し、この夏にスイスにあるILO(国際労働機関)を訪問する予定で、その準備をしています。そこでは、新しい働き方に焦点を当て、ギグエコノミーやギグワーカー※の労働者としての権利などについてじっくりと学んでこようと思っています。

 その後すぐにイギリスでの1セメスター留学が控えていて、シェフィールド大学の社会学部に留学します。当初から興味のあった「ジェンダー」に加えて、国際インターンシップでも深く学ぶ予定の「労働」というテーマも学んでくるつもりです。日本の大学とはまた異なる専門的な科目を多く履修できそうなので、渡航を楽しみにしながら事前の勉強に追われています。イギリスでもたくさん本を読んで、授業に力を入れて勉強し、さらに大きく成長してきたいです。

 ※ギグエコノミー=民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)や配車サービスのUBER(ウーバー)など、終身雇用ではなく「ギグ(単発や短期の仕事)」を基盤とした新しい労働形態。 ギグワーカーはそこで働く労働者。
 

学ぶことの楽しさを知り、仲間ができて、大学が自分の居場所になった

 中央大学に入学してから、長い間、学びたいことが漠然としていましたが、SALPに参加した2年次の後半から、どんどん前向きに考えられるようになりました。所属しているサークルのESSでは、今は留学生セクションのサブチーフをしています。そこで出会った友人が、秋に留学するシェフィールド大学からの留学生だったりと、新しい縁も生まれました。

 3年次の授業では、アメリカや中国、世界各国の政治や法律についてより専門的に学ぶことが多くなり、労働法にも興味を持つようになりました。今履修している北村先生の国際人権法ゼミは、毎週異なるテーマで人権について取り上げるため、とても勉強になります。

 将来は日本の魅力や技術を世界に発信していけるような仕事ができたらと思っています。さまざまな関わり方があるので、まだ具体的には決めていませんが、これまでの学びを生かし、仕事を通じて社会に貢献できるような企業を目指しています。
 

法学部の留学プログラム<アクティブ・ラーニング海外プログラムのここが良い!>

・限られた期間の中で自分の研究の調査を主体的に行うため、「何を本当に学びたいか、そのためにどう動くべきか」と、常に計画的に考える力がつく。
・複数の面から物事をみることの大切さを学ぶことができる。
・事前の授業から英語で学べる。
・少人数なので、他の履修生や先生との距離が近く、助け合いながら成長できる。

<橋本さんの大学での海外活動歴>

●2019年2月~3月:アクティブ・ラーニング海外プログラム(オーストラリア)

<これからの活動予定>
●2019年8月~9月:国際インターンシップ(スイス)
●2019年9月~2020年2月:1セメスター留学 =シェフィールド大学(イギリス)
 
<利用した奨学金>
法学部やる気応援奨学金

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